蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-4「芹と織姫」

一騎「だけど、今は、少しだけ、わかった気がする」
総士「何がわかった」
一騎「お前が、苦しんでたことが」
   俺たちが何も知らない時から、お前は島を守ろうとしてくれた。
   翔子の時も、甲洋の時も、お前一人で痛みを背負ってた」
一期16話

 一期で一騎が総士を理解した過程をより深めるために、『EXODUS』では芹を通して同じテーマが描かれた。

 

 乙姫が竜宮島のミールに人が持つ命の循環を教えた結果、コアが人の持つ命の循環を体現する存在となった。本来、自分たちが持っている価値観の違うもので、異質だし繰り返される生と死はつらい。『EXODUS』3話で「あなたの前にも自分を犠牲にしたコアがいたんだ」エメリーがコアの本音を明かしていたが、人がミールを理解したいというのであれば、島のコアと同じようにミールの命を体現する人が必要だと考えたのだろう。人もフェストゥムの持って永遠を理解してほしい。価値観の違うものを受け入れたときの苦しみを理解してほしい。そして、コアと共にに島を守るべきなのではないかと。

 芹に発現したSDPは周りの命を同化して生き続ける。ある意味、ミールの持つ永遠を体現していた。しかし、この作品ではだまし討ちのような契約はしない。芹にはこのSDPからの逃げ道が用意され、自分で選ぶことができた。

織姫「手伝うならあなたの同化を、抑えてあげる」
 芹「ああ、ありがとう、織姫ちゃん。
   あたし、どんどん酷くなる」
織姫「あなたの場合、島を離れれば治るわ」
 芹「そんなことできないよ」
織姫「そうすべき時が来たら、迷わずそうしなさい」
『EXODUS』19話

 織姫が芹に与えた選択肢を選ぶ時が来た。『EXODUS』で26話プラン・デルタが発令された時、芹は迷わず竜宮島へ向かい、織姫にこう言う。

 芹「織姫ちゃん、いつも一人で泣いてた。
   悲しくてもみんなを守って。
   あたしが織姫ちゃんを守るよ。
   ずっと一緒にいるよ」

 芹は織姫の置かれた立場と苦しみを理解し分かち合いたいと思った。ここで芹が感じたことは一騎が総士や自分から採取したサンプルを元に戦う力を得た人類軍に対して感じたここと全く同じである。島のコアが人が持つ命の循環を受け入れたように、芹もフェストゥム側の永遠の一つ形である不死を受け入れ、島のコアと共に生きていく道を選んだ。

 織姫は最初、芹の選択を拒否したが、最後には受け入れた。

織姫「やめてよ、やだよ、芹ちゃんは生きてよ。いなくならないでよ」

織姫「あなたも眠って。島が目覚める日まで。
   また会おうね、芹ちゃん」

 蒼穹作戦から『HEAVEN AND EARTH』まで、島のファフナーのジークフリード・システムは分割共有型で、互いの痛みを共有する形となった。これが島のミールに影響を与え、コアが感じる苦しみを人と分かち合うべきだと考えるようになったのかもしれない。

 

 芹の気持ちと行動は以下の文章がすべて言い尽くしていると思う。

もはや自分の一身と他の人格との間を利己的に区別することなく、他の個体の苦しみに彼自身の苦しみと同じくらいの関心をもち、かくてただ最高度に慈悲深いばかりではなしに、もし自分を犠牲にして他の幾人かが救われるものならば、自分自身の生命をいつでもすすんで犠牲にする心構えでさえあるのである。 ショーペンハウアー「意思と表象としての世界」第六十八節(※1

 

※1 ショーペンハウアー「意思と表象としての世界III」(中公クラシックス、電子書籍版)より引用。