『EXODUS』22話はオープニング、エンディングの大胆な曲の使い方に唸らせられました。
エウロス型が生み出した武器にこの文字を見た時には愕然としました。
新国連=憎しみという構図。
操「ねえ。助けたんだから君を同化してもいいよね」
エメリー「美羽」
弓子「そんな約束をしたの」
美羽「うん」
操「やったー、君の力をもらえるのは嬉しい」
美羽「でもまだだよ」
操「ん?」
美羽「世界中のみんなが平和になってだれも悲しくて痛くなくなったら、
美羽を食べていいよ。
だからそれまで美羽たちを助けて」
『EXODUS』22話
美羽の発言にショックを受けた人が多いと思う。しかし、ドラマCD『THE FOLLOWER』(※1)、アニメでは『EXODUS』7話の時点で、ミールが自分を食べることについて美羽は覚悟済みだった。
美羽「あの大きな木に美羽を食べてもらうの」
道生「本気か」
美羽「あのお星様に食べてもらうのがいいんだけど、今はできないから
あの大きな木と一つになって、違うものになってもらうの」
ドラマCD『THE FOLLOWER』
日本のエンタメで何らかの契約する時に条件を全部言わずに後出しジャンケンする作品が多いけど、ファフナーでは絶対にだまし討ちをしない。美羽と操の関係は小野不由美『十二国記』で麒麟が使令として使う妖魔との契約を思い出した。麒麟は使令として使う妖魔と自らが死んだ時に自らの死体を食べさせるという契約をする。
この時、美羽が自分をミールに食べてもらって何をする気だったのかはこの直後に語られる。
道生「違うもの?」
美羽「エメリーが教えてくれたから。
戦うって怖いことだけど、そうしなきゃいけない時もあるって。
だからね、美羽とあの大きな木が怖い怪物みたいな子たちよりも
もっと強いものになって、戦うの」 ドラマCD『THE FOLLOWER』
しかし、『EXODUS』21話で一騎と総士はこう話している。
一騎「戦うだけじゃ希望になれないって思い知った。
ただ命を使うだけじゃ、どこにもたどり着けない」
総士「同感だ。
僕らには新たな平和を作る術がない。
世界を導く者たちを、対話の力を守ろう」
『EXODUS』22話
戦う力を持つ者は自らの持つ力に限界を感じているのに、対話の力のある者が戦う力を求めてしまう。お互いにないものねだりしているという皮肉な状況。
この場面での操の台詞は『HEAVEN AND EARTH』を思い出させるが、微妙に違っている。
操「そう、俺に君たちのコアを同化させて」
そうすれば戦ったりせず、ここのミールを俺たちのミールが同化できる。
俺たちに痛みや死の恐怖を与えたのはこの島だから」
史彦「我々ごとお前たちの痛みを消すと」
『HEAVEN AND EARTH』
『HEAVEN AND EARTH』の時の同化は「痛みと死の恐怖を消す」ためのものだった。しかし、今回、操が提案した同化は消すためのものではなく「君の力をもらえるのは嬉しい」と、同化した者の力を得るためのものへと変化している。
織姫「島が一騎を祝福する。一騎が望む限り」
『EXODUS』22話
ミールの祝福の真意はさておき、一騎には選択の余地があるということ。
ザインがアビエイターの核を同化しようとした時、一騎はすべてをやりきったという表情をしていたけれど、まだやらなければいけないことがある。一騎は人生の最後に織姫から問いかけられた「あなたはどう世界を祝福するの」の答えを出なければならない。『EXODUS』9話で「これが…俺の…祝福だ」と言っていたけど、あれは織姫に求められた祝福ではないと思う。
織姫「真矢と世界、どちらを助けるの」
総士「両方だ」
『EXODUS』22話
一期19話で総士は乙姫から同じような質問をされて、次のように答えていたのを思い出す。一期19話で乙姫が質問した時に総士は即答せず、時間を置いて次のように答えている。
乙姫「一騎と真矢、両方危険になったらどちらを優先する」
総士「全員だ。
さっきの質問の答えだ。
どんな危機においても、ジークフリード・システム内の全パイロットを僕が守る」 一期19話
総士「織姫、島を出る許しを与えてくれ」
『EXODUS』22話
一期22話で総士は乙姫に「僕がこの島を出るためのコアの許しがほしい」と言っている。一期23話で総士はイドゥンにさらわれたため、この時、総士が乙姫に語ったことを実行することはできなかった。
総士「それは…ミールによる死と再生か」
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
あなたとあなたの器が生まれ変わる。
そういう未来が見えるの」
『EXODUS』22話
『EXODUS』14話でエメリーが「あなたは永遠の存在だとミールは言っています。彼らに痛みを与え続けるため、この世に居続けると」と言っていたけど、総士は「フェストゥムに痛みを与え続ける存在」からはなんらかの形で開放されると。ミールのコアになることができるのは乙姫、来主操、そして総士のように人の心を持つフェストゥムのみ。そして、総士は織姫からこの言葉を聞いたからこそ、自分の経験したことをを未来へ伝える必要を感じ、『EXODUS』という記録を残して、この世からいなくなったのだと思う。
織姫「普通の家族みたいに…暮らしたかったね」
『EXODUS』22話
一期17話、乙姫は総士に「家族みんなで、暮らしたいな」と言っていた。『EXODUS』で織姫はかなうことのない望みとして話しているのが悲しい。
総士「それがかなう未来を願おう。
僕らがいた証として」
『EXODUS』22話
『EXODUS』21話で真矢と一騎がこんな会話をしていた。
真矢「二十歳か。
ファフナーに乗ったのが十四歳。
もっとゆっくり大人になりたかった」
一騎「本当に平和になれば、きっとそんな世界になる」
『EXODUS』22話
一騎と総士は自分の人生が終わりに近く、自分たちが未来をつかむための礎になることを受け入れている。そして、自分たちができなかったことは、平和になった時に必ずできるはずと未来への希望をを語る。
ヘスター「ザルヴァートル・モデル、マークレゾン。
あなたはそのテスト・パイロットになることで、あなたは罪を免れる。
誠実で勇敢な人類軍兵士に死をもたらした罪を」
真矢「マークフュンフを使ったの。
あたしの仲間はどうしたんですか」
ヘスター「遺体を回収したと聞いています」
真矢「殺したんですか」
ヘスター「戦いで命を落としたそうよ」
『EXODUS』22話
人類軍の捕虜となった真矢。一期では一騎が人類軍の捕虜になっているので、『EXODUS』では一騎と真矢で役割が入れ替わっている。
竜宮島回覧板 EXODUS第1号に以下のような一文がある。
遠見真矢『同胞殺しと紛争調停者』へ
『EXODUS』14話を見た後、バレエ「ロミオとジュリエット」(※2)を見たくなった。見たのはこのバレエの第3幕の幕切れ。ロミオの死にショックを受けたジュリエットが自害した後、モンタギュー家とキュピレット家の人々がやってきて、和解の証として手を取り合う。つまり人類軍と同じ罪を犯した真矢だけが、竜宮島と新国連が和解するための交渉のテーブルに座ることができるということ。
グレゴリ型「あいつらはたくさんの心を作っては消した。
僕がいた島の人たちもみんな殺した。
でもそのたびに力が育った。
そして、君という器が生まれた。
僕たち…みんなを…憎しみの器が」
『EXODUS』22話
一期21話、真壁司令と溝口との会話を思い出した。
史彦「フェストゥムと人間の共生、お前は信じられるか」
溝口「さあな。俺たちの世代は敵を憎みすぎた。
そういう意味じゃミツヒロみたいな奴が俺たちの代表さ」
史彦「一騎がいなければ俺もミツヒロと同じ道を選んでいた」
一期21話
竜宮島では子供たちがフェストゥムとの共存を選び、その親はその憎しみを捨てた。フェストゥムへの憎しみを捨てられなかったミツヒロが、竜宮島を去り新国連へ行ったのは当然のことか。
・竜宮島と人類軍のパートを繋ぐ言葉は「第三アルヴィス」
ヘスター「かつて日本で発見された瀬戸内海ミールは三分割され、
三つのアルヴィスが管理しました。
これはその一つ、第三アルヴィス。
アトランティスのコアだったもの」
ナレイン「新国連によって葬られた島、第三アルヴィスだ」
グレゴリ型「あいつらはたくさんの心を作っては消した。
僕がいた島の人たちもみんな殺した」
『EXODUS』22話
新国連が抹消した第三アルヴィス。そういえば一期で「憎しみ」を知ったイドゥンも別のアーカディアン・プロジェクトの島のコアから生まれた。そして今、ベイグラントのコアは新国連が同じ人間に対して犯した罪そのものを象徴する存在となってしまった。となると、新国連の将軍であるナレインがかつての第三アルヴィスでで新たなミールを根付かせることが、新国連の犯した罪への贖罪になるのだろうか。ナレインの持つミールにはなぜかグレゴリ型という同化された人の心というフェストゥムが寄生している。
衛星軌道上にあるベイグラントの本体には竜宮島と同じく、ゴルディアス結晶が育っている。ただし、竜宮島とは異なり、同化された人の憎しみが保存されている。
・竜宮島と人類軍のパートを繋ぐもう一つ言葉は「器」
織姫「あなたが憎むマークニヒトはあなただけの器」
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
あなたとあなたの器が生まれ変わる」
グレゴリ型「そして、君という器が生まれた。
僕たち…みんなを…憎しみの器が」
『EXODUS』22話
「器」で繋ぐのが第三アルヴィスで今コアである存在と未来にコアになるであろう存在。
織姫の言葉から転生した総士が第三アルヴィスのコアになることがほぼ確定。おそらく竜宮島のコアとは異なり、総士自身の記憶は引き継がれないのだろう。つまり『EXODUS』そのものが総士の転生した存在あてに残した、第三アルヴィス誕生の記録ということになるのだろうか。
※2 パリ・オペラ座で上演されたヌレエフ版で、主演はモニク・ルディエール、マニュエル・ルグリ。1995年収録のDVD。