【蒼穹のファフナー】人が見えていない

 総士は家族や友人がいなくなった時、なぜ泣かなかったのだろう。

 

・総士の涙

 『RIGHT OF LEFT』、総士が蔵前にこう言った時、総士は涙を流していなかったが、この言葉を聞いた蔵前は泣いていた。

    ジークフリードシステム内の総士――歯を食いしばって、
総士「マークツヴァイ……帰還しろ。
   そこには……もう、誰もいない……」
『RIGHT OF LEFT』(※1

 一期1話、総士は父、公蔵がワームスフィアに飲み込まれていなくなった時、涙を流さなかった。

 一期2話、フェストゥムとの戦闘終了後、総士は父、公蔵と義姉、蔵前をなくしたのにもかかわらず、泣いていない。

 一期6話、マークゼクスが爆散し、翔子が死んだ時、総士は泣いていなかった。

 一期9話、甲洋が同化され、完全に意識を失った時、総士が泣く姿は描かれていなかった。

 一期22話、マークフィアのコックピットがワームスフィアにのみこまれ、衛が亡くなったが、ジークフリードシステムがスカラベ型の根に覆われていた。総士は敵に囚われた状態であるため、衛が亡くなった後の姿は描かれなかった。

 ちなみに総士が泣いたのは、嬉しかったときだった。

総士「何がわかった」
一騎「お前が、苦しんでたことが。
   俺たちが何も知らない時から、お前は島を守ろうとしてくれた。
   翔子の時も、甲洋の時も、お前一人で痛みを背負ってた。
   お前は決して」
一期16話

 

 総士とは対称的にこそうしは妹、乙姫(フロロ)を失った時、”悲しい” と感じて泣いていた。

こそうし「返せ、乙姫を返せ。
     乙姫を返せ」
『THE BEYOND』2話

 

・人=場所

 総士は最初のフェストゥムとの戦闘で父、公蔵と義姉、蔵前という “人” を失った。その後、妹、乙姫のいるアルヴィス内に住み、二度と家という “場所” には戻らなかった。

狩谷「家には戻られないんですか」
総士「家?
   そんなものは今日なくなりましたよ」
一期2話

 総士は” 人”=”場所” と認識していたため、そこにいる “人” がいなくると、家、つまり “帰る場所” もなくなったと認識していた。そのため、総士が体を作ってこの世に戻ってきた時、 “帰る場所” があれば、そこに住んでいる “人” 、つまり一騎は絶対にいると思っていた。

総士「ありがとう一騎。
   島を、僕の帰る場所を守ってくれて」
『HEAVEN AND EARTH』

 ちなみに一騎は総士の “帰る場所” を守るために生きていた。

 その槍の切っ先を、猛然と振るった。
 ――帰れなくていい。
 強烈な意思が、切っ先にみなぎるのを感じた。
 ――お前が帰る場所を、守れさえすれば。
『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』(※2

 総士がシュリーナガルから竜宮島に帰ってきた時、竜宮島という “帰る場所” があったため、カノンという “人” がいないという考えは微塵もなかったのではないだろうか。

総士「そのために機体について話したい。
   カノンはブルクか」
咲良「カノンは、いないのよ」
総士「なに」
剣司「もうどこにもいないんだよ、総士」
『EXODUS』22話

 この時、総士は「場所があっても、人がいなくなる」ということを知ったのではないだろうか。

 以下に総士の “人” と “場所” の認識の変化をまとめた。

  一期2話  人 × → 場所 ×
  HAE 場所 ○ → 人 ○
  EXODUS 22話 場所 ○ → 人 ×

 

 総士は父、公蔵と義姉、蔵前が亡くなった時、失ったものは “人” ではなく家という “場所” と認識していたことからわかるように、総士は “人” がいなくなることの意味をわかっていなかった。そのため、総士は “人” がいなくなった時に悲しいと思うことはなく、泣かなかったのだろう。

 

P.S.
 ”家” という単語には “house” と “home” の両方の意味が含まれているため、印象が曖昧になるります。そのため、自分のイメージを明確に伝えるため、冲方丁は “家” を “場所” という言葉に変更したのではないだろうか。一期2話の狩谷と総士の会話の出てくる “家” という単語を狩谷は “home” という意味で使ったが、 総士は “house” という意味で使ったのではないでしょうか。なお、北米版BD/DVDで一期2話の “家” は “home” と訳されていました。

 

 

※1 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫JA)より引用。

※2 『NEWTYPE LIBRARY 冲方丁』(角川書店、2010年)より引用。