蒼穹のファフナー EXODUS 第24話-1「第三アルヴィス」

ディラン「なんだ、この感情は。
     ギャロップも新国連も、世界のすべてが憎い」
『EXODUS』24話

 『EXODUS』23話で役割を終えた思っていたディラン。人格は崩壊し、「憎い」という感情のみ残ってしまいました。新国連は最終的にヘスターとバーンズのどちらが主導権を握るのかわからない。

 

・アルヴィスの名称

第一アルヴィス 竜宮島 Dアイランド
第二アルヴィス 蓬莱島 アヴァロン
第三アルヴィス 海神島 アトランティス

 日本語での名称と新国連がつけた名称の意味するところがだいたい一致しているのが興味深い。

 第二アルヴィスに新国連が付けた名称アヴァロン(Avalon)はウェールズ語のafalが語源(※1)で、afalの意味は林檎。一期7話から9話に登場したアーカディアン・プロジェクトで建造された島のコアに潜んでいたマスター型フェストゥムの名はイドゥン。この名前の語源は北欧神話のイズンだと思われる。イズンの役割は「ギュルヴィたぶらかし」(※2)にこう書かれている。

ブラギ(アース神)の妻がイズンだ。イズンは、神々が年とったとき、食べなくてはならぬ林檎をトネリコの箱に仕舞っている。それを食べれば、神々はみな若返って、神々の終末(ラグナレク)まで年をとらないでおれるのだ。

 作中では一期7話から9話に登場した島が第二アルヴィスだとは明言していないが、新国連の名付けたアヴァロンとそこから生まれたフェストゥム、イドゥンは「林檎」で結ばれていて、一期7話から9話に登場した島=第二アルヴィスであることを暗示している。

 

操「ねえ、空がきれいだって思ったことある?」
『EXODUS』24話

 フェストゥムは「あなたはそこにいますか」という言葉で人とコミュニケーションを取ろうとしているが、元は『EXODUS』13話でヘスターが「人類は友愛のメッセージを宇宙に送り続けてきました。このゴールデンレコードを始め、電波や光を使って」と説明しているように、人類が宇宙へと送り出したメッセージだった。

 一期の時の資料にフェストゥムがこの言葉を知った経緯が掲載されている。

もともとは地球人が外宇宙に向けてはなった、古い無人探査船に搭載されていたプレートに刻まれていた言葉。その探査船には地球の位置や地球人に関する情報が多く積まれていたという。宇宙を放浪していたフェストゥムがそれを捕獲して分析。人類という存在を知ると同時に、プレートに刻まれていたことばを、人類へのコミュニケーションツールとして記憶したのだ。(※3

 操はこの時と同じように自分が知っている言葉でフェストゥムと話をしようとした。

 

操「うわー、この器に乗っていいんだ」
『EXODUS』24話

 竜宮島のコアと空母ボレアリオスのコアは人類が作ったファフナーを「器」と呼び、ベイグラントのコアの少年はファフナーに乗るパイロットであるミツヒロのことを「器」と呼んでいる。

 

操「強い記憶を感じる」
『EXODUS』24話

 『EXODUS』23話、喫茶楽園で操は「やさしい記憶をたくさん感じる」と言っているので、『EXODUS』の操はその場所に残った人の記憶を感じる能力を持っているのだろう。

 

操「僕と君たちの未来を導いた子。
  あなたがお母さんなんだ」
『EXODUS』24話

 そういえば乙姫の最初の言葉は「お母さん」(一期14話)だった。操はここで母と子という概念を学んだのだろうか。

 織姫と『EXODUS』の操というミールのコアは無性生殖で生まれたけれど、フェストゥムもいずれ有性生殖に向かうのか。

 

 暉「島に爆弾を落とした人に会ったよ」
里奈「えっ」
 暉「いい人だった。
   俺たちを守っていなくなった。
   譲ってもらった命。
   捨てる気はない」
『EXODUS』24話

 『EXODUS』3話で里奈がビリーに言った台詞「あんたら、あたしらになにした。島を占領してさ、爆弾落としてさ」への回答。しかし、暉のこの言葉に対して、里奈は「お腹すいた。作ってよ」と言って話をそらした。この暉の言葉に対する里奈の反応は25話以降で描かれるのだろうか。

 

 操「おおー、これが一騎カレー?」
 暉「暉カレーです。よかったらどうぞ」
甲洋「ありがとう」
里奈「ありがとう。上達したじゃん。
   一騎先輩と比べるとまだまだだけど」
『EXODUS』24話

 暉カレーは『EXODUS』1話の完全長尺版で総士から「極めて平凡だ」と言われていた。

 

暉「まだだ、まだ動ける」
『EXODUS』24話

 『EXODUS』24話で暉は喫茶楽園で自らが作ったカレーを振る舞った時、里奈には「でも負ける気はないよ」と言い、戦いに出る前には昏睡状態の一騎の元を訪れ「俺、負けませんから」と声を掛け、暉の一騎に勝ちたいという気持ちが描写されている。一期24話で同化現象により体の右側が動かない一騎に挑む剣司と重ねているのかもしれない。しかし、剣司の時とは異なり、一騎は昏睡状態のため同じ土俵に上がることさえできず、暉の気持ちに応えることができない。この台詞は『EXODUS』15話の一騎の台詞「まだだ、まだやれる」と思い出す。

 

 一騎「俺も島と一つになるのか」
カノン「それは最後の祝福だ、真壁一騎」
『EXODUS』24話

 これまでいなくなった竜宮島の住人と同じく、一騎も最後は島の記憶として残ることが示された。

 

カノン「お前が世界を祝福するなら、
    我々が生と死の循環を超える命を与えよう」
『EXODUS』24話

 これまでフェストゥムを祝福した人はみな、まず最初に自分からフェストゥムを祝福し、その結果フェストゥムから祝福され、さまざまな形でこの世に存在することになった。これまで作中で祝福をした人について列記してみた。

真壁紅音(一期24話)
 ミョルミア「彼女はどこにもいないはずの我々を祝福した。
       結果、私はミールと拮抗し、一つの存在となった」
 →紅音の記憶を持つマスター型フェストゥム、ミョルニアが生まれた。

皆城乙姫(一期26話)
 乙姫「あたしは、あなたたちみんなを抱きしめるおかあさんみたいに。
    そのためにこの島と一つになる」
 千鶴「ミールが命の循環を理解した」
 →乙姫の記憶を持つが、別の人格を持つ織姫が生まれた。

皆城総士(一期26話)
 総士「一騎、ぼくはフェストゥムに痛みと存在を教えた。
    そして僕は、彼らの祝福を、存在と無の循環を知った」
 →心は人、体はフェストゥムという島のコアに近い状態になったものの、再び存在を取り戻した。

来主操(HEAVEN AND EARTH)
 操「生まれよう、一緒に」
 →おそらくスフィンクス型フェストゥムであった来主操の記憶を持つ、空母ボレアリオスのミールのコアが生まれた。

 しかし、一騎はこれまで祝福した人とは異なる形となった。自分がやるべきことをすべて成し遂げた後に世界を祝福するという条件と引き換えに、島のミールから先に祝福を受け、今の自分に必要なものを手に入れるという形になった。そして、最終的に一騎が行き着く先は『EXODUS』18話でナレインが提示した永遠の戦士ではなく、この場面冒頭の一騎の台詞「俺も島と一つになるのか」である。

 これまでフェストゥムを祝福した人とその内容は以下のとおり。

真壁紅音:存在
皆城乙姫:命
皆城総士:痛み
 来主操:誕生

 さて、一騎の祝福は何になるのだろう。

 

一騎「俺を…母さんみたいにするのか」
『EXODUS』24話

 『EXODUS』6話で一騎は「俺もお前もフェストゥムの力で生きているんだな」と言っていた。一騎は今の自分がフェストゥムの力で生きていることは自覚していたが、まだ人の領域にとどまっていたと思う。力尽きてもはや戦い続けることができないというところまで追い詰められるまで、一騎は現状からあと一歩踏み出す勇気-つまり人であることをやめる-を持てなかった。

 

一騎「昔、自分なんかいなくなればいいと思ってファフナーに乗った。
   なのに、自分がいる理由を探して、ずっと乗り続けた。
   選ぶよ。
   まだ俺にも命の使い道があるなら。
   それを知るために生きたい」
『EXODUS』24話

 『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』にあるこの一文を思い出した。

 いつ自分の命を使うべきか、今こそ自分がいなくなるべき瞬間なのか、といったことを、敵との対話の中で探り続けるなどということのない、安らぎの中に、一騎は、いた。
『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』(※4

 アニメでは描写されていないけど、一騎はこんなことを考えながらずっと敵と戦っていたということ。

 

カノン「お前は世界の傷をふさぎ、存在と痛みを調和させるもの」
『EXODUS』24話

 ワーグナーの楽劇『パルジファル』第三幕のパルジファルの台詞を思い出した。

パルジファル:ただ一つの武器だけが
       その傷を閉ざすのに役に立つ
       その傷を作った槍がそれなのです(※5

 存在は一騎の母、紅音の祝福だった。痛みは総士の祝福だった。つまり一騎は母、紅音と総士の祝福を調和する存在なのか。

 

カノン「我々はお前によって世界を祝福する」
『EXODUS』24話

 織姫が『EXODUS』11話でこう言っていたのを思い出した。

織姫「世界中のミールの欠片たちがね。
   みんな、未来を探してる、滅びではない、未来を」
『EXODUS』11話

 竜宮島のミールも滅びではない未来を掴みために、世界を祝福する必要があると感じているのかもしれない。ただし、島のミールが世界を祝福するためには、人の形をした存在が必要で、そのために一騎を選んだ。ベイグラントのコアがその代理人としてミツヒロを作り出したように。

 『EXODUS』4話で島のコアが一騎に「あなたはどう世界を祝福するの」と問いかけていた。これまでの人がフェストゥムを祝福し、その後にフェストゥムが祝福するという構図を逆転させるためには、まず一騎に人生の最後には世界を祝福する必要があることを教え、それを自分で考えさせる時間が必要だったということか。

 

・一騎の右腕と両目


 一騎は一期26話でイドゥンに連れ去られた総士を助ける時に両目の視力を失ったが、『HEAVEN AND EARTH』のラストで操が治した。『EXODUS』21話で子どもの時に総士の左目に傷を負わせた右手を進みすぎた同化現象で失い、『EXODUS』24話、島のミールの祝福で取り戻した。総士は左目の視力をフェストゥムの力で取り戻したが、一騎も罪悪感に満ちた右腕を一度失いフェストゥムの力で取り戻したことで、子供の頃の自らの罪を償ったことになるのかもしれない。

 

暉「広登が…無事に…
  本当は…わかってた。
  お前はもういないって。
  でも…そんなの…耐えられなくて」
『EXODUS』24話

 人類軍が回収した広登の遺体が島に戻る前、暉が広登がもういないことを受け入れたまさにその時、暉自身がいなくなる時だとは思わなかった。暉の役割は広登の後を継ぐことではなく、島を攻撃したウォルターの存在を里奈に伝えることだった。最終的に里奈は人類軍への敵意を捨て、その行為を許し、和解への道をたどることになるのだろう。

 

※1 英語版wikipedia、Avalonの項を参照。
    https://en.wikipedia.org/wiki/Avalon

※2 谷口幸男訳「エッダ-古代北欧歌謡集」(新潮社)より引用。

※3 月刊ニュータイプ2004年12月号付録「蒼穹のファフナー Log-Book」より引用。

※4 『Newtype Library 冲方丁』(角川書店、2010年)に収録。

※5 楽劇『パルジファル』渡辺護訳 ジェームズ・レヴァイン指揮1985年バイロイト音楽祭収録のCDブックレットより引用。