『蒼穹のファフナー』は120年ほど後の世界を舞台にした “物語” であるため、今、私たちが生きている世界とは関係と思っている人が多いと思います。
私はある時、『蒼穹のファフナー(一期)』~『HEAVEN AND EARTH』の物語と1997年~2002年のRush(カナダ出身のバンド)の活動が同じ流れであることに気がついた。2015年、Rushは「R40(ツアー名)は最後のツアーになるなのか?」という疑問を残してツアーは終了。『蒼穹のファフナー』は「『EXODUS』で生まれ変わった総士は総士なのか?」という疑問を残して物語は終了。 どちらも第三者には真実がわからないという状態で終わったことにより、私の中でこの二者は完全に重なりました。
2020年、Rushはニール・パートの死とともに5年前(2015年)に活動が終了していたことが確定し、2021年11月、『THE BEYOND』12話で一騎が総士の灯籠を流した時、総士は5年前にいなくなったことが確定した。つまり、『蒼穹のファフナー(一期)』~『THE BEYOND』の物語と1997年~2020年のRushの活動、つまり “物語” と私が今、生きている世界に存在しているバンドが完全に同じ形で終わりました。この時、『蒼穹のファフナー』と私が今、生きている世界が一続きになったと感じました。
2025年3月、ゲディ・リー『ゲディ・リー自伝 我が奇妙なる人生』(シンコーミュージック)の日本語訳が刊行されました。Rushのリーダーだったゲディ・リーの人生を知ることで、2021年11月、『蒼穹のファフナー』という “物語” と私が今、生きている世界と一続きになったと感じた理由が明らかになりました。
●フィクションとノン・フィクション
『EXODUS』は以下の言葉で始まった。
総士「僕の名は皆城総士」
『EXODUS』1話
『ゲディ・リー自伝』は「君はたぶん、私のことをゲディ・リーとして知っているだろうが」と前置きをした上で以下の言葉で始まった。
私の出生時の名前はゲルション・エリエゼル・ワインリブ(以略)
ゲディ・リー『ゲディ・リー自伝 我が奇妙なる人生』プロローグ
『EXODUS』は主人公である一騎が(総士が残した)子と話している場面で終わった。
子ども「ねえ、あの向こうにはなにがあるの」
一騎「世界とお前の故郷が」
子ども「世界……故郷」
『EXODUS』26話
『ゲディ・リー自伝』ではゲディが孫と話をしているシーンで終わった。
フィクションである『蒼穹のファフナー』とノン・フィクションである『ゲディ・リー自伝』は同じ構造になっていた。
●ニヒトとノー
『THE BEYOND』のテーマはニヒト、つまり否定する物語だった。
こそうし「だから許さないと言ってるでしょう」
『THE BEYOND』9話
ゲディ・リーは若いアーティストに以下のような助言をしていた。
若いアーティストの最大の財産は「ノー」という言葉だ。
「自分の正直であれ。そしてただノーと言え」 ゲディ・リー『ゲディ・リー自伝 我が奇妙なる人生』第12章
『THE BEYOND』10話、美羽は操から「美羽ならそういう存在と一つになれるよ」と言われた時、言葉を返すことなく、下を向いた。
『ゲディ・リー自伝』第18章にはRushの1984年の来日公演の時、メンバーが目撃したある出来事の真実(※1)が描かれているのですが、その時、ゲディが見たものと『THE BEYOND』10話の美羽の姿が重なります。
●過去
悲しみから追憶に向かう時が来たのだ。
ゲディ・リー『ゲディ・リー自伝 我が奇妙なる人生』第28章
『ゲディ・リー自伝』は悲しみという感情を追憶、つまり過去に変えるプロセスを描いていましたが、『蒼穹のファフナー』は大切な人を失った時の感情を思い出、つまり過去に変えることを描いていました。
弓子「約束したの、死なないって。
絶対守るって」
一期24話
弓子「美羽がお守りに持って行けっていうから、
御門さんにサイズを直してもらったの」
『EXODUS』5話
弓子は大切な人(道生)を失いましたが、その感情を思い出(指輪)に変えた時、大切な人(道生)は過去になったのです。
●Solve et Coagula
『ゲディ・リー自伝』の原著は2023年11月に刊行されましたが、私は『蒼穹のファフナー』を理解した後に読むと決め、後回しにしました。2025年3月、私が『蒼穹のファフナー』を理解した直後、日本語訳が発売されました。この本を通して、ゲディがRushの活動(ノン・フィクション)が終わった時に感じたものと私が『蒼穹のファフナー』(フィクション)が終わった時に感じたものが同じだったことが明らかになりました。これこそ、『蒼穹のファフナー』という物語と私が今、生きている世界と一続きになったと感じた理由だったのです。
※1 1984年のRushの日本公演の真実は、ゲディが書いた文章を読んでほしいので、ここには引用しません。