『EXODUS』15話ラスト、竜宮島へ向かう高速機とともに視聴者の視点を島へ移し、14話EDラストの上空から見た竜宮島の夜景からスタート。嫌でも広登のことを思い出す。
オルガ「私たちはダッカ基地部隊に攻撃を受けました。
データを送ります。
どうか受け取って。
みんなを助けて」
ベラ「逃げて、オルガ、逃げて」
陳晶晶「データ受信80%、90、95。
受け取ったわよ、オルガ」
『EXODUS』16話
オルガが高速機から送ったデータを受け取るのが、オルガと同じ人類軍のファフナー・パイロットだったベラと陳晶晶。
織姫「好きに探しなさい。
でもファフナーは戻して。
もういない人より大事な存在だから」
ベラ「人よりファフナーが大事」
『EXODUS』16話
一期10話の一騎と総士の会話「ファフナーと俺たち、お前にとってどっちが大切なんだ」、「ファフナーだ」を思い出す台詞。一期は海岸で子どもである一騎一人に対して言われた言葉であるのに対して、『EXODUS』でこの言葉を聞いたのはCDCにいる大人たちということで、完全に正反対の状況になっている。さらに付け加えると「人よりファフナーが大事」と言うのが島の住人ではなく、元人類軍のファフナー・パイロットのベラである、というのが重要なポイント。 この会話でわかるのは『EXODUS』では総士と織姫の立ち位置が逆転していて、織姫は戦闘時、一期前半の総士のような態度を取っていること。しかし、6話で織姫自身が言っているように島の住民が戦いを望んだ結果、本人の性格とは関係なくこういう態度を取らざるを得ないコアが生まれたことを忘れてはならない。織姫自身の本心は16話冒頭、芹の部屋で泣いている姿で表現されている。総士は一期前半で唯一本音の言える存在(父、公蔵と蔵前)が不在で孤立していたが、織姫には精神的な支えになる芹がいるというのが両者の違い。
史彦「以前のコアなら決して言わなかった」
織姫「わたしは皆城乙姫じゃない」
『EXODUS』16話
『EXODUS』6話の芹と織姫との会話で乙姫とは別人だと言っていたけど、見た目も同じなのでその事実をなかなか受け入れられないことがわかる場面。最初から織姫を乙姫とは別人として見ているのは総士と6話で織姫に名前を聞いた一騎の二人だけ。
・竜宮島では広登制作のテレビ番組が流れる
『EXODUS』1話で広登がメットを美三香に手渡した後、「広登が亡くなったあとも島では広登制作のテレビ番組が流れるんだろう。島民は辛いなあ」と思っていたのですが、広登の死を知っている番組視聴者が一番ダメージを受ける形で予想していたシチェーションが使われてしまった。
イアン「人類軍に捨てられ、この島に拾われた命。
この地に葬られることを感謝しよう」
『EXODUS』16話
『HEAVEN AND EARTH』でのジェレミーの台詞「いつか私たちの名もああして記されることがあるのでしょうか」が思い浮かんだ。そして、ついにこの言葉が現実になる日が来てしまった。フェストゥムによってワームスフィアで消されたり同化されることが日常茶飯事のこの世界では遺体があるだけでも幸せなこと。
私は一期26話、一騎が島にたどり着く前に総士は同化されて消滅。「一騎は総士の肉体の欠片さえ島に持ち帰ることさえできなかった」ということに気がついた時、再度、どん底に叩きつけられる感覚を味わったことを決して忘れない。
容子「美羽ちゃんとあの少女のように、遠くの相手同士、会話していると」
『EXODUS』16話
一騎が『EXODUS』15話で上空の敵の存在に気がついた時、「なにかと会話してるのか」と言っていて、「会話」という単語が引っかかっていた。フェストゥムと会話のできる美羽は『HEAVEN AND EARTH』で「おはなし」という言い方にこだわると遠見先生が言っていたので、その延長上にある表現。
織姫「あなたのための食べ物よ」
芹「すぐ同化しちゃうからもったいなくて…」
織姫「私は同化されない。
安心しなさい。
よく味わいなさい」
芹「食べ物の味、久しぶり。
先生たち、あたしの健康心配しているの。
ケガをしたり病気になったら、
たぶん、周りの命を同化して生きようとするって」
織姫「どんな命も他の生命を奪って生きてるわ」
『EXODUS』16話
『EXODUS』1話の「人類がどのようにして命を保つか、学習したか、フェストゥム」(ナレイン)から『EXODUS』では一貫して食事シーンを意識的に描いてきた。14話で「この地に生きる命を我らが糧として口にすることを許し給え」(ナレイン)、「今日、ここにいる命をたくさん分けてもらった」(一騎)という台詞があったけど、それはこの場面と繋がっている。島のミールも人間が生き続けるためには何が必要かを学んだたことが芹の同化現象として現れている。ミールから見れば芹自身の周りにある命は動植物も人間も平等。その結果、芹の言う「周りの命」には人間も含まれていると思う。人が生きていくために同じ人の命を必要とするというと「エルリック・サーガ」(※1)を思い出す。芹は生きるために他の命を同化しているので、乙姫と同じコア型のフェストゥムである織姫は命を持った存在ではないため、芹は同化しない。
ふと、『HEAVEN AND EARTH』で「一騎カレーってなに?」と聞いて、美味しそうにカレーを食べていた操の姿を思い出した。フェストゥムが「人間の食べる」ということを知ったのは操を通してなのかもしれない。
芹「外を歩いて、青い空が見たい」
『EXODUS』16話
『HEAVEN AND EARTH』では敵に空が奪われ、芹は「青い空が見たいよ」と泣いていた。この時話していたのが広登で、空を取り戻した後、広登が「青い空だぞ、芹」と言ったのが印象に残っている。しかし、広登はもういない。
里奈「今年も盆踊りに若干の変更を…」
『EXODUS』16話
一期では弓子が「盆踊りは若干の改良を加えており」と言っていて、『HEAVEN AND EARTH』ではカノン「今年は盆踊りに若干の変更が…」と言っていた。担当者が代替わりして引き継がれていることがわかる台詞。残念ながら弓子はもういない。(※2)
織姫「わたしが力を与えたわけじゃない
あなたの存在が力を芽生えさせた」
カノン「まるで、わたしが悪い未来を招き寄せている気分だ」
織姫「見ているだけではダメ。
未来と戦いなさい」
カノン「なに!?」
織姫「それはあなたの力。
選びなさい。
命の使い方を。
一騎のように」
カノン「未来と…戦う」
『EXODUS』16話
一期17話で「命令されたまま、自分の命と一緒に、島を消そう」としたカノンが織姫から「自分の意志で選び、自分の命を使って、島の未来をつかむ」という島に来た時とは正反対の命の使い方を突きつけられた。『EXODUS』12話で織姫が「誰もが祝福を背負うことになる」と言っていたけど、おそらく島のファフナーのパイロットは全員、祝福する覚悟しないと未来が勝ち取れないのだと思う。
容子「搭乗に問題なし。
本当にただの起動試験なのね、カノン」
カノン「うん、心配しないで、母さん」
『EXODUS』16話
一期2話で「大丈夫よ、こっちからは見えていないから」と言いながら、モニターを見ていた羽佐間先生。『EXODUS』4話で「見てねえから、まっすぐ歩け」と言って、モニターから目をそむけた剣司という描写をした後で、養子縁組した親子で女性同士とはいえ、モニター越しで話すというシチュエーションが出てくるのは予想外だった。
カノン「ファフナーが怖いなんて初めてだ」
『EXODUS』16話
『HEAVEN AND EARTH』では「自分と機体を信じて戦え」と言っていたのに、『EXODUS』では一転して機体を信じられなくなる。ここでも認識がひっくり返されている。
この台詞を聞いて真っ先に思い出したのが『EXODUS』4話での「一騎の体を蝕んだ、化け物だ」、「それがファフナーなのよ、カノン」というカノンと羽佐間先生の親子の会話。4話を見た時はミールのふるまいを間近で見てきた島の親世代と島の外で生まれたカノンの間にあるファフナーへの理解度の差だと感じたけど、カノンがファフナーという存在を本当に理解し始めた時、やっと母親の言葉の意味を実感し始めたのだと思う。
・鏑木家
食事が終わった後の彗と母の香奈恵が話しているところに、父の充が帰宅し、彗が引き寄せた里奈が鏑木家に揃うのは11話と同じシチュエーション。11話の合宿で里奈が彗の家庭環境を知ったあとなので態度はやさしい。ここで里奈の話す内容は8話のアルヴィスのメディカル・ルームで彗に言った言葉の延長上にある。
香奈恵「わたしも行くはずだったのに。
お姉ちゃんだけ行ったのよ」
『EXODUS』16話
彗の母、香奈恵を見ていると、一人娘が交通事故で亡くなり、生きる気力を失った時に自らが癌であることが判明。治療を拒否し緩和ケアだけ受け、娘の死の翌年に亡くなった人を思い出す。この世界で生きていくのに必要な精神的な強さを持ち続けることのできない人も当然存在するわけで、そういう人を描いていることに好感を持った。父親も含め、この家族がどう変わっていくのかを見届けたい。
カノン「見るだけではない。この手で触れてやる!」
『EXODUS』16話
派遣部隊で本当の敵に見つけたのは一騎で、島で本当の敵を見出すのはおそらくカノン。14話の総士の「彼らの世界に触れるには彼ら自身に触れるしかないということだ」の言葉通り、カノンはこの手で触れて未来をつかむ道を選んだ。
容子「搭乗時間と記録時間が違う」
イアン「もしこれがデータミスでないなら、
機体の中と外で時間の流れが違う?」
『EXODUS』16話
ワーグナーの楽劇『パルジファル』第1幕のパルジファルとグルネマンツの会話を思い出した。
パルジファル「私はほとんど歩いていないのに
もうずいぶん遠くへ来たように思える」
グルネマンツ「息子よ、お前の見る通り
ここでは時間が空間になるのだ」(※3)
謎めいた「ここでは時間が空間になるのだ」という言葉はこのオペラでよく知られている台詞。
※1 マイクル・ムアコック著、早川書房刊行。主人公のエルリックはアルビノで生命力に欠け、人の魂を食う魔剣ストームブリンガーのもたらす力がなければ生きられない。その力の代償としてエルリックの近しい人の命が奪われる。
※2 『蒼穹のファフナー EXODUS』BD/DVD4巻の特典のドラマCD「THE FOLLOWER」参照。
※3 ワーグナー/楽劇『パルジファル』(レヴァイン指揮、1985年バイロイト)のCDに添付していた渡辺護訳(1987.9.訳補訂)から引用。