【蒼穹のファフナー THE BEYOND】存在と痛みを調和させる者

カノン「お前は世界の傷をふさぎ、存在と痛みを調和させる者。
    我々はお前によって世界を祝福する」
『EXODUS』24話

 竜宮島のミールは一騎に生と死の循環を超える命を与えるかわりに一騎が担うべき役割を告げた。『THE BEYOND』の映像を見ただけでは「存在と痛みを調和させる」という言葉の意味はわからず、その具体的な内容はパンフレットで説明されていた。

真壁一騎
ファフナーに乗ると「無限のクロッシング」であらゆる者の痛みを背負ってしまうため、戦うたびに眠りにつく(存在と痛みを調和する)。
『THE BEYOND』第1~3話パンフレット

 なぜ一騎がこのような役割を担うことになったのだろうか。

 

・ “わたし” から “みんな” へ

一期で一騎は総士の顔に傷をつけ、視力を奪い、その結果、総士からファフナーパイロットの地位を奪った。『THE BEYOND』で一騎はこそうしの住んでいた島と乙姫を奪い、こそうしの心に傷を負わせた。
蒼穹のファフナー THE BEYOND 第1~3話の感想 Part3

 一騎は『THE BEYOND』でもこそうしの大切なものを奪っていることから、フェストゥムになにかを教えるためとはいえ、総士から大切なものを奪う者なのだろう。一騎は総士を傷つけた罪により心に負った傷を総士を傷つけた右腕と自らの命を以って償った。

 だが、竜宮島のミールは一騎が七夕の短冊に一度は書いたが、もみ消した願い(※1)を聞いていた。

 そのため、竜宮島のミールは一騎に問いかけ、新たな命の使い道を明示させた。

一騎「敵と対話できる人たちがいる。
   彼らを守るために俺の命を使いたい」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 竜宮島のミールは一騎が提示した条件を受け入れ、生と死の循環を超える命を与えた。

 

SFはわたしという一人称の世界、あなたがいるという二人称の世界、社会を構成する三人称の世界の先に、人類という第四人称が存在することを教えてくれる。
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』後書き

 2013年に書いたこの言葉通り、『EXODUS』では数多くの要素が個人から社会に拡大された(※2)。一騎は物語開始前、総士を傷つけるという罪を犯し、心に傷を負ったが、『EXODUS』で命を贖うことで自身の心の傷を塞いだ。『THE BEYOND』では傷を塞ぐという行為が “わたし” という一人称から “人類” という第四人称、さらにはフェストゥムにまで広げられた。

 『THE BEYOND』第1~3話パンフレットに一騎は「戦うたびに眠りにつく」という一文があるが、一騎が竜宮島から与えられたのは生と死の循環を超える命であるため、一騎にとっての眠りとは死を意味し(※3)、たとえ死んでも再生することのできる芹に近い存在になったといえる。

 

・エレメント=生ける死者

 人間からフェストゥムになった甲洋も一騎と同じく眠りが必要な存在だった。

春日井甲洋
戦いすぎると、彼の存在自体が無差別に生命を殺す毒そのものとなってしまう。そのたびに毒を中和するための眠りが必要となる。
『THE BEYOND』第1~3話パンフレット

 人間から見るとフェストゥムは死者であるため、人間の姿と心を持つフェストゥムに近い存在であるエレメントは生きている死者であり、生きている死者に一番近い状態は眠っている人間ということになる。事実、フェストゥムに同化されたり、同化現象に襲われたパイロットはみな眠っていた。

  • 一期21話、同化現象に見舞われた咲良で倒れ、その後、昏睡状態に陥った。
  • 一期26話、蒼穹作戦終了後、竜宮島に帰還した一騎は1年間、昏睡状態に陥った(※4)。
  • 一期9話、フェストゥムに中枢神経を同化された甲洋は昏睡状態に陥った。
  • 『EXOUDS』22話、アビエイターを同化した後、一騎は昏睡状態に陥った。

 つまり、同化現象により昏睡状態で眠っていた時の甲洋、咲良、一騎は生きている死者、つまりエレメントに近い存在だった。しかし、エレメントではないため、この状態でこの世に存在している者とコミュニケーションを取ることはできない。同化現象に初期段階だった咲良と一期26話の一騎(※5)は人間としてこの世に帰ってくることができた。だが、中枢神経が同化された甲洋と命が尽きる寸前だった『EXOUDS』22話の一騎は生きている死者、つまりエレメントとなってこの世に帰ってきた。

 

 

※1 『EXODUS』5話Cパート。

※2 詳細は以下の記事を参照。

蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-19-1「”あなた”から”みんな”へ Part1」
蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-19-2「”あなた”から”みんな”へ Part1」補足
蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-32「”あなた”から”みんな”へ Part2」

※3 ワーグナーの舞台神聖祝祭劇『パルジファル』で、聖杯を拝んで生き永らえているティトゥレルが「主の寵愛により私は墓の中で生きる」(Im Grabe leb’ ich durch des Heilands Huld:)と言っているが、”主” を竜宮島ミールに置き換えると一騎が置かれている状況と重なる。

※4 『HEAVEN AND EARTH』のDVD/BDのブックレットの真壁一騎の項を参照。

※5 一期24話、竜宮島にやってきたミョルニアと史彦の会話を参照。

   史彦「お前のコアを助け出せば、パイロットたちは助かるのか」
ミョルニア「彼らの肉体の同化現象は最初の段階に過ぎない」