『THE BEYOND』の特報をイベント会場で見たとき、1分くらいの映像だと思ったのですが、YouTubeにアップされた映像を見たら30秒しかなかったので驚きました。
2018年8月に公開された映像は、2017年の総士生誕祭で公開されたPVに追加する内容で、『THE BEYOND』に対する考え方には大きな変化はありませんでした。
・平和を享受
こそうし「僕は平和な島にいます。
争いもなく、みんなが幸せに暮らしています」
『THE BEYOND』特報
蔵前「みんな……平和そう。先輩たちのこと……教えてやりたくなる」
総士「それこそ、先輩たちの戦う意味がなくなる」
『RIGHT OF LEFT』(※1)
一期では蔵前と総士以外の同級生が平和を享受していたが、『THE BEYOND』では一期の一騎と総士の立場が入れ替えられているため、こそうしのみが偽りの平和を享受している。
・こそうし=人類
こそうしの住んでいた平和な島がアルヴィスの攻撃により破壊された時、フェストゥムの攻撃により平和は壊され、無差別に人類が殺された2114年以降の人類と同じ状況になった。その結果、こそうしは人類がフェストゥムに攻撃された時、フェストゥムに対して発したのと同じ言葉を、攻撃してきたアルヴィスに向けて発した。
こそうし「殺してやるー」
『THE BEYOND』特報
以上のことから、こそうしは一期の一騎と同じ状況に置かれただけではなく、2114年以降、フェストゥムに攻撃された人類すべてと同じ状況に置かれたということになる。
乙姫「おにいちゃん」
『THE BEYOND』特報
この台詞を発した時、乙姫は同化結晶に覆われていた。もしこそうしが人間として育てられいるのであれば、同化されていなくなった乙姫の姿もまたフェストゥムに攻撃された人類が目撃したものと同じということになる。
ミツヒロ・バートランドが作ったパペットと呼ばれる人格を持つフェストゥム(※2)のミツヒロが、こそうしと同じ言葉を敵に叫んでいた。
ミツヒロ「殺す、殺してやる」
『EXODUS』9話
こそうし「殺してやるー」
『THE BEYOND』特報
こそうしの言葉がミツヒロと全くであることから、こそうしが人間ではなくフェストゥムであることを暗に示しているのかもしれない。
こそうし「殺してやるー」
『THE BEYOND』特報
私がこの台詞を聞いた時に思い出したのはワーグナーの舞台神聖祭典劇『パルジファル』第2幕でクンドリーの接吻を受けた直後のパルジファルの叫びだった。
パルジファル:アンフォルタス!
あの傷! あの傷!
あの傷がわたしの脇腹でもえる!(※3)
パルジファルはアンフォルタスと同じ経験をした時、アンフォルタスの痛みと苦しみを理解したが、『ファフナー』は人類とフェストゥムがともに『パルジファル』と同じく相手と同じ経験をすることによって相手を理解し、共存するという未来を目指しているように見えます。
フェストゥムに痛みを教える存在である総士は、フェストゥムから一方的に攻撃され、人類が感じた痛みを一人で受け、その痛みをフェストゥムに教えることでフェストゥムに人類を理解させようとしているのではないだろうか。
操「みんなの痛み、俺が背負えたらいいのに」
皆城総士ならできたのかな」
『HEAVEN AND EARTH』
かつて来主操はこう言っていたが、たとえ不可能であっても、総士は人類とフェストゥムとの共存を実現させるために、人類の痛みを背負わなければいけない存在なのである。
ここまで書いたところで『THE BEYOND』におけるアルヴィス=竜宮島の立ち位置が見えてきた。
・竜宮島=フェストゥム
『THE BEYOND』でのこそうしの立ち位置が一期1話の一騎、及び2114年以降の人類であることから、アルヴィスの立ち位置はそれに敵対したフェストゥムということになる。アルヴィスはこそうしを取り戻すためにいるこそうしのいる場所を攻撃した。アルヴィスの視点では奪われたこそうしを元の居場所に連れ戻すという善意に基づく行為であるが、何の不満もなく平和に暮らしていたこそうしにしてみれば、ある日突然、見知らぬ敵に攻撃され、住んでいた島は壊滅。島の住民はみんないなくなってしまったということになる。
史彦「作戦は失敗した」
『THE BEYOND』特報
史彦の言葉であることから。失敗したのはおそらく第5次蒼穹作戦だと思われます。フェストゥムは地球上にやってきてから40年近い年月が経つにもかかわらず、未だに人類を全員同化することはおろか、竜宮島でさえも攻め落としていない。『THE BEYOND』でアルヴィスの立ち位置は一期1話及び2114年に地球にやってきたフェストゥムであるため、アルヴィスの敗北は必然である。さらに言えば、『THE BEYOND』におけるアルヴィスの戦いはこれまで以上に厳しいものになる可能性が高い。
・一騎と総士
総士「ぼくはこの島のコアを守るために生きてるんだって、父さんに言われた。
自分や他の誰かのために生きてちゃいけないんだって」
一期15話
総士は父、公蔵のこの言葉によって精神的に追い詰められ、一騎と一緒にいなくなりたいと思い、一騎を同化しようとしたが、一騎は拒否した。この事件は総士が2114年に北極ミールが飛来した後、フェストゥムが人類に対して行ったのと同じ行為を一騎に対してやったことを意味し、一騎はフェストゥムによって同化されそうになった人類と同じ経験をしたということになる。つまり、総士=フェストゥム、一騎=人類ということになる。
『THE BEYOND』ではこそうしを取り戻そうとしたアルヴィスが平和に暮らしているこそうしの島に攻撃を仕掛けた。おそらくアルヴィスの作戦は失敗したが、こそうしの住んでいた島は廃墟と化し、一緒に暮らしていた人はおそらく全員いなくなった。つまり、こそうしは2114年に北極ミールが飛来した後、フェストゥムが人類を同化しようとした時と同じ体験をし、アルヴィスは人類を善意で同化しようとしたフェストゥムと同じことをしたということになる。つまり、『THE BEYOND』で一騎と総士の立場は一期から逆転し、一騎=フェストゥム、総士=人類になった。
冲方丁「一騎と総士の関係が、上手くフェストゥムと人類の関係になっています」(※4)
冲方丁は一騎と総士の関係をこう説明しているが、『THE BEYOND』で一騎と総士の置かれた状況は一期の「総士=フェストゥム、一騎=人類」という構図から「一騎=フェストゥム、総士=人類」と真逆になった。それでも一騎と総士の関係は人類とフェストゥムの関係を体現しているため、『THE BEYOND』は救出しようとしたら逆にこそうしの心を傷つけてしまった一騎と「殺してやるー」と島を滅ぼした者への復讐を誓ったこそうしが互いを理解し合い、和解する物語になるのだろう。
※1 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫JA)より引用。
※2 『蒼穹のファフナー EXODUS』Blu-ray BOXに付属しているブックレットに掲載されている冲方丁「作品コンセプト キャラクター概要 主要キーワード」から引用。
※3 ワーグナー/楽劇『パルジファル』(レヴァイン指揮、1985年バイロイト)のCDに添付していた渡辺護訳(1987.9.訳補訂)から引用。
※4 『蒼穹のファフナー Blu-ray BOX』付属のブックレットに掲載された「冲方丁×プロデューサー座談会」より引用。
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