蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-19「”あなた”から”みんな”へ」を書いていた時のメモ。メモとして書き始めたのですが、どういうわけか、かなりの分量になってしまいました。
・真矢と乙姫
一期の真矢の台詞を読み返して気がついたのは、真矢は一期と『EXODUS』の物語開始時点で立場が逆転しても同級生とは一人だけ違う立場に置かれて孤独、という点は変わっていなかったこと。一期ではハンデがあってファフナーに乗れない。『EXODUS』では同級生でただ一人のレギュラー・パイロット。そのために「自分が戦えば一騎はザインに乗らずに済むのではないか?」と考えるようになっていったのだろう。真矢自身は自分の気持ちに気がついていないが、総士やカノンには丸見えだった。
総士「君が一騎の分まで戦う必要はないんだ」
『EXODUS』2話
カノン「丈瑠島で働くのもファフナーに乗ったのも、
一騎の居場所を守るためか」
『EXODUS』3話
しかし、真矢の「わたしが戦うから、一騎くんは安全な場所にいて」という気持ちはどこか母性的だ。『RIGHT OF LEFT』の時のインタビューで冲方丁は真矢についてこう語っていた。
最後方にいるのでもっとも遠い場所から全員を見ながら、乙姫とは違い、人間としての弱さを持たざるをえない。つまり孤独を強要されるキャラクターです。記念撮影でも、自分が撮るから写真に写らない。元気なのにいつも後方におかれてしまう。(※1)
この発言で注目すべき点は真矢は乙姫と同じく遠くから全員を見るキャラクターであるということ。冲方丁は一期の時のインタビューで乙姫を「放任主義的母性」(※2)と表現していたが、乙姫と真矢と対比していることから一期の時から冲方丁は真矢も母性的な面を持つキャラクターだと見ていた節がある。『HEAEVEN AND EARTH』以降、ザインに乗ること=一騎の死を意味することになってしまったため、真矢は自分が戦えば一騎はずっと安全な場所にいて余命を全うできる、という考えに達してしまった。一騎がザインに乗ることはアルヴィス上層部からも禁止されているが、真矢が一騎に言うと過保護な母親的な物言いになってしまう。
一騎「あのさ…」
真矢「だーめ」
一騎「なにも言ってないだろう」
真矢「一騎君はお留守番」
『EXODUS』3話
この場面での真矢はまず一騎が自分の意見を言えないようにしてしまった。それは明らかに子どものやりたいことを危険だと遠ざける過保護な母親そのものの姿である。それ故、『EXODUS』で真矢は一騎の精神的な親殺しの親の役割を振られてしまった。(※3)
・真矢は一騎のパートナー?
主人公のパートナーになるキャラクターには主人公が次に起こすアクションの起点となる言動、行動、事件が起きるという役割がある。一期~『HEAVEN AND EARTH』~『EXODUS』で一騎が自分から決断したり、行動した場面を見てみよう。
一騎「どうしても聞いておきたいんだ。
ファフナーと俺たち、お前にとってどっちが大切なんだ」
総士「ファフナーだ」
一期10話
一騎「自分の目で、総士が知ってて、
俺の知らないことを、確かめようって思う」
ドラマCD『NO WHERE』
総士の考えがわからなくなった一騎は総士の知っている島の外を見れば理解できるのではないかと思い、島を出て行く。
総士がイドゥンによって北極へ連れ去られた後、一騎と父、史彦との会話。
一騎「総士が言ってたんだ。
人類軍の作戦に参加するかもしれないって」
一騎「俺一人で北極に行く」
史彦「島の復旧が済むまで待て。
それから、俺がお前を北極に届ける準備をしてやる」
ドラマCD『GONE ARRIVE』
父、史彦は一騎の訴えを受け入れるしかなかった。
『HEAVEN AND EARTH』で総士は不在だが、一騎は総士とクロッシング状態にあったため、総士の言葉を聞くことができた。
総士「最後の手段は必ず伝える。
もしもの時は11番の扉で行け」
一騎「俺がやる、お前が望むなら」
総士「すまない、一騎、頼む。
僕らが封じたものに、彼らが届く」
一騎「そうだ。ずっと一緒にあいつを封じてた、俺とお前で。
総士、俺がやる、お前が望むなら」
『HEAVEN AND EARTH』
『HEAVEN AND EARTH』の時、一騎はアルヴィス上層部からザインに乗ることを禁じられていたが、一騎は総士から頼まれると迷わずザインに乗った。
織姫「総士、一騎、今すぐ美羽を守りに行きなさい」
総士「ぼくはコアの言葉に従う。
ずっとそうしてきたように」
一騎「行くよ、俺も」
総士「一騎」
一騎「お前が行くなら、俺も行く」
『EXODUS』6話
『EXODUS』で一騎にザインに乗りなさいと命じたのは島のコアである織姫だったが、一騎が乗ると決めたのはやはり総士の言葉だった。
カノン「皆城総士が存在と無の調和を選んだように、
お前が世界を祝福するなら、
我々が生と死の循環を超える命を与えよう」
『EXODUS』24話
島のミールは一騎に(『HEAVEN AND EARTH』で帰還した後の)皆城総士と同じような存在にならないかと問いかける。
それでは真矢が一騎に対して行った行動について、一騎はどういう反応をしているのだろうか。
真矢「皆城君、あそこに一騎君がいるんでしょ。
助けに行こうよ」
真矢「誰も行かないんだったら、あたしが行く」
一期13話
真矢「一騎君、よかった無事で」
一騎「ほんとに、ここに、いるのか」
真矢「いるよ、ここに、いるよ」
一騎「ありがとう、総士は」
真矢「皆城君は、島にいるよ。
一騎君のこと、きっと待ってる」
一騎「あいつが、島の外で見たものを、俺も見たかったんだ。
そうすれば、あいつのことがわかるんじゃないかって」
一期15話
真矢が目の前にいても、一騎の頭のなかにあるのは総士のことばかり(笑)
『HEAVEN AND EARTH』で真矢の一騎のために行動した場面はザインがニヒトを上空へ連れて行っ後、消滅した場面と「一騎くんを返して」とニヒトを攻撃する場面。いずれも一騎の次のアクションの起点にはなっていない。
『EXODUS』では第18話ラスト、一騎を殺害しようとした工作員を真矢が射殺したが、その後、一騎と真矢の心理的な距離が少し縮まった。
一騎「遠見、なにしてるんだ?」
真矢「9月20日、気づいたら今日だった」
一騎「翔子の誕生日か」
真矢「一騎くんも。一日早いけど、お誕生日おめでとう」
『EXODUS』21話
この場面で花を渡したのは真矢だった。残念ながら真矢のこの行動も一騎の次の大きな行動(『EXODUS』24話、キール・ブロックでの島のミールとの対話)の起点にはならなかった。
島外派遣組と竜宮島と合流する時の新国連とフェストゥムとの戦闘では真矢と一騎は別行動。真矢はアルゴス小隊に捕らえられ、一騎はアザゼル型を同化したものの、右腕を失い、昏睡状態に陥った。新国連の捕虜になった真矢を迎えに行くのは一騎ではなく総士だった。結局、真矢は『EXODUS』において実質的な主人公だった総士の次の行動の起点になっている。
以上のことからわかるように、一期から真矢の行動は一騎の次の行動への起点とはなっていない。一期~『HEAVEN AND EARTH』~『EXODUS』を通して、一騎の行動の起点はすべて総士だった。つまり一騎のパートナーという立ち位置にいるのは総士であり、真矢には一騎のパートナーという役割を与えられていないということである。
・最終回での一騎との距離
一期、『HEAVEN AND EARTH』、『EXODUS』の最終回で一騎と真矢の距離感がどう表現されているのか見てみた。
一期26話
『HEAVEN AND EARTH』
『EXODUS』26話
一期の蒼穹作戦に参加したのは一騎、真矢、剣司、カノンの4人だったが、一騎を迎えに行ったのは真矢だけだった。
『HEAVEN AND EARTH』では島に戻った一騎と総士を真矢、カノン、広登の三人が迎えた。。
『EXODUS』で一騎は生まれ変わった総士を迎える側だったが甲洋、操と一緒で、真矢は真矢は美羽と別の場所にいた。つまり真矢と一騎は一緒ではなかった。
一期では明らかに真矢がヒロインという立場だったが、『HEAVEN AND EARTH』、『EXODUS』と作品が進むにつれて最終回での一騎と真矢の距離がどんどん遠くなり、ヒロインではなくなっていったことががよくわかる。
『EXODUS』第26話、ニヒトのコックピットを開けて、生まれ変わった総士を最初に見つけるのが、一騎と真矢だった場合、主人公とヒロイン、フェストゥムと人という関係を象徴していると考えることが可能なため、物語はフェストゥムと人が完全に和解して終わったという結論に達してしまう。しかし、『EXODUS』において一騎と真矢は主人公とヒロインという関係でもないし、フェストゥムと人はまだ完全に理解していない。一騎と真矢が象徴しているものを考えると、『EXODUS』は主人公とヒロインが未来への希望を手に入れて終わる形を取ることはできなかった。
ヒロインの真矢は、わりと距離を取って2人を同時に見ている存在にしました。(※4)
一期のTV放送開始時、冲方丁は真矢の立ち位置についてこう話していた。『EXODUS』終了時に真矢はヒロインではなくなったものの、一期の物語開始時と同じく一騎と総士を遠くから見ている存在に戻ったと言える。
・グレースとアローズ
溝口「グレースよりアローズへ。
ランアウトだよ。
ダメだぜ、早く飛べるからって敵を追い越しちゃあ」
『EXODUS』1話
『EXODUS』1話と2話で溝口さんと真矢が載っていた戦闘機のコードネームがグレースとアローズ。アローズ(arrows)が真矢の名前から採っているのは一目瞭然だったけど、グレース(grace)は溝口さんの名前、恭介の「恭」の英訳だったとは。
恭しい:丁寧で礼儀正しい。(「大辞林」より)
grece:礼儀正しさ(「ウィズダム英和辞典」より)
ブログのファイル名は自分で決めているのですが、コラムのファイル名を決めるのが密かな楽しみです。
※1 『Charada ! (きゃらだ) 』Vol.1(2006年、宙出版)より引用。
https://www.amazon.co.jp/dp/B000CIWY7W/
※2 『アニメージュ』2004年11月号の冲方丁インタビューより引用。
※3 詳細は 蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-11『真矢と一騎-分断された関係』 を参照。
※4 『アニメージュ』2004年8月号の冲方丁の発言より引用。