総士「たとえ強いられた運命であっても、自分の意思で選び直せというのか、乙姫」
乙姫「みんなが求めているものを、与えるのがあたしの役目。
本当にそれが欲しいのか、もう一度選んでもらうために」
一期16話
一期16話で島のコアである乙姫はアルヴィス上層部、総士、剣司、衛、咲良に人類軍に奪われたフェストゥムと戦うための武器を与え、自分の意志で戦うのか否かを選ばせた。
一期で総士は島のコアに従うということを、一騎はファフナーに乗れない総士の代わりに戦うということを選んだが、乙姫が一期16話で選ばせた人々とは異なり、この二人にはそれ以外を選べないという縛りを掛けられていた。そのため、二人に掛けられていた縛りは『EXODUS』ですべてはずされ、それでも同じものを選ぶか否かが問われた。
・総士の選択
一騎が総士の左目を傷つけた結果、総士はファフナーに乗ることができず、ジークフリード・システムの担当、つまり島から出ることができない存在になった。一期8、9話でアーカディアン・プロジェクトで建造された別の島を探索した時、総士は探索部隊には同行せず、島からファフナーに指示を出した。総士が島から出られない存在であることが露呈したのは、狩谷先生と島を出た一騎が新国連にいることがわかった時だった。
総士「間違いありません。
あの動きは一騎です」
真矢「だったら助けに行かなきゃ」
真矢「皆城君、あそこに一騎君がいるんでしょ。
助けに行こうよ」
総士「無理だ、あんな場所にファフナーを出撃させるなんて」
真矢「誰も行かないんだったら、あたしが行く」
一期13話
真矢は総士に一騎を助けに行こうと訴えるが、島に縛り付けられ、島から出ることができない総士にはこの状況を打破することはできない。そのため、総士の代わりに真矢が一騎を助けにいくことになった。総士の左目の傷はいわば島に縛り付けられた存在であることの証である。
総士は北極ミールに同化されて肉体を失いこの世界からいなくなったが、フェストゥムの調和を得たことにより肉体を得て存在を取り戻した。その際、一騎に傷つけられた時に失った左目の視力も取り戻したため、ファフナーに乗ることができるようになった。それは総士が島から自由に出られる存在になったということを意味していた。そして、島のコアが妹ではなく姪と血縁が遠くなり、ファフナーに乗れないという縛りをはずされた後、総士には島のコアの意思に従うか否かという選択肢が与えられた。
織姫「総士、一騎、今すぐ美羽を守りに行きなさい」
総士「ぼくはコアの言葉に従う。
ずっとそうしてきたように」
『EXODUS』6話
総士はすべての縛りをはずされた後も迷うことなく、島のコアの意志に従って生きていくことを選んだ。
・一騎の選択
総士「行けるのなら、僕がいくさ。でも…」
一期1話
一騎「俺、総士と一緒に戦うこと、決めたから」
一期2話
一騎「俺がやったんです。
子供の頃ここであいつの左目を奪ったんです。
なんで、そんなことしたのか。
せめてあいつの目の代わりになろうと思って」
一期10話
一騎は自分が総士の左目を傷つけたため、総士がファフナーに乗れないことを知り、総士の代わりにファフナーに乗って戦うことを選んだ。しかし、翔子がいなくなり、甲洋が同化された後、一騎は総士の考えていることがわからなくなり、総士を理解するために島の外の世界を見に行った。一騎は総士と同じく島の外の世界を見たことで総士の考えていることを理解したが、総士はファフナーに乗れない」という部分に変わりはなかったため、「ファフナーに乗れない総士の代わりに戦う」という一騎の考えは変わることがなかった。『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』で総士に従う存在であることをはっきりと言葉にしている。
一騎「俺がやる、お前が望むなら」
『HEAVEN AND EARTH』
一騎「お前が行くなら、俺も行く」
『EXODUS』6話
一騎が一期1話から続いていた「ファフナーに乗れない総士の代わりに戦う」という縛りからはずれたのは、『EXODUS』6話で一騎が「お前が行くなら、俺も行く」と言った直後、総士が一騎に言ったこの言葉だった。
一騎「左目は大丈夫なのか」
総士「お前と同じだ。一度失われ、戻った」
『EXODUS』6話
総士が左目の視力を取り戻し、ファフナーに乗れるようになった結果、一騎が総士の目の代わりになる必要はなくなり、一騎と総士の間にあった契約が消滅した。つまり一騎は総士の代わりにファフナーに乗って戦う必要がなくなった。その結果、一騎のこの後、個人的な自分の望みー七夕の短冊に書いた「生きたい」ーをかなえるために生きることができるようになったのである。『EXODUS』では一騎に変性意識が出てきたが(※1)、一騎が「総士の代わりに戦う」のではなく、「自分の意志で戦う」と変化したことと関係しているのかもしれない。しかし、一騎の残りの人生はファフナーに乗らなくてもわずか3年、ファフナーに乗ればそれよりも短かくなるのは明白なことだった。そして、ファフナーに乗って戦い続ければ、最終的に行き着く先が総士と同じということも一騎は理解していたはずだ(※2)。一騎はそれらをすべてを知った上でシュリーナガルから竜宮島に戻る旅の中で、この後の人生について考えていた。そう、総士と同じ道を行くのか、それとも別の道を行くのか。
そんな揺れ動く一騎の心を知ってか知らずか、生きることを望む一騎に対してアショーカから魅力的な話が持ちかけられる。
ナレイン「君なら永遠の戦士になれるだろう。
我々のミールの祝福を受ける気はないかね。
命の果てを越えて生きるために」
『EXODUS』18話
一騎の本心を知っていながらも、フェストゥムの世界へ行ってフェストゥムの持つ永遠を知る総士がアショーカの誘惑から一騎を退けた。一騎が一人で探し続けていた答えを見つけたのは、竜宮島と合流地点であるハバロフスクにたどり着いた時だった。
一騎「戦うだけじゃ希望になれないって思い知った。
ただ命を使うだけじゃ、どこにもたどり着けない」
一騎「そのために俺はここにいる」
『EXODUS』21話
その直後のアビエイターとの戦闘中、一騎の右手は同化により失われた。一騎が総士に縛りつけられているという証は総士を傷つけた右手だったが、一騎が自分の道を選んだ時、自分の意志で総士との縛りをはずしたと見ることもできる。一騎が島の外の世界を見た上で出した結論はこれだった。
一騎「お前が選んだ道を、俺も選ぶよ」
『EXODUS』25話
一騎は総士との縛りをはずした後もこれまでと同じく、総士と同じ道を歩むことを選んだ。
一期で一騎と総士は与えられた状況の中で一つしかない選択肢を自分の意志で選んだが、裏返せば拒否することが事実上不可能な状態にあったということになる。つまり、この時の一騎と総士の選択は乙姫がアルヴィス上層部と剣司、衛、咲良に選ばせた時と同じ状況ではなかった。そのため『EXODUS』で一騎と総士には一期の時には存在しなかった拒否権を与えた状態で一期で選んだものを選び直す機会が与えられた。最終的に一騎と総士の二人は一期と同じものを選んだが、それがその後の人生を決定づけることになった。コアの意志に従う総士はコアと同じく転生してこの世に居続ける存在となり、総士と同じ道を歩むことを選んだ一騎は総士と同じくフェストゥムの側へ行ってしまった。
※1 『EXODUS』BD/DVD1巻の解説書並びに公式サイトのSPECIAL/CHARACTOR/真壁一騎の変性意識の項を参照。
※2 『EXODUS』6話で一騎は「たくさんの敵を倒してきたのに、俺もお前もフェストゥムの力で生きているんだな」と言っていたが、『HEAVEN AND EARTH』で操が一騎の目を直したことも含め、一騎は島の他の子どもたちよりもフェストゥムに近い存在になってしまったのかもしれない。実際、ドラマCD『THE FOLLOWER2』で一騎はミョルニアに「総士みたいにフェストゥムの世界に行くのか」と言っていた。