竜宮島で起きたことを視聴者と同じ視点で見ていた真矢が、『蒼穹のファフナー』の中で視聴者と同じ視点を持つキャラクターでした。
●物語の起点と終点
一期1話、真矢は翔子と一緒に、フェストゥムが竜宮島を攻撃する瞬間を見た。
この攻撃により、物語の主人公である一騎はファフナーに乗って戦うことになった。
『THE BEYOND』12話、真矢はフェストゥムとの戦いが終わった後、一騎が甲洋と一緒に竜宮島から旅立つ姿を見送った。
竜宮島に平和が訪れた時、物語の主人公である一騎は甲洋ととも竜宮島を去り、物語は幕を下ろした。
●総士と真矢
・髪
総士は一騎に髪を切らない理由を尋ね、一騎はその理由を答えた。
総士「伸びたな、切ったらどうだ」
一騎「これも俺の一部で、生きてるって思うと切る気がしないんだ」
『EXODUS』3話
総士は一騎に髪を切る理由を尋ね、一騎はその理由を答えた。
総士「何をしてるんだ」
一騎「髪を切ろうと思って」
総士「切る気がしないんじゃなかったのか」
一騎「自分だけ命を守ってる場合じゃない」
『EXODUS』18話
真矢は一騎が髪を切ったことに気がついた時、その理由を訊ねなかった。そのため、真矢は一騎が髪を切った理由をしらない。
真矢「一騎くん、髪切ったんだ」
一騎「えっ、ああ」
真矢「今気づくなんておかしいね」
一騎「変か」
真矢「似合うよ」
『EXODUS』19話
以上の会話から、総士は一騎が髪を切らない理由と髪を切った理由を知っているが、真矢は一騎が髪を切った理由を知らないということになります。
・祝福
総士はハバロフスクで一騎と一緒に戦い、竜宮島に帰ったため、一騎がアビエイターとの戦いで昏睡状態になったことを知っていた。
一騎が眠っている部屋で史彦、ナレイン将軍、総士が話をしていた。
そこに織姫が入ってきた。
織姫は史彦とナレイン将軍に島が一騎を祝福すると告げた。
織姫「島が一騎を祝福する。
一騎が望む限り」
『EXODUS』22話
総士が真矢と広登を連れ戻すために新国連のダーウィン基地へ旅立つ時、一騎はまだ眠っていた。
総士「必ず二人を連れ戻す。
お前も戻れ。
まだ僕らの時間は終わっていない、一騎」
『EXODUS』23話
総士が真矢を竜宮島に連れて帰ってきた時、一騎は目覚めていた。総士は一騎を見た瞬間、一騎が変わったこと(島の祝福を受けたこと)に気がついた。
この時、総士は遠回しな言い方をした。
総士「帰ってきたな、一騎」
『EXODUS』25話
真矢はハバロフスクで一騎と別々の場所で戦った。真矢はその時、新国連の捕虜になり、ダーウィン基地に連れて行かれたので、一騎がアビエイターとの戦いで昏睡状態になったことを知らない。真矢が新国連のダーウィン基地から竜宮島に帰ってきた時、一騎が変わったこと(島の祝福を受けたこと)に気がつかなかった。
一騎「おかえり、遠見。
広登は」
『EXODUS』25話
以上の描写から、総士は竜宮島にいない時に一騎が変わったことに気がついたが、真矢は竜宮島にいない時に一騎が変わったことに気がつかなったということになります。
真矢は一騎が髪を切った理由を聞かず、一騎が変わったことに気がついていないことから、真矢は視聴者と同じように遠くから一騎を見ていることしかできないキャラクターとして描かれていることがわかります。
●揺れ動く考え
一期26話、体を失った総士の心は無の中に行くことになったが、一騎は無の中に行くことができない。総士は一騎にこの世に帰ってくることを約束した。
総士「僕の体は、もうほとんど残っていないんだ、一騎」
総士「僕は一度、フェストゥムの側に行く。
そして、再び、自分の存在を作り出す。
どれほど時間が掛かるかわからないが、必ず」
一期26話
『THE BEYOND』12話、一騎は旅に出ることになったが、真矢は一騎のいる場所には行けない。一騎は真矢に竜宮島に帰ってくると約束した。
真矢「私じゃ一騎君のいる場所には行けないから、
ここで帰る場所を守ってるね。
たまには帰ってきてね、竜宮島に」
一騎「約束するよ」
『THE BEYOND』12話
『EXODUS』26話、総士はマークニヒトのコックピットに子どもを残した。
『THE BEYOND』4話、一騎は偽竜宮島から連れ戻したこそうしを真矢に託した。
一騎「総士はあれに乗ったのか」
真矢「うん、ルヴィの考え。
あの子、一騎くんをとても憎んでる」
一騎「あいつを頼む」
『THE BEYOND』4話
一期26話から2年後、総士は一騎との約束通り、存在を取り戻して竜宮島に帰還しました(※1)。一方『EXODUS』26話から5年後、一騎が総士の灯籠を流したことで、総士はこの世にもういない人になりました(※2)。つまり『THE BEYOND』終了時の真矢は、一期26話の一騎と『EXODUS』26話の一騎と同じ立場になったところで、物語が終わったということになります。真矢=視聴者であるため、視聴者の出した答えが真矢の出した答えになるのです。
冲方丁は真矢を「最後方にいるのでもっとも遠い場所から全員を見ながら、乙姫とは違い、人間としての弱さをもたざるをえない」(※3)と評していましたが、真矢は視聴者と同じく、遠い場所から主人公である一騎を見ていることしかできないキャラクターでした。
※1 一期26話の後日譚である『HEAVEN AND EARTH』で描かれた。
※2 『EXODUS』26話の後日譚である『THE BEYOND』12話で描かれた。
※3 『Charada ! (きゃらだ) 』Vol.1(2006年、宙出版)より引用。
関連記事
・【物語の読み方】物語を見る視点 Part2
・【物語の読み方】物語を見る視点 Part3