【蒼穹のファフナー EXODUS】人類軍の価値観

 一期19話、コアギュラ型が5体、竜宮島を襲撃した時、咲良がフェストゥムに取りつかれた。

 剣司「どうしろってんだよ。
    咲良ごと撃っててのかよ」
一期19話

 竜宮島の子どもたちが初めて遭遇する状況であり、フェストゥムに対処する方法がわからなかった。だが、そのような状況に何度も遭遇している道生とカノンには迷いが無かった。

 道生「動きが止まった瞬間狙うぜ、カノン」
カノン「お前はいい。憎まれ役は私がやる」
 道生「えっ、お前」
カノン「私はこの島の者ではないから」
一期19話

 竜宮島の子どもたちは元人類軍兵士である道生とカノンを通して人類軍の考え方を知ることになった。

カノン「て、敵に取りつかれた者は始末しろと命令されてきた」
一期20話

 道生とカノンは敵に取りつかれた者を迷わず撃てる人だったが、当然、躊躇する兵士もいるだろう。「いくら命令とは言え、フェストゥムに取りつかれた仲間を迷うことなく殺せるのか」というテーマは『EXODUS』で取り上げられた。

 

・ダスティンとアイ

 『EXODUS』1話Aパート(長尺版)でハワイ防衛戦にモーガン隊が投入されたが、ロブ・ウォーグレイブとケイ・クレイソーンの2名がフェストゥムに同化された。この時、敵にとりつかれたものを始末するという人類軍のルール通りの行動を取ったのはアイと隊長のダスティンだった。ハワイでの戦闘は交戦規定アルファが発令により終結し、この後、モーガン隊は解体され(※1)、生き残ったメンバーは新国連本部直轄のアルゴス小隊とナレイン将軍指揮下のペルセウス中隊という相反する部隊に所属することになった。

 ハワイ防衛戦で同化された仲間をやむなく始末しようとしたのはダスティンとアイの二人だが、その時の行動は少し違っていた。

   音声「Fenril remote phase confirm」
ダスティン「フェンリル起動だ」
   音声「Command confirm, Fenril start」
『EXODUS』1話

 ダスティンはフェストゥムに同化されロブとケイのフェンリルの実行コマンドを入力する時、一瞬迷った。一方、ダスティンとは対称的にロブに狙われたアイは迷わず撃った。しかし、アイは自分のやったことに対してショックを受けていた。

アイ「わたし、仲間を撃った、わたし」
『EXODUS』1話

 ハワイでの戦闘でフェンリル起動前に一瞬、迷ったダスティンと迷わずに人を撃ったが、自分の行為に戸惑ったアイの二人は再び同化された人を始末しなければならないという場面に直面することになる。そして、この時も二人は正反対の行動を取った。

 

 ダスティンはハワイ防衛戦の時、戦闘を終結させられるのは交戦規定アルファのみという現実を目の当たりにしたことで自らの考えが一変した。

ダスティン「同化された仲間を助けようとして、より多くの部隊が壊滅する。
      そんな事態を二度と許す気はない」
『EXODUS』9話

 それ故、ダスティンは自らが交戦規定アルファ発令時に同化された機体とパイロットを始末するという役割を担うことを選んだ。目的を果たすためには同化されていない人を殺めることに迷いはなく、新国連上層部の命令に忠実だった。シュリーナガルの部隊に交戦規定アルファを発動させる際に障害となっていたカマル司令を暗殺し、シュリーナガルから避難してきた人類軍の部隊と住民に対して発令された交戦規定アルファを実行した。

 ハバロフスクで真矢は捕らえられ新国連の捕虜となった。溝口が捕虜となった真矢を取り戻すために新国連と交渉を行ったが交渉は決裂。溝口とともに真矢は逃げ出した。真矢と人質を逃すまいとする人類軍との間で戦闘ととなり、真矢はダスティンに追い詰められた。

ダスティン「終わりだ、Dアイランドのパイロット」
『EXODUS』23話

 このダスティンの台詞から一度敵とみなした相手は必ず始末するという執念を感じる。しかし、戦闘は真矢の方が上手で、ダスティンは殺害された。

 ハワイ防衛戦でアイはダスティンとは正反対に同化された仲間を迷わずに撃ったが、そのことがトラウマになってしまった。アイは人類軍の爆撃機を攻撃した真矢を慰めるように言った。

アイ「もし同じ状況になったらわたしがやる」
『EXODUS』18話

 もしかしたら人を殺めることに対して弱気になった自分に向けての言葉だったのかもしれない。実際、アイはダスティンが送った新国連の刺客を撃てず、逆に銃を突きつけられてしまった。そんなアイを助けたのは人類軍から攻撃されたことで怒りをつのらせていたシュリーナガルの住民だった。

 竜宮島との合流を目前にしたハバロフスクでの戦闘時、アイはフェストゥムに心を奪われつつあるミツヒロから殺してくれと懇願された。

ミツヒロ「アイ、俺を撃て。
     心を奪われる。
     撃て、頼む」
『EXODUS』21話

 仲間を撃ちたくなくアイはミツヒロを撃てず、言葉を返すだけだった。

アイ「敵の同化? 嫌よ。
   脱出して。
   撃てない」
『EXODUS』21話

 ミツヒロを撃てなかったアイはコアの少年に操られたミツヒロによって殺されただけでなく、コアの少年によって再生され、利用された。再生されたアイにアイ自身の意識があったかどうかはわからないが、ミツヒロの手で再度、殺されてしまった。

 ハワイでの戦闘の後、ダスティンとアイはまず生身の人間を殺さなければならない場面に遭遇した。ダスティンは迷わず撃ち殺し、アイは撃てなかった。次にダスティンとアイはファフナーに乗っている時に人を殺さなければならない状況になった。ダスティンは迷わず攻撃し、アイは相手から殺してくれと懇願されているにもかかわらず撃てなかった。『EXODUS』でダスティン、アイは選んだ道は正反対だったが、皮肉なことに二人ともファフナーに乗っている時に殺害された。この二人の物語はファフナーに乗った時に人を殺害したところから始まり、正反対の道を歩んだものの、最後は二人ともファフナーに乗った時に殺害されて終わった。

 

・ウォルター・バーゲスト

 ウォルターは人類軍の命令に忠実な兵士であるがゆえに、新国連が人間でありながらフェストゥムと同じ存在とみなしている竜宮島を攻撃する時は何の疑問も抱かなかった。

ウォルター「太平洋方面509混成航空部隊サジタリウス爆撃隊元副操縦士。
      それが俺だ。
      3年前、俺たちが君の島を爆撃した」
『EXODUS』19話

 ウォルターはハワイで2年前に竜宮島を攻撃した時と同じ状態、すなわちフェストゥムに同化されたとみなされた人類軍兵士と民間人が攻撃するという状況に置かれた。今回は竜宮島の時とは異なり、自分も属する新国連の支配する世界に生き、同じ価値観を持っている人間を攻撃することを意味していた。

ウォルター「戦ってる仲間がいるんだ。
      何万という民間人も」

ウォルター「命令を撤回しろ」

ウォルター「やめろー」
『EXODUS』1話

 それ故、ウォルターはこの命令を受け入れられなかったのだろう。

 ウォルターはこの件で少佐から少尉に降格された後、ペルセウス中隊に転属した。エリア・シュリーナガルがフェストゥムに襲撃された後、駐留していたペルセウス中隊と住民はダッカに避難することを選んだが、その一行に対して新国連は交戦規定アルファを発令した。皮肉なことににウォルターは竜宮島とハワイの時とは逆に交戦規定アルファによって抹殺される側になってしまった。真矢が爆撃機を撃墜したため、被害は最小限に食い止められた。新国連から受け入れを拒否されたため、シュリーナガルを出発した一行は長い逃避行の後、ハバロフスクに到着。人類軍とフェストゥムがシュリーナガルの住人と竜宮島との合流を阻み、戦闘となった。

ウォルター「最後の最後で相手は人間か」
『EXODUS』21話

 ウォルターのこの言葉が印象に残る。しかし、ウォルターはたとえ人間であっても敵とみなせば、迷わず攻撃できる人類軍の兵士だった。結局、ウォルターはアルゴス小隊に攫われた真矢を助けるために、ファフナー一機を道連れにしてフェンリルを起動させた。しかし、ウォルターの善戦むなしく、真矢は人類軍に捕らえられてしまった。

 

・ビリー・モーガン

 これまでに登場したダスティン、アイ、ウォルターの三人は、敵とみなせば人間でも攻撃することのできる兵士だったが、ビリーはそういう人類軍の兵士の価値観に染まっていなかった。ハワイ防衛戦でダスティンが同化された人間の乗るファフナーのフェンリルを起動させた時、「やめて兄さん、やめて」(※2)と言って思わずフェンリルの起動したファフナーに近づいて止めようとした。その後、ビリーは戦場を転々とするが、人を殺したくないという気持ちをずっと持ち続けた。人を攻撃することに対してビリーの本音が語られているのはこの言葉だろう。

ビリー「誰も殺さないで兄さん、お願い」
『EXODUS』23話

 真矢を取り戻すために竜宮島の人間がダーウィン基地を訪れたが、交渉は決裂。人質だった真矢は溝口とともに逃げ出した。

ビリー「お願い、逃げて、真矢」
『EXODUS』23話

 人間同士の争いを嫌うビリーは真矢と仲間の人類軍の兵士の間で戦闘が起きないことを望んでいた。しかし、真矢と人質の逃亡を阻止しようとする人類軍との間で戦闘が起き、この時、真矢はチェスターとダスティンを亡きものにした。つまり、ビリーはかつて仲間だった真矢によって兄を殺されてしまった。コアの少年によって再生されアイはビリーを誘導した。

アイ「真矢の銃よ。
   仇を討ちなさい、ビリー」
『EXODUS』25話

 ビリーはアイに言われるがままに、真矢に対して仇を打とうとした。ビリーはフェンリルを起動させ真矢との相討ちを狙ったが、その望みはかなわず、逆に真矢に助けられてしまった。ビリーは海神島でファフナーを降りた真矢と対峙した。

ビリー「真矢、兄さんは正しい人だった。
    アイもミツヒロも。
    なのに、なにが正しいかわからない」
『EXODUS』26話

 ビリーは兄の仇であっても(仇という言葉もビリーが自分で見つけたわけではなく、アイから与えられたものだ)、人を殺すことに迷いがあり、この時点でも自分の心を決められなかった。

 

 一度は仲間を撃ったがその後は撃てなくなったアイ、仲間を撃てないビリーは殺さなければ殺されるという時に迷ってしまったために命を落とした。それは同化された者を始末できない人類軍兵士の末路であるのと同時にファフナーの世界では迷いは命取りになってしまうことを表している。

 

※1 XEBEC Zweiのサイトに掲載されていた竜宮島回覧板 EXODUS第8号から引用。

※2 『EXODUS』1話

 


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