【蒼穹のファフナー EXODUS】事象の地平線

総士「人類が知る限り、この宇宙で存在が無にのまれても存在した情報は失われない。
   無と存在の狭間にある事象の地平線は存在があったという情報の分だけ広がる。
   地平線のこちらに無はなく、あちらに存在はない。
   ミールとフェストゥムは未知の物理法則で地平線のエントロピーを得る無の申し子だ。
   僕は彼らの地平線と交わり、彼らの調和で再び存在を得た」
『EXODUS』14話

 『EXODUS』14話を初めて見た時、総士のこの台詞には一騎や真矢と同じく狐につままれた気分になった。しかし、それから3年半ほど経った現在でも、この台詞の意味するところはやっと半分くらい理解したような状態である。

 

 『EXODUS』で竜宮島のファフナー・パイロットに超次元現象、SDPが発現した。SDPは手元に武器や機体を瞬間的に引き寄せるアボート(引き寄せ)、別の次元に潜り込んで瞬時に移動するロスト(消失)、フェストゥムの攻撃方法を防御するための壁として使うウォール(壁)(※1)などフェストゥムが人間を攻撃する時に使っていた持っている力をファフナー・パイロットが使えるようになる現象だった。カノンのSDPは無数の未来を見ることのできる能力だったが、竜宮島のコアでフェストゥムである織姫が同じ能力を有していた。

 三田一郎『科学者はなぜ神を信じるのか』(講談社ブルーバックス)の「宇宙の量子化とホーキング放射」の中に事象の地平線(※2)という言葉があり、宇宙論で使われている言葉だということを知った。

なんでも吸い込むだけかと思われた暗黒天体ブラックホールが、実はものを放出していたのです。
三田一郎『科学者はなぜ神を信じるのか』(講談社ブルーバックス)

 このホーキング放射の考えを『ファフナー』に当てはめると、宇宙論の事象の地平線≒総士の言う事象の地平線、ブラックホール≒フェストゥムの無となり、こうすることによって総士の「地平線のこちらに無はなく、あちらに存在はない」(※3)という言葉が理解しやすくなりました。もっとも『ファフナー』では「無にのまれても存在した情報は失われない」(※4)としていますが、ホーキング放射でブラックホールに取り込まれ物質が持っていた情報の行方については、ブラックホール情報問題(※5)というパラドックスを指摘しています。カノンのSDPは量子力学を使って説明することができる能力(※6)だったことから、ミールとフェストゥムの世界は量子力学に基づいて設定されたと考えることができます。

 

P.S. PCのIME(日本語入力システム)はGoogle 日本語入力を使っているのですが、「事象の」と入力するとサジェストに「事象の地平面」と「事象の地平線」が出てきます。もっと早くこのことに知っていればこの言葉をググったので「事象の地平線」が宇宙論に由来する言葉であることに気がついたと思います。

 それにしてもこの記事を書いている時に「ブラックホールの撮影に初成功」(2019年4月10日)というニュースを見てびっくりしました。

 三田一郎『科学者はなぜ神を信じるのか』(講談社ブルーバックス)は「コペルニクスからホーキングまで」という副題通り、コペルニクスの地動説から順番に物理学の歴史を紹介しているので、相対性理論以降の物理学もおぼろげながらも理解できる構成になっています。

 

※1 『EXODUS』公式サイト内、SPECAL/CHARACTER/鏑木彗御門零央水鏡美三香の項を参照。

※2 事象の地平面、シュバルツシルト面とも言われる。wikipediaでは事象の地平面で項目が建てられている。

※3 『EXODUS』14話、総士の台詞。

※4 『EXODUS』14話、総士の台詞。

※5 Wikipediaのブラックホール情報パラドックスの「パラドックスの解決に向けた主なアプローチ」に興味深い回答がある。

※6 【蒼穹のファフナー EXODUS】カノンのSDPを参照。