2016年1月20日から22日にかけてニコニコ生放送の『RIGHT OF LEFT』『EXODUS』振り返り一挙配信を見た後の感想です。書いた順にエントリー作成という原則を守った結果、公開が大変遅くなりました。
・エメリーという存在
『EXODUS』26話でエメリーの正体を知った後に1話から見直すとエメリーの存在が少し違うものに見えてくる。
エメリー「とても優しくて、悲しい子」
エメリー「ずっと、守っていたんだね、みんなを。
私達にあなたの強さを与えて」
エメリー「そうなんだ、あなたの前にも自分を犠牲にしたコアがいたんだ」
『EXODUS』3話
初見時にはエスペラントがどのような力を持つ人々なのかわかっていないので、エメリーが島のコアの考えを読めることについてはあまり違和感なく受け入れたが、むしろこの後の「これで戦えるよ。もっとたくさんの人がずっと長い間戦えるよ」が気になっていた。最後まで見た後だと、このエメリーの言葉は竜宮島と外の世界の価値観の違いを描きつつ、視聴者を惑わすための引っ掛け台詞になっている。
エメリー「でも、対話するには美羽が幼いから。
ミールが美羽を成長させようとしたの」
弓子「何ですって」
エメリー「美羽が望んだから。
でも大丈夫、私が美羽を守る」
『EXODUS』6話
この場面でエメリーは美羽が望んだこととアショーカの考えを人に伝える役割を担っている。
エメリー「感じます。あなたはフェストゥムにとって抜くことのできない棘。
痛みを教える存在だとわたしたちのミールが言ってます」
総士「そのせいで敵を別の存在に進化させてしまった。
責任の一端は僕にある」
エメリー「いいえ、人類軍とは違う。
あなたは永遠の存在だとミールは言っています。
彼らに痛みを与え続けるため、この世に居続けると」
総士「ぞっとしないな。
僕は人間として生き、命を終える。
それもそう長くない」
エメリー「あなたの祝福が、そうであることを祈ります。
心から」
総士「僕の、祝福…」
『EXODUS』14話
ここでもエメリーは総士にアショーカの考えを伝えている。それに加えて総士の未来について話し、祝福についても言及している。これまでこんな視点で総士と話したのは乙姫、織姫といった竜宮島のコアのみ。
エメリーは竜宮島のコアと接触した時にその心を読むことができた上に、アショーカの考えを美羽と総士に伝え、未来についてアドバイスした。つまり弟が望んで存在したエメリーはすでにアショーカのコアに近い存在だったのかもしれない。
・竜宮島のミールと総士の関係
総士は一期から島のコアの意思に従う者であり、敵であるフェストゥムとの交渉役だった。一期ではイドゥンに捕らわれながらも、フェストゥムに痛みと存在を教えた。『HEAVEN AND EARTH』では総士が不在だったため、総士の意思を一騎が継ぎ(※1)、一騎がボレアリオス・ミールの使者である来主操と話し合った。その結果、来主操自身が祝福をしてボレアリオス・ミールのコアを生まれ変わらせ、この地球で生きることを選んだ。『EXODUS』では『HEAVEN AND EARTH』で帰還した総士がミールとの交渉役となり、アショーカのコアに近い存在であるエメリーと話し合った。一期、『HEAVEN AND EARTH』の時と異なり、アショーカは最初から和平を求め、自ら生きる場所を探す旅であったため、総士は交渉役でもあり助言者でもあった。そのため、エメリーと美羽がボレアリオス・ミールに助けを求める時には力を貸した。アショーカは最終的に第三アルヴィス、海神島に根付くことを選んだ。それゆえ、第三アルヴィスのコアだった少年を祝福するのは敵、フェストゥムとの交渉役である総士の役割だった。
『EXODUS』ラストで総士という存在は生まれ変わったが、その役割はこの後も変わらず、人を理解して共存を望む竜宮島のミールの代わりに島の外へ行き、敵のフェストゥムやミールとの話し合いをする、いわば島のミールの交渉人である。
総士「ニヒトを始末すれば、ザインの共鳴も止まって乗れるようになる」
『EXODUS』4話
総士はニヒトを処分してザインだけを残すつもりだったが、島のミールはザインとニヒトを自分の側のフェストゥムをして使役することを選んだ。しかし、同化された人の残留思念に満ちたニヒトを生かし続けるには、一度生まれ変わらせる必要があった。
織姫「あなたが憎むマークニヒトはあなただけの器。
希望のための…。
捨ててはだめ」
『EXODUS』22話
そのため、織姫は総士にニヒトに乗ることを命じ、ニヒトを憎みつづける総士に最後まで手放してはいけないと言った。島のミールは今後もニヒトを必要としているが、一度生まれ変わらせる必要があり、そのためには総士とおそらくアショーカの力が必要だった。島のミールはニヒトを残すために総士という存在を利用したと言えるのかもしれない。
・海神島のファフナー
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
あなたとあなたの器が生まれ変わる。
そういう未来が見えるの」
『EXODUS』22話
織姫は総士に未来を告げ、アショーカの根元で総士とニヒトは生まれ変わった。
総士、ニヒト、アショーカの出自を見ると、三者は一期で細かく砕かれた北極ミール側に属する存在である。
- ニヒトのコアはマークフィアのものを使用。しかし、起動試験時にイドゥンに乗っ取られ、フェストゥム側のファフナーになった。イドゥンの後にニヒトのパイロットになったのは来主操と総士。人が作ったファフナーでありながら、フェストゥムにしか乗れないファフナーになってしまった。
- 総士は同化されて肉体を失った後、北極ミールの欠片から生まれたボレアリオス・ミールに保護され、肉体を取り戻した。
- アショーカは北極ミールの欠片から生まれた。
総士とニヒトがアショーカの根元で生まれ変わったことは、ザインが竜宮島のファフナーであるように、ニヒトがアショーカに属するファフナーへ変化したことを意味している。
物語の開始時、アルヴィスの司令官は皆城公蔵だったが、一期2話で死亡。真壁史彦が後を継いだが、その後も竜宮島の礎が皆城家であることに変わりはなかった。竜宮島が皆城家を象徴しているかのように、アショーカを眠らせるために竜宮島は沈み、その直後、総士がいなくなった。『EXODUS』での一騎は総士の後継者という役割を与えられ、一騎が総士の後継者となった後、総士はいなくなった。竜宮島の島民が海神島へ移住したのと同時に島の礎とも言える一家は皆城家から真壁家に移ったということになる。
竜宮島 | 皆城家 | 瀬戸内海ミール | ザイン(一騎) |
海神島 | 真壁家 | アショーカ | ニヒト(総士) |
竜宮島と海神島、皆城家と真壁家の関係は上記のような構図になり、竜宮島の住人が海神島に移住した時、やっとアルヴィスの司令官の息子が島の礎という本来あるべき姿になった。
・弓子と真矢
一騎と真矢の関係は一期の道生と弓子の関係と同じ結末を迎えたとも言える。遠見家の姉妹は好きな男性とは互いの心のすれ違いが解消されて一歩踏み出そうとした時、二人ともパートナーを失った。
道生「その薬の効力が切れたら結婚しよう」
一期23話
一騎「島に帰ろう、一緒に。
生きて戻ろう」
『EXODUS』19話
最終的に道生と一騎の約束は果たされなかった。道生がいなくなったことは作中で明確に描かれているけれど、一騎がいなくなったことはわざと曖昧にされている。『EXODUS』22話で一騎が昏睡状態に陥った=人としての命が尽き、一騎と真矢の関係がここで終わったと考えると物語の構造が明確になる。真矢は一騎がいなくなったことでヒロインから主人公のポジションに昇格。新国連の捕虜となってからの真矢は明らかに『EXODUS』の主人公の一人となった。
主人公となった真矢には一緒に戦うパートナーが必要になるが、そのパートナーは真矢と同等かそれ以上の力を持っている人でなければならない。真矢とともに竜宮島からシュリーナガルへ行き、そこから竜宮島に合流する旅に同行した暉は真矢のパートナーになりうる立場にあったが、残念なことにその資格を満たしていない。
暉「俺も先輩みたいにあいつらを撃ちます」
真矢「わたしが里奈ちゃんに怒られちゃうよ」
暉「遠見先輩と一緒になりたいんです。
俺じゃダメですか。
俺、先輩のこと、ずっと…」
『EXODUS』19話
一騎が昏睡状態に陥り、真矢が新国連の捕虜になったのは『EXODUS』22話だが、暉と真矢の関係は『EXODUS』19話で結論が出ていた。『EXODUS』21話でアルゴス小隊に捕らわれた真矢を助けることはできず、最後まで暉自身が望んでいた真矢の力になることはできなかった。
暉「俺も行くべきなのに」
里奈「総士先輩にも休めって言われたでしょ」
『EXODUS』23話
暉は真矢のパートナーになることはできなかったので、新国連の捕虜となった真矢を助けに行くという役割を担うことはなかった。
総士「第三アルヴィスのコアだった存在か」
真矢「あたしのお父さんのせい。
ミツヒロも人類軍もきっと来る。
あのコアに支配されて」
『EXODUS』25話
真矢のパートナーという立場になったのは一騎と同じザルヴァートル・モデルに乗り、アザゼル型と同等に戦うことのできる力を持つ総士だった。新国連側の人でない敵であるベイグラント、第三アルヴィスのコア、そしてミツヒロと戦ったのは一騎と総士だが、真矢から見て一騎はすでにいなくなった存在なので、物語の最後で真矢の手を取る役割は本来ならば総士が担うはずである。しかし、一騎に引き続き、総士も物語の最後でいなくなり、真矢を支える人はすべていなくなったため、最後に真矢の手を取ったのは美羽だった。真矢はパートナーとなりうる人をすべて失い(暉、一騎、総士)、その結果、一期の弓子同様、子ども(美羽)だけが残るという形になった。
・溝口と真矢
ヘスター「敵ではなく人類が人類を滅ぼすというのなら、私が止める」
真矢「人が人の敵になるなら…私が、止めます」
『EXODUS』23話
若いころのヘスターと真矢の台詞が重ねられていることが、真矢がこの考えのまま生きていった場合、最終的に行き着く場所はヘスターと父ミツヒロと同じところである。ヘスターは真矢が自分の若い頃と同じであることを見抜いていたために、真矢を自分の後継者に望んだ。必要ならば人を殺すことができるがヘスターや父ミツヒロとは別の生き方を選んだ溝口が若い真矢にこの先の人生を示していく必要がある。そのため、『EXODUS』の最後に溝口が真矢の父という役割を担うことが示された。
・VOLUNTASとANIMUS
『EXODUS』8話でザインとニヒトをシュリーナガルまで運んだキャリー・スラスターの名前(ラテン語)は最終回まで見ると、意味がわかる作りになっていた。言葉の意味はラテン語の英訳を日本語訳した方がわかりやすい。
VOLUNTAS(マークザイン)
will, free will, choice(意思、自由意志、選択)
https://en.wiktionary.org/wiki/voluntasから引用。
ANIMUS(マークニヒト)
mind, soul, life force(心、魂、生命力)
https://en.wiktionary.org/wiki/animus#Latinから引用。
『EXODUS』で一騎と総士に振られた役割は、このキャリー・スラスターの名前そのままだったということになる。『EXODUS』8話の時点で、ニヒトに割り当てられたANIMUSの意味から総士に与えられた役割を予測するのはさすがに無理だった。
・ビリーの選択
真矢が兄ダスティンを殺害。ビリーはアイから「仇を討ちなさい、ビリー」(『EXODUS』25話)と言われたが、真矢の前に立った時、ビリーの中ではまだ結論が出ていなかった。
ビリー「真矢、兄さんは正しい人だった。
アイもミツヒロも。
なのに、なにが正しいかわからない」
『EXODUS』26話
私はこの場面を見た時、Rushの「Freewill」(1980)(※2)という曲の歌詞の一節を思い出した。
If you choose not to decide
You still have made a choice
決めないという選択をしたとしても
それは選択をしたということである
この曲の歌詞でも特に有名な一節なのですが、初めてこの言葉を見る人は驚くと思う。決めなくても選択したことになるのか、と。
「決められない」ということがビリーの選択だと解釈するならば、溝口の行動がそれに対しての答えである。現代ではビリーのような考え方でも生きていくことができるが、ファフナーの世界では何らかの信念がないと生き残れない。裏返せばそれほど厳しい世界だということである。
※1 『HEAVEN AND EARTH』の一騎の台詞「俺がやる、お前が望むなら」
※2 Rush『Permanent Waves』(1980)に収録。