蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-29「守られる人から守る人へ」

 所属している組織のルールよりも身内を大事にする長子によって守られた末子で、道生の銃を手にするという共通点を持つ真矢とビリーが『EXODUS』の最後で対峙した。それにはどんな意味が込められていたのだろうか?

 

・姉妹-弓子と真矢-

弓子「美羽の父親の物だからお守りに持ってきたけど、
   今の私には使えないのね」
   中略)
弓子「真矢、あなたが持ってて」
真矢「えっ」
弓子「使い方は教わってるでしょ。お願い」
真矢「うん」
『EXODUS』10話

 一期から『EXODUS』7話でいなくなるまでの弓子はどんなことをしてでも家族を守る人だったが、争う術を捨てたアショーカ(※1)に作られた存在になったことで、弓子自身は家族を守るためには必要な戦う力を失った。弓子は持つことさえできなくなった道生の銃を真矢に渡したが、それは家族を守る役割を真矢に移譲したことを意味していた。フェストゥムに襲われたシュリーナガルから旅立ち、竜宮島との合流を目指すことになるが、その旅では最優先で守るべき人々はエスペラントだった。弓子は美羽に付き添うという形でエスペラントと行動を共にすることになったが、ここからも弓子の立場が守る側から守られる存在になったことが明白である。

 弓子は物語の開始時から家族を守るためには手段を選ばないキャラクターとして描かれ、一期では真矢をファフナーのパイロットにさせないために適正データを改竄、『HEAVEN AND EARTH』ではボレアリオス・ミールと美羽との対話を望む史彦を銃で撃った。

 真矢は竜宮島を出発する前、派遣部隊に参加した理由についてこう話していた。

真矢「はい、志願しました。
   私には戦うことしかできないから。
   それ以外の方法があるなら知りたいです」
『EXODUS』5話

 ところが弓子から銃を受け取った後、真矢から家族という言葉が出てくるようになった。

真矢「家族を置いていけないよ」
『EXODUS』10話

真矢「家族も仲間もいたから。
   あなたたちだけだったら、撃てなかったかも」
『EXODUS』18話

 この真矢の台詞から弓子の銃を受け取ったことで、真矢が家族を守るためには手段を選ばないという弓子の考えを引き継いだことがわかる。

 

 カマル司令が暗殺されたことにより、ダッカ基地はアルゴス小隊が実権を掌握。ダッカに向かうシュリーナガルの住民をフェストゥムに同化された者と認定して攻撃を開始した。真矢は人類軍の爆撃機に呼びかけるが無視され、家族と仲間を守るためにやむなく爆撃機を撃墜した。ダッカから受け入れを拒否されたシュリーナガルの住民は人類が放棄した土地を旅して竜宮島との合流を目指すことになったが、その旅でも人類軍から追われ続けた。アルゴス小隊は刺客を放ち、一騎の殺害を企てたが、真矢が弓子から渡された銃で刺客を殺害した。『EXODUS』の物語開始直後から真矢が抱いていた「自分が戦えば、一騎は戦わなく済む」という気持ちが、結果的に一騎の命を救うことになったのも事実だが、真矢は弓子と同じくどんな手段を用いても家族や仲間を守る人に変貌してしまった。

 シュリーナガルの住民はユーラシア大陸を渡り、太平洋側へ出たところで竜宮島が合流することになったが、真矢はその時の戦闘で人類軍の捕虜となった。弓子とは異なり、そこで真矢は自分の犯した罪(爆撃機を撃墜)と向き合うことになった。

 真矢「12人、あたしのせいでいなくなった」
『EXODUS』23話

 アニメでの真矢の台詞はこの一言だが、この時の真矢の心理的な葛藤はドラマCD『THE FOLLOWER2』で描かれている。ここに登場するミツヒロは竜宮島のミールなので、真矢の本心を突いている。

  真矢「12人…。
     太平洋方面509混成航空部隊、機体名、ティーポット。
     機長、ハリソン・ティベット、32歳。
     操縦士、ベクター・ルイス、38歳。
     航法士、チャールズ・カーク、30歳。
     データオペレーター、ハンナ・キャロン、18歳。
     あたしが命を奪った」
ミツヒロ「お前は何も間違ったことをしていない。
     お前もわかっているはずだ。
     ギャロップはお前に罪悪感を抱かせ、操りやすくするためにそれを渡した。
     真面目に付き合う必要などない」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 真矢に罪悪感を抱かせることこそ、真矢を自らの手駒にしようとするヘスターの策略だった。

  真矢「ただこうして連れて来られて人類軍や新国連の人たちを見て、
     やっぱり他に方法がなかったんだって…わかっただけ」
ミツヒロ「あの爆撃機を撃ったことだね」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 それは真矢自身にもわかっていることだった。真矢は島のミールと対話したことで自分の気持ちを整理し、選ぶべき道を決めた。

ミツヒロ「対話が成り立つかわからない相手を信じれば、お前の命が危うい。
     それとも、おとなしく殺されてやるというのか。
     それがお前の選択なのか、真矢」
  真矢「もしあたし一人しか守るものがないならそうしてもいい。
     でもそうじゃないなら…最後まで諦めたくない」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 真矢はアルゴス小隊のような、端から対話を拒否し、敵意をむき出しにする相手に対しては容赦しなかった。その一方でヘスターのように交渉の余地がある相手に対しては、たとえ自らの命を対価に差し出しても、対話することを選んだ。しかし、真矢の敵意を持つ者には容赦しないという考えは、史彦から諌められた。

史彦「お前たちが学んだのは、人の怖さだけか。
   人は時に恐ろしい存在になる。
   だかそれでもなお、信じるべきなのだ。
   皆城総士、真壁一騎、遠見真矢、近藤剣司、近藤咲良、春日井甲洋、立上芹、
   西尾里奈、鏑木彗、御門零央、水鏡美三香。
   お前たちに人を撃てと命じることはない。
   ファフナー・パイロットとして、使命を果たせ」
『EXODUS』25話

 そのため真矢は第四次蒼穹作戦で人類軍のファフナーのコックピットを外して攻撃した。

 

 第四次蒼穹作戦終了後、真矢は海神島で再会した美羽からこう言われた。

美羽「みんなを守ってくれて、ありがとう」
『EXODUS』26話

 それは一期で真矢が弓子の言った台詞と重なる。

真矢「お姉ちゃん、今まで守ってくれてありがとう」
一期18話

 真矢は道生の銃を受け取ったことで家族を守る者という弓子の役割を引き継いだ。そして、弓子がいなくなったことで、真矢は美羽の親という役割を引き継ぐことになった。

 

・兄弟-ダスティンとビリー-

 ビリーはシュリーナガルの住民と竜宮島が合流する時の戦闘で、アルゴス小隊にいた兄ダスティンに捕獲された。ビリーはダスティンの送り込んだ工作員だったということになり、連行されたミツヒロとは異なり、処分されなかった。以後、ビリーはダスティンの指揮下に入り、アルゴス小隊の一員として行動することになった。竜宮島と新国連が捕虜交換の交渉時にベイグラントのコアが謀反を起こしたため、交戦規定アルファが発令された。アルゴス小隊の本来の任務は研究用の機体の回収することだったが、捕虜である真矢が逃げたことに気がついた時、ダスティンはビリーに以下のような指示を出した。

  キース「畜生、空戦機が逃げた」
ダスティン「ビリー、お前は機体を運べ」
『EXODUS』23話

 ダスティンがアルゴス小隊の本来の任務をビリーに一任したことからもわかるように、ビリーは最後まで兄に守られた存在だった。しかし、アルゴス小隊のファフナーは次々と真矢に落とされ、最後にはダスティンのファフナーも落とされた。ビリーは自分を守ってくれた兄の亡き後、自分で自分の身を守らなければならなくなった。そして、アイは仇を討つ道具として真矢が人類軍の捕虜になり、武装解除した時に回収した銃をビリーに手渡した。

アイ「真矢の銃よ。
   仇を討ちなさい、ビリー」
『EXODUS』25話

 それは真矢が弓子から手渡された時と同じく、受け取った者が守られる側から守る側に回ったことを意味していた。しかし、ビリーは真矢が銃を手渡された時とは対称的な状態に置かれていた。

  ビリー 真矢
末子の立場 兄に守られた存在 姉に守られた存在
 →査問委員会の後、自立
長子の死因 竜宮島の人間が殺害 新国連がフェストゥムを使って殺害(※2
 →アショーカの力で生存
 道夫の銃 非血縁者(アイ)が渡す 姉が渡す

 同級生と同じようにファフナーのパイロットになりたかった真矢は査問委員会の後、姉に守られる者ではなくなった。真矢がファフナーに乗ることは姉からの自立を意味していたが、真矢が守る者であることを象徴する道生の銃を受け取ったのはそれから5年後(※3)のことで、「20歳か。ファフナーに乗ったのが14歳、もっとゆっくり大人になりたかった」(※4)という言葉通り、真矢はもう大人だった。一方、ビリーは新国連の価値観に忠実に従う兄の行動に疑問を抱いたが、自分の中に確固たる価値観を持っていなかったので、反抗はしなかった。竜宮島の人々と触れ合った経験を踏まえた上で自分の価値観を確立し、兄に反抗して自立する前に兄はいなくなってしまった。結局、ビリーは自分なりの価値観を持ていない状態で、真矢の目の前に立った。

ビリー「真矢、兄さんは正しい人だった。
    アイもミツヒロも。
    なのに、なにが正しいかわからない」
『EXODUS』26話

 真矢のようにビリーにも守るべき人がいれば、おそらく迷うことなくこの時、ビリーは引き金を引いただろう。真矢に銃を渡した弓子は真矢が守るべき人だったが、ビリーに銃を渡したアイはビリーが守るべき人ではなかった。兄を失ったビリーは孤独だった。兵士であるビリーには自分の価値観というものがなく、自分の価値観を持つための時間もなかった。ビリーは真矢に自分の気持ちをぶつけたが、答えは見つかっていなかった。この直後、ビリーが溝口に射殺されるが、その後の真矢の言葉はもしかしたらビリーが探していた答えだったのかもしれない。

真矢「撃ってよかったんだよ。ごめんね」
『EXODUS』26話

 人類軍のビリーはペルセウス中隊に参加したことで竜宮島の価値観を知った。真矢は島の外の世界に触れた時、竜宮島の人間でありながら新国連上層部の考えた方に近づいた。新国連の考え方を理解した真矢がビリーに対して一つの回答を示したのかもしれない。また、『EXODUS』は大人になる物語でもあったので、銃を手にした時に大人になっていた真矢が、銃を手にしたものの大人になれなかったビリーに対して、答えを教えたと見ることもできるだろう。

 

・守る人

美羽「美羽が産まれる前にね、美羽のパパはママたちを守ってくれたんだよ」
ドラマCD『THE FOLLOWER2』

 道生の銃を持つ者は守る人であることを象徴していた。『HEAVEN AND EARTH』ではアルヴィスから美羽を守るために弓子は史彦に対して引き金を引いた。弓子は守る力を失った後、その銃を真矢に託し、真矢は家族や仲間を守るために引き金を引いた。その銃はビリーの手に渡ったが、誰かを守るためではなく、兄の仇として真矢に銃口を向けた。しかし、ビリーは真矢を守る溝口に撃たれた。そして、道生の銃はいなくなった母、弓子の代わりに美羽を守る人になるであろう真矢の元に戻ってきた。

 

※1 ドラマCD『THE FOLLOWER』(『EXODUS』BD/DVD 4巻収録)でエメリーが「私たちのミールは、争う術を捨てました」と言っている。

※2 新国連はパペットであるミツヒロを使ってナレイン将軍の動きを監視し、ベイグラントを使ってシュリーナガルにロードランナーを差し向けたと見ていいだろう。

※3 一期の舞台は2146年、『EXODUS』の舞台は2151年である。

※4 『EXODUS』21話。