蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-2「最終回後に見えたもの」

 年内は更新しない予定でしたが、どうしても今年、公開したいという内容があったので更新しました。

 

・水没した竜宮島

 水没した都で思い出すのはフランス、ブルターニュ地方に伝わるイス。以下、wikipediaのイス(伝説都市)から引用。

水没したものの、今でもイスは海の底に地上にあった頃と変わらぬ姿で存在し、いつの日か復活してパリに引けを取らない姿を現すとも言われている。

ケルト人は、死後の世界「他界」を海の向こうにある常若の世界であると考えていた。(中略)水没してもなお往時と変わらぬ姿で存在するというイスはケルト的な「他界」。

いなくなった人の記憶が残っている竜宮島は水没したことにより、ケルト的な「他界」と化したとも言える。島の住人となりいなくなったカノンはアイルランドのダブリン出身で、仮登録時のファフナーの機体名にケルト神話の名称をつけていた。

 竜宮島は新国連から「Dアイランド」と呼ばれていたけれど、もし新国連がこの竜宮島に名前をつけるとすれば「イス」になると思う。

 

・『EXODUS』における一騎の役割

 島を出てシュリーナガルに着いてから竜宮島に帰るまで、一騎はどんな場面でも総士の隣にいた。時には一言も台詞がない場面さえあった。これの意味するところは何なのか。

 青池保子「アルカサル-王城」のドン・ペドロの独白を思い出した。主人公、カスティリア王ドン・ペドロは政治に無関心なふりをし、宰相の指示に従うだけの傀儡の王を演じてた。しかし、ドン・ペドロはその行動の意味についてこう語っている。

──だが私の目は宰相の行動を見逃しはしない
私にはこの大政治家のやりかたを学び体得する必要がある
やがて私がダルブルケルケを支配し
真のカスティリア国王として君臨するために──!(※1

 つまり『EXODUS』での一騎の役割は総士の後継者になるということだった。そのために旅先では一騎は常に総士のそばにいて、総士の行動の一部始終を見て、学んでいたのである。

 そして、旅が終わり、キール・ブロックで一騎は島のミールからこう問いかけられる。

カノン「今我々とお前の間で調和の可能性が開かれた。
    皆城総士が存在と無の調和を選んだように。
    お前が世界を祝福するなら、
    我々が生と死の循環を超える命を与えよう」
『EXODUS』24話

 一騎が島のミールとの調和を受け入れた時、総士の知識はすべて一騎に受け継がれ、総士の後継者となったのである。

 

・「生きること」を選ぶ

蒼穹のファフナー EXODUS 第18話『罪を重ねて』」より引用。

総士「遠見は航空、カノンは工学、剣司は医療、要は教育、みな進路を決めた」
一騎「総士は研究か、向いてそうだな」
総士「お前は喫茶店で料理か」
『EXODUS』1話

 剣司以外はファフナーのパイロットに復帰したものの、一期のメンバーは選んだ進路を全うすることになりそう。7話で剣司は新同化現象の原因を発見し、カノンの最後の仕事はファフナーのエンジニアとしてのものだった。咲良は後輩と新人パイロットの教育係。真矢は「一騎くんのいる場所を守る」と航空の道を選んだけど、戦闘機に乗るということはで修羅の道に進む可能性があり、それも覚悟して選んだ道なのだと思う。

 実はこの文章には続きがある。この続きこそ「11月2日、EXODUSを祝福してしまった」と書いた内容である。あまりにも物語の核心に迫りすぎていると感じて、18話の時点では未公開にした。

一騎が喫茶楽園で働き始めたきっかけは「人手不足を嘆く溝口の助けを買って出たのが真矢で、料理下手を嘆く真矢の助けを買って出たのが一騎という構図」(『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』)なので、一騎自身が強い意志をもって決めた進路ではない。しかし、ここから一騎は「料理→食べる→他の生物の命を頂く→生きる」という過程で生きることを理解していく。

 未公開パートはここまで。

 総士を除く一期のキャラは全員『EXODUS』1話で選んだ進路を全うする形になった。そして、一騎もまた料理を通して生きることを学び、それが『EXODUS』24話で出した答えとなった。

一騎「選ぶよ。
   まだ俺にも命の使い道があるなら、それを知るために生きたい」
『EXODUS』24話

 

・男性の物語

  • 『EXODUS』1話長尺版で咲良が喫茶楽園に入った時に店員として声を掛けるのは、一騎、暉、零央、総士。
  • 戦闘時にいなくなったのは広登、暉、総士。
  • ニヒトのコックピットを開けたのは一騎、甲洋、操で、コックピットにいた赤子は男の子(そうし)。

 島のファフナーのパイロットの男女比は偏りがないのもかかわらず、「この物語の根幹に関わる出来事が起きる場面は男性のみ」ということが徹底されている。

 

・生者と死者の記憶

星の周りには星雲があるけれど、僕らの場合、それは家族だった。
僕らを育て、今は生きる基盤でもある家族。
現在の家族と、もう逝ってしまった人たち。
Neil Peart

 『EXODUS』18話の記事の冒頭に引用したこの言葉が、『EXODUS』24話、一期のメンバーの成人式の時の真壁司令の言葉と重なって泣けた。

史彦「今諸君に与えたアルヴィスへのアクセス権限は諸君が背負う責任そのものだ。
   共にいた者を尊び、共にいる者と守り合い、苦難の時代を生き抜いて欲しい。
   諸君こそ我々にとっての誇り高い未来である」
『EXODUS』24話

 

・『蒼穹のファフナー』シリーズ完結に寄せて」への追記

 最終回放送直後にアップした 『蒼穹のファフナー』シリーズ完結に寄せて を書いたのは12月16日。一期から一騎=ジークフリートと見ていたので、一騎が生と死の循環を超える命を選んだ時に一騎は不死のジークフリートとなり、ユルゲン・フリム演出のミレニアム・リングのコンセプトを選ぶ、つまり一騎は生き残ると判断しました。なぜなら、一騎は24話の時にはもう「パルジファル」で描かれたMitleid(共苦)を理解しているから。

 

※1 青池保子「アルカサル-王城-」(秋田書店)1巻より引用。