蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-17「描かれなかったもの、描きすぎたもの」

 2クールという枠に対して、一期同様1クール目はテンポ遅め、2クール目は詰め込みすぎ。キャラクターも多く、限られた枠の中で描くべき内容の取捨選択には若干判断ミスがあったように感じる部分もあった。

 

・くり返さない物語

 竜宮島側の物語は島のコアが生まれ変わったことにより、2週目ということになる。その結果、一期で描かれた内容はくり返さないという道を選んだ。物語全体を通して『EXODUS』でパイロットになった世代の学校生活は一切描かれなかったこと。「くり返さない」というのは物語後半に顕著で、『EXODUS』25話で一期のメンバー全員が喫茶楽園に集まったが、そこでの会話は必要最低限で、戻ってきた甲洋との会話は一期20話でやったので描かなかった。もっとも『EXODUS』23話、喫茶楽園における甲洋の様子を見ると、必要最低限しか話していないので、同級生と会話が成立するのかは疑問である。『オトメディア』2016年2月号で能戸隆総監督は甲洋についてこう言っている。

「記憶は残っていますし、感情も取り戻しつつありますので、今後人間らしさが出てくると思いますが、その前に(『EXODUS』が)終わっちゃいました」

 『EXODUS』で人としての姿を取り戻した甲洋に残っている感情は「島を守る」という部分だけだと思ったので、この記事を読んで『EXODUS』25話、楽園喫茶で一期のメンバーが全員揃った場面の描写には納得した。

 

・ナレイン将軍とアショーカ

 ナレイン将軍とアショーカの立ち位置は『HEAVEN AND EARTH』におけるボレアリオス・ミールと同じ。北極ミールは一期ラストで粉々に砕かれ、各々の考えに基づ、独自に活動しし始めたが、新国連と人類軍は最初から一枚岩で、内部分裂するほどの大きな外的事件は与えられていない。『HEAVEN AND EARTH』で竜宮島と対立したグループ(空母ボレアリオス)戦いつつも対話をするという形だったけれど、『EXODUS』では人類軍から分裂したグループが竜宮島の助力を求めるという形になっている。

 ハワイでナレイン将軍は北極ミールの欠片を持つエメリーと出会い、それから1年後、ナレイン将軍は竜宮島を訪れ、助力を求めた。『EXODUS』はここから物語が始まるわけだだけど、新国連とナレイン将軍の考えのズレを描いた上で、ナレイン将軍は竜宮島と手を組むことを選ぶという流れにした方が、新国連と対立するナレイン将軍、それに巻き込まれた竜宮島という構図が明確になり、わかりやすかったと思う。たとえ新国連とナレインの関係を具体的に描写したとしても、「ナレイン将軍は竜宮島にとって信用に値する存在なのか?」という疑問は残り、『EXODUS』と同じような描写をすることはできたと思う。なにより物語後半でペルセウス中隊のパイロットの信念が問われ、ビリーのように迷いつつも人類軍側に寝返った者の存在に説得力を持たせることができたはずだ。

 以下、ペルセウス中隊のファフナー・パイロットに末路を列記する。

ジョナサン・ミツヒロ・バートランド:パペット、自覚なきスパイ
ビリー・モーガン:アルゴス小隊に編入→溝口に殺される
アイシュワリア・フェイン:ミツヒロが殺される(21話)→パペットになる
ウォルター・バーゲスト:戦死(21話)
ナレイン・ボーズマン:戦死(26話)

 結局、自分なりの価値観を持ってペルセウス中隊に参加したウォルターとナレインのみがアショーカが海神島に根付くために命を全うした。ミツヒロは作られた存在で、記憶を奪われつつも自己を保とうとしてもがき続けた。ビリーは最後まで自分なりの価値観を持つことができなかった。アイはフェストゥムに乗っ取られたミツヒロを殺せなかったために、その存在をコアの少年に利用されてしまった。一方、アルゴス小隊は新国連上層部の兵士は使い捨てという考え方を象徴するかのように全滅した。

 

・シュリーナガルの住民

総士「新たな道が示された朝、大勢が失望に打ちのめされた。
   人類からの敵意と荒野への道を受け入れられず、
   安らぎを求める者もいた」
『EXODUS』15話

 やはり1クール目でシュリーナガルの市民の大多数がミールと共に暮らすということをどう思っているのかを描くべきだった。そこがわかれば人類からもフェストゥムからも追われることに対する市民の絶望がわかりやすくなり、さらに生きるためには旅を続けなければならないという決断に対する悲しい反応がもっと視聴者に伝わったと思う。

 私は 蒼穹のファフナー『EXODUS』第15話『交戦規定アルファ』 でこう書いた。ハワイでナレイン将軍がエメリーと出会い、その後インド、シュリーナガルでエメリーの持っていたミールの欠片を根付かせた。シュリーナガルの住民は敵であった北極ミールの欠片とともに暮らすことをどう思っていたのだろうか。フェストゥム避けとして有用なので、日常生活には影響がないので深く考えなかった? それとも人類軍の大将が決めたことなのでやむなく受け入れた? 『EXODUS』2クール目では人類軍に追われるシュリーナガルの住民の心境が描かれたが、やはり住人がどういう気持ちで北極ミールと暮らしていたのを描くべきだった。新国連の支配する世界で暮らす人々が世界情勢についてどのくらいの知識を持っているのかわからないので、そのあたりを推測することすら難しい。新国連の支配する世界に生まれ、人類軍のファフナー乗りになった若者を主人公にした外伝を読んでみたい。

 

・伝わらない真実

ダスティン「なんだそれは」
  キース「乗ってたやつの死体。
      あんまり残っちゃいないけど、回収するんだろ。
      機体のデータに名前があったよ、ヒロト・ドウマ」
『EXODUS』15話

 人類軍によって殺された広登は遺体が回収されたという描写があったので、最終的にその遺体は島に返されることは予想していた。新国連が竜宮島の存在を認め、多少なりとも歩み寄って終わるという物語であれば、和解の証として広登の遺体を引き渡すという展開もあったと思う。しかし、新国連と人類軍が竜宮島に対する認識を変えることになる出来事(竜宮島による情報公開)は『EXODUS』26話冒頭に置かれたので、広登の遺体=和解の証という使い方はされなかった。

  真矢「あたしの仲間はどうしたんですか」
ヘスター「遺体を回収したと聞いています」
  真矢「殺したんですか」
ヘスター「戦いで命を落としたそうよ」
『EXODUS』22話

ヘスター「ヒロト・ドウマ。
     敵と戦い、命を落としたところを部隊が回収しました」
  溝口「ちっ、ヒロト」
『EXODUS』23話

 ヘスターが竜宮島側に説明した広登の死因は人類軍側に損にならないものだった。『EXODUS』23話終了の時点でアルゴス小隊のメンバーはハインツ(21話)、チェスター(23話)、ダスティン(23話)が死亡、生き残ったのはキースのみという状態だった。『EXODUS』23話を見終わった時に「広登の死を竜宮島に伝える人間はもういない。つまり現実の戦争と同じように、竜宮島は広登の死因の真実を知ることはないし、フィクションでよくやるような広登の遺体を新国連と竜宮島の和平の象徴として使うこともしない」と思った。

一騎「広登は?」
総士「遺体の一部を持ち帰った」
一騎「敵か、それとも…」
総士「不明だ」
『EXODUS』25話

 広登の死について竜宮島が得ることのできた情報は、『EXODUS』25話で真矢が竜宮島に帰った時、総士の口から語られるこの台詞がすべてである。広登の死の真実を知っていたアルゴス小隊最後の生き残りのキースも『EXODUS』26話、真矢との戦闘で死亡した。

 

 ここまでは描かれなかったものについて書いたが、逆に描きすぎたのでは?と感じたものもある。

 

・総士とニヒトの行く末

陳晶晶「バードが受信サインをキャッチ。
    ダーウィン基地より交渉に応じる模様」
 溝口「マークニヒトを渡すってのが効いたな。
    ほんとに渡しゃしないけどよ
『EXODUS』23話

 溝口の「ほんとに渡しゃしないけどよ」はアルヴィス側の本音だが、視聴者の「ニヒトを新国連に渡すの?!」という問いかけに対して、23話冒頭で答えを提示する必要はなかった。製作者からのネタバレともいえる台詞だった。

 

総士「まだ命は消えないそうだ」
織姫「消えた後もきっとあなたの命は続く」
総士「それは…ミールによる死と再生か」
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
   あなたとあなたの器が生まれ変わる。
   そういう未来が見えるの」
総士「未来…」
織姫「本当は話すべきじゃないけど、
   あなたなら未来を恐れずたどり着いてくれるから」
『EXODUS』22話

 織姫の「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、あなたとあなたの器が生まれ変わる」という台詞は「総士がアショーカのコア?」というミスリードを狙ったものだど思われるけど、22話で総士の転生という結末が明かされるのは早すぎた。織姫の助言を総士が自分の子どもに対して遺言を残すという行動の起点にするのであれば、もう少しぼかした台詞にするか、織姫の言葉は視聴者に聞こえないという演出にすべきだった。