【蒼穹のファフナー】同化欲求 Part1でフェストゥムの因子を持つ人間がどのような状況で、どんな人間に対して同化欲求を抱くのかについて見てきた。
シリコン型生命体フェストゥムは最終的に宇宙を無に帰す事で、より高い次元へ移行させることを目的としている。
【フェストゥムの目的】(※1)
フェストゥムが地球に来て人類と触れ合った結果、別の目的で同化という行為を使うように変化した。
●同化=無に帰す
・北極ミール
一期15話、スフィンクス型に姿を変えたイドゥン(※2)は、個を持ちつつあるミョルニアを食べ、その存在を消そうとした。
しかし、ミョルニアという存在を消すことができず、ミョルニアは北極ミールと拮抗し、再び存在することになった。しかし、北極ミールはミョルニアのコアを時間をかけて消そうとした。
ミョルニア「しかしこのままではミールの内部に残されたコアの消滅に伴い、
私も最初から存在しなかった者として消えるほかない」
一期24話
北極ミールにとって同化とは、相手の存在を消してなかったことにする行為ということになる。
・春日井甲洋
甲洋はフェストゥムに捕まった時に中枢神経だけ同化され、フェストゥムになってしまった。甲洋がフェストゥムに元に帰りたがっていたため、アルヴィスは甲洋の凍結処分を決定したが、乙姫がそれを阻止し、甲洋を昏睡状態から目覚めさせた。しかし、目覚めた甲洋は不安定で人間の部分とフェストゥムの部分が常に優位を争っている状態にあった。甲洋の中の人間の部分が主導権を握っている時は人間に対して同化欲求を抱かなかったが、フェストゥムの部分が優位な時は人間に対して同化欲求を抱いた。甲洋の中の人間の部分とフェストゥムの部分は瞬時に入れ替わるため、突然、近くにいた真矢とショコラを追ってきたカノンに対して「あなたはそこにいますか」(※3)と言って同化しようとした。
人間を見たら「あなたはそこにいますか」と問いかけた甲洋の行動はスフィンク型フェストゥムの行動そのものである。
・ボレアリオス・ミール
『HEAVEN AND EARTH』では竜宮島にスフィンクス型フェストゥムでありながら人の姿をした来主操がやってきた。来主操はボレアリオス・ミールからの使者であり、ボレアリオス・ミールからの伝言を竜宮島の住人に伝えた。
操「俺に君たちのコアを同化させて」
史彦「なんだと」
操「そうすれば戦ったりせず、ここのミールを俺たちのミールが同化できる。
俺たちに痛みや死の恐怖を与えたのはこの島だから」
史彦「我々ごとお前たちの痛みを消すと」
『HEAVEN AND EARTH』
北極ミールと同じく、この時の同化とは相手を消すことを意味していた。
●同化≠無に帰す
・イドゥンと総士
イドゥンは人間の中に紛れ込み、人間のふりをしていたミョルニアと接触することによって個を獲得しつつあった。イドゥンは同化を人間を無に帰す以外の目的で使った。
イドゥンはジークフリード・システムを奪うために竜宮島にやってきたが、ジークフリード・システムだけでなく、搭乗者である皆城総士をも奪っていった。
イドゥンにとってジークフリード・システムは異物であり、興味深い対象でもあった。そして、中にいる皆城総士という存在も…。個として存在するフェストゥムと人類の融合体を理解すべく、そのサンプルを北極に連れ帰った。
■ジークフリード・システムとイドゥン(※4)
そう、イドゥンはジークフリード・システムだけでなく、皆城総士という存在にも興味があったのだ。
ミョルニア「ミールはお前たちの力を手に入れようとしたが、
我々にあれは使用できない」
一期24話
フェストゥムにはジークフリード・システムは使えなかったが、イドゥンはシステムの搭乗者である皆城総士を同化しようとした。つまり、皆城総士という存在に興味のあったイドゥンは皆城総士を消すのではなく、理解するために同化しようとしたのだろうか。イドゥンは最初、北極ミールの端末にしかすぎなかったが、ミョルニアと言葉を交わすという人間のやり方で情報交換するようになり、個を獲得しつつあった。イドゥンが完全に個を獲得したのは、総士によって痛みによって存在することを教えられた時だった。
イドゥン「戻せ、我々を無へ戻せ!」
一期26話
イドゥンはミョルニアの次に個を獲得したフェストゥムだったが、最終的な行方は具体的に描かれていない。しかし、イドゥンの総士に対する好奇心が同化を無に帰す以外の用途に使えることを示した。そして、イドゥンが総士を同化した結果、フェストゥムに進化をもたらすことになった。
エメリー「あなたはフェストゥムにとって抜くことのできない棘。
痛みを教える存在だとわたしたちのミールが言ってます」
総士「そのせいで敵を別の存在に進化させてしまった。
責任の一端は僕にある」
『EXODUS』14話
総士は自身がフェストゥムの世界に行ったことでフェストゥムは進化したと言っているが、フェストゥムは総士を通じて何を学んだのだろうか。
元来、同化は相手を無に帰す以外の力を持っていた。
他の生命体と同化することですべてが同一のものになり、またその能力を手に入れることでフェストゥム自体の進化も意味している。
【フェストゥムの目的】(※5)
しかし、一期では同化の持つこの力についてはほとんど描かれなかった。
総士「人類が知る限りこの宇宙で存在が無にのまれても、
存在した情報は失われない」
『EXODUS』15話
総士を通してフェストゥムはおそらく人間の死=同化ではないこと、さらに同化して無に帰した人間がが存在した情報は残るということを知った。フェストゥムが敵である人間について深く知った結果、同化がもともと持っていた力を使うことができるようになったのではないだろうか。その結果、『EXODUS』では相手の持っている情報(=力)を獲得するために同化するというフェストゥムが現れるようになった。
アザゼル型フェストゥムのアビエイターは同化を相手の力を獲得するための手段として使った。ロードランナーはザインとニヒトの攻撃により、コアは破壊されなかったものの、大きなダメージを受け、その場から逃走した。しかし、逃走している途中、アビエイターと遭遇。アビエイターは弱ったロードランナーを難なく同化した。
アビエイターはロードランナーの体を無に帰したが、ロードランナーのコアとその力(人類の核攻撃から学んだ熱波の発生(※6))を獲得した。
ボレアリオス・ミールは『HEAVEN AND EARTH』で痛みを教えた竜宮島のミールを消すために同化しようとしていた。しかし『EXODUS』で、ボレアリオス・ミールのコアである来主操は美羽を手助けした代償として美羽を同化することを要求した。
操「ねえ、助けたんだから君を同化してもいいよね」
エメリー「美羽」
弓子「そんな約束をしたの」
美羽「うん」
操「君の力をもらえるのは嬉しい」
『EXODUS』22話
『HEAVEN AND EARTH』の時と同じくボレアリオス・ミールは相変わらず同化能力を持ち、自分の望みをかなえるためにその力を使おうとしているが、その目的が「相手を無に帰すもの」から「相手の力を獲得するもの」に変化していた。
ボレアリオス・ミールのコアである来主操とアビエイターの行動を見ると、同化の目的が相手を無に帰すことから相手が持っている情報を獲得するものに変化したことがわかる。
・新国連とベイグラント
その一方、新国連に利用されていたベイグラントはボレアリオス・ミール、アビエイターとは違う形で同化による相手の力の獲得を行っている。ベイグラントは人類軍が作ったファフナー(マークレゾン)を使い、『EXODUS』23話でクローラーを、『EXODUS』24話でウォーカーを同化した。
『EXODUS』23話、クローラーを同化。
『EXODUS』24話、ウォーカーを同化。
しかし、ベイグラントはボレアリオス・ミールやアビエイターのように同化によって相手を無に帰し、相手の持っている力を獲得するのではなく、同化した相手を無に帰さず、自らの考えに従う存在に作り変えて、その力を使役することにした。新国連は必要に応じてパペットの記憶を消し、新国連の意に従う存在へと作り変えていたが、ベイグラントは新国連のやり方を模倣した。
・ミョルニアと竜宮島のミール
北極ミールと拮抗したためミョルニアは自分が属するべき場所を失い、ボレアリオス・ミールに捕らわれてしまった。ボレアリオス・ミールから開放された時、竜宮島のコアは危機的状況にあることを知り、ミョルニアは自分の果たすべき役割を見つけ、竜宮島に帰ってきた。
ミョルニア「私とミールの同期を。
私がコアの生命を維持する」
ミョルニア「いや、以前のコアに教えられたからだ。
この島が、私の帰るべき場所だと」
『HEAVEN AND EARTH』
ミョルニアは自分が属するべき場所である竜宮島を守るために、自分の命と引き換えにコアの命を守った。そして、ミョルニアは真壁紅音と同じように自ら同化されることを望み、竜宮島のコアがミョルニアを同化したため、ミョルニアは消滅した。しかし、岩戸の中にはミョルニアが存在したという証が残っていた。
この「肉体は残らないが、その人が身につけていた品を残す」という考え方は『EXODUS』で引き継がれた。『EXODUS』の開始時に存在していない道生は銃、エメリーは弟は靴という形で存在していた。さらに機体が新国連に鹵獲され生死不明となった広登はビデオカメラという形で暉のそばにいた。さらに同化という形でいなくなった人は『HEAVEN AND EARTH』のミョルニアのようにその人が身につけていた品が残った。暉のお守り、弓子の指輪、エメリーの弟の靴、総士のシナジェティック・スーツ(※7)。まるで竜宮島のミールがミョルニアを通してゆかりの品を残すことを学んだかのように。事実、人間によって殺され、竜宮島に遺体が返還された広登の場合、彼が持っていたビデオカメラは家族に手渡されることはなかった。広登のビデオカメラはその役割を引き継いだ暉が竜宮島に持ち帰り、里奈が受け取った。そして、竜宮島の人間が新国連の支配する世界を知り、世界と和解するための道具として使われた。
ミョルニア「ここを構成する物質は私と関連していない。
ただ、かつてここにいた記憶に導かれたのだろう」
乙姫「やっぱりあなたは人の記憶というものがどんなものか
もう理解しているんだ」
一期24話
フェストゥムでありながら人の記憶を理解していたミョルニアが竜宮島のコアに同化されたことで、竜宮島のミールにも変化が現れた。ある日突然、キールブロックに未知のフィールドが現れ、アルヴィスはそれをゴルディアス結晶と名付けた。ゴルディアス結晶を解析した結果、ゴルディアス結晶は総士の言う存在と無の地平線が実体化したものであり、いなくなった人間とフェストゥムの情報を蓄積していた。
総士「(無と存在の狭間にある)事象の地平線は
存在があったという情報の分だけ広がる」
一騎「誰かがいなくなるたびにそいつがいた証拠が世界に残るって言うのか」
『EXODUS』18話
立上真幸「ゴルディアス結晶の成長とファフナーが倒した数が一致した」
イアン「人の命も。
4名の帰還者の死亡後も体積が増大。
計算ではさらに一名分」
西尾行美「堂間の息子が帰ったと里奈が言った。
敵も味方も消えた命の分だけ成長する。
島にとっての存在と無の地平線だ」
『EXODUS』17話
この世に存在と無の地平線を実体化させたミールは竜宮島とベイグラントだった。竜宮島は瀬戸内海ミールを所有、ベイグラントのコアは元々海神島のコアといずれも瀬戸内海ミールと深いかかわりのある存在だった。
●終わりに
書き終わった時に頭に浮かんだのがこの台詞だった。
西尾行美「ただが彼女がきっかけでミールが変化したのは確かさ。
その変化は今もまだ続いているのかもね」
『EXODUS』3話
地球上にあるミールは瀬戸内海ミールは自ら同化することを望んだコア(乙姫)と北極ミールから生まれたフェストゥム(ミョルニア)を同化することで進化し、北極ミールは自ら同化することを人間(真壁紅音)と竜宮島のミール(総士)を同化することで進化した。一方、人間側は「同化現象を積極的な進化と捉える」(※8)竜宮島と物語開始時から一貫して人間がフェストゥムと融合した存在になることを拒む新国連が長年、対立している。生き延びるためにフェストゥムとの融合した存在に変化を選んだ竜宮島が新国連とフェストゥムの間を仲介し(※9)、消極的であっても最終的には人間とフェストゥムの融合を受け入れることになるのだろう。
※1 『蒼穹のファフナー』DVD2巻付属のリーフレットより引用。
※2 『蒼穹のファフナー 完全ビジュアルブック』(2005年、メディアワークス)、『蒼穹のファフナー メモリアルブック』(2006年、ホビージャパン)にはイドゥン・スフィンクス型と記載されている。
※4 『蒼穹のファフナー』DVD9巻付属のリーフレットより引用。
※5 『蒼穹のファフナー』DVD2巻付属のリーフレットより引用。
※6 『蒼穹のファフナー EXODUS Blu-ray BOX』のブックレットのアザゼル型ロードランナーの項に「人類の核攻撃から熱波の発生の学習」と記載されている。
※7 カノンは同化されていなくなったが、ミールの意志で一品残したのではなく、今ここにいない人にメッセージを伝えるために、自分の意志で机の上に帽子を置き、それが遺品となった。
※9 竜宮島回覧板 EXODUS第1号に「遠見真矢『同胞殺しと紛争調停者』へ」という一文がある。
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