「蒼穹のファフナー THE BEYOND」第10~12話の感想 Part9

 「蒼穹のファフナー THE BEYOND」第10~12話の感想 Part8 を公開した後に書いた感想です。

 

●記憶

 『THE BEYOND』の中にこそうしが海神島で一騎と暮らしていた時のことを思い出したというシーンはなかった。マリスが連れ去るまでこそうしが海神島で暮らしていた時のことを覚えているのは、一騎と海神島の人々だけということになるが、ヲノサトルのこのツイートを思い出した。

あれほど連れて行った公園も水族館も遊園地も息子氏は全くおぼえていない。子供のためだから仕方ないやと出かけていたあの夏休みの日々は親の記憶のためにあったんだと今になって思う
ヲノサトル

 一騎がこそうしを育てたという記憶は、こそうしのためでのものではなく、一騎のためのものだったのではないだろうか。

 

●史彦と真矢

 紅音は史彦に子ども(一騎)を託してフェストゥムの世界に行く、 一騎は真矢に子ども(こそうし)を託して竜宮島を去ったことから、真矢の姿は若い頃の史彦と重なります。紅音は史彦に子育て中の幼児を託したのに対して、一騎は真矢に親離れをした子どもを託しました。

 

●弓子と真矢

 一騎に対する真矢の望みはずっと “I wish you were here” だったが、『THE BEYOND』ラストで真矢が一騎の考え(竜宮島を去る)を肯定した結果、真矢の望みは “I wish you were somewhere” になった。Somewhere つまり「どこか」というと、この台詞を思い出します。

道生「お前が世界のどこかに生きていることだけが、
   俺が戦う理由だったんだ、弓子」
一期16話

 道生は弓子に島を出ると言わずに島を出ました。

道生「それとも昔、お前にだけ黙って島を出たことか」
一期17話

 一騎は真矢に帰ってくると約束して島を出ました。真矢の生きる理由は、竜宮島を去った一騎が世界にどこかで生きていることなのかもしれない。

 

●翔子の望み

 能戸監督はアニメージュプラスに掲載されたインタビューで操についてこう説明していました。

「竜宮島で生まれて羽佐間容子の子供――翔子のように育ちたかった」という願いを受けた形として、12話であのように島に根づいた彼を見せました。
アニメージュプラス
平井久司がイラスト寄稿!『ファフナー THE BEYOND』監督が語る裏話

 このインタビューを読んだ後、ノベライズの文章を思い出しました。

 そうして、ちゃんと正しい形で生まれてこなかった自分が世界中に還ってゆくの。今度は正しい形で生まれてくるように祈りながら。
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』エピローグ

 人間である翔子は生まれ変わることができないが、コアである操は生まれ変わることができることを考えると、操は翔子の望みをかなえた存在であるのかもしれません。

 

●「THE BEYOND」の真矢

・真矢と総士

 総士は「ファフナーに乗りたい」という一騎の考えを否定しなかった。総士は一騎に事実だけ告げて、一騎に選ばせた。

総士「今なら引き返せるぞ」

総士「だが、システム内蔵型の上、
   解体のためリミッターも解除された機体だ。
   同化現象は過酷になる。
   下手をすれば僕たちが島を沈めかねない」
一騎「やれるさ、俺とお前なら。
   そうだろ」
『EXODUS』6話

 しかし、総士は一騎に対して「いなくなってほしくない」という感情を持っていた。

総士「お前も戻れ。
   まだ僕らの時間は終わっていない、一騎」
『EXODUS』9話

 真矢は『THE BEYOND』で、一騎に与えられる役割を否定することができない立場に置かれた。

史彦「真壁一騎をパイロットとした第四のザルヴァートル計画。
   実行は」
 保「遺憾ながら即可能だ」
史彦「メカニックは計画に着手。
   パイロットは彼を教育し、敵意をなだめろ。
   それが真壁一騎の責務を和らげてくれる」
真矢「最善を尽くします」
『THE BEYOND』5話

 『EXODUS』の総士=『THE BEYOND』の真矢であるため、真矢は『EXODUS』の総士の時と同じく、一騎に対して「いなくなってほしくない」という感情と向き合っていたということになります。

 

・真矢と一騎

 一期26話、総士は一騎に言葉を残して、この世を去った。

総士「僕は一度、フェストゥムの側に行く。
   そして、再び、自分の存在を作り出す。
   どれほど時間が掛かるかわからないが、必ず」
一期26話

 一騎は総士の言葉を信じて、竜宮島で総士の帰りを待つことを選んだ。

一騎「総士、俺はここにいる。
   ここでお前を待っている。
   ずっと」
一期26話

 『THE BEYOND』ラストで一騎は真矢の「たまには竜宮島に帰って来てね」という言葉を肯定した後、竜宮島を後にして旅に出ました。一期終了時の一騎=『THE BEYOND』終了時の真矢であるため、真矢は一期終了時から1年後に目覚めた後の一騎と同じ感情(竜宮島に帰ってくる日を待ちづつずける)と向き合うことになります。

 一期をリアルタイムで見た視聴者は一騎と同じように、総士の帰りを待ち続けるという経験をしましたが、真矢の視点で物語を見ている視聴者は一期をリアルタイムで見た視聴者と同じく、帰りを待ち続けるという経験をすることになります。

 

●マークアレスの同化ケーブル

 一期26話、マークザインは北極で翼を持つ機体を同化して、竜宮島に帰った。

総士「発進する前に艦ごとやられたんだ。
   エンジンが無傷で残っている。
   機体の構造を同化するんだ。
   コントロールをシステムにまわせ。
   離陸した後は僕が操縦する」
一期26話

 一期26話で一騎は総士が操縦して竜宮島の近くまで帰りましたが、総士は『EXODUS』でいなくなりました。一騎の一人で飛んで竜宮島に帰らなければならないという考えから、マークアレスの翼はが生まれたのかもしれません。