・フェストゥムの祝福
ミョルニア「我々の同化行為も破壊も、宇宙に存在するものへの祝福だ。
それを真壁紅音は逆転させた」
一期24話
人間がフェストゥムを祝福するとその意味が逆転してしまうが、フェストゥムがフェストゥムを祝福すると言葉通り、相手に対する祝福する行為になる。
カノン「我々はお前によって(フェストゥムの)世界を祝福する」
『EXODUS』24話
竜宮島ミールと一騎の祝福の祝福はフェストゥム間の祝福であり、その対象が “フェストゥムの世界” だっため、フェストゥム全員を “人間の心” と “こどもが成長する時間” で祝福したことになる。その結果、マリスに連れ去られたこそうし(フェストゥムの体を持つ)も祝福され(※1)、フェストゥムのいない平和な偽竜宮島で父、母、妹と一緒に14歳になるまでの時間をすごすことになった。
ミョルニア「時間の到達していない未来でなら私とお前は求めるものを共有できる」
『EXODUS』24話
ミョルニアの言葉通り、竜宮島ミールが総士の母、皆城鞘が同化し、妹、乙姫がコアになったことで総士から奪ったすべてのもの-母と妹、そして父と平和に暮らす生活-を別の形で総士に返すことを意味していた。
竜宮島ミールが祝福した時、フェストゥムは “人間の心” を持っていないため、外見で個を判別していた。そのため、道生の姿をしているレガート、弓子の姿をしているセレノア、乙姫の姿をしているフロロも祝福されてしまった。道生は子どもが生まれる前にいなくなり、弓子は娘、美羽自身が望んだこととは言え、4歳の時に急成長し、弓子自身もそれから4ヶ月後にいなくなってしまった。竜宮島ミールがレガートとセレノアを祝福したことで、子どもを育てるという道生と弓子の望みがかえられ、レガートとセレノアが子どもを育てることになった。
フロロが模した乙姫は竜宮島のコアであり、岩戸を出てから数ヶ月でいなくなった。
乙姫「家族みんなで、暮らしたいな」
一期17話
竜宮島ミールがフロロを祝福したことで、家族と暮らすという乙姫の望みがかなえられ、フロロが家族と暮らすことになった。
ボレアリオス・ミールのコア、来主操も竜宮島ミールに祝福され、変化が描かれていた。
織姫「なぜ犬を怖がるの」
操「なんで怖くないの」
『EXODUS』23話
犬を怖がっていた操だが、『THE BEYOND』第4~6話PVには猫をスリスリしているシーンがある。
甲洋「島が俺に、もう一度人の姿と力を与えてくれた」
『EXODUS』23話
中枢神経を同化されてフェストゥムになった甲洋は人の姿を与えられた後、竜宮島ミールに祝福され、”人間の心” を取り戻した。『THE BEYOND』第4~6話PVでは海神島で普通に生活している姿が描かれていた。
・フェストゥムの社会化
竜宮島ミールが祝福した結果、フェストゥムが “人間の心” を持ち、その結果、フェストゥムにも種類があり、それを見分けることができるようになり名付けた。
こそうし「人が2種類しかないなんておかしい。
だいたいベノンもエスペラントもどう違うか僕にはわからない」
フロロ「三人のエレメントの一人」
『THE BEYOND』2話
ベノン、エスペラント、エレメントの3種類である。しかし、フェストゥムにとって人類とは1種類しかなく、すべて “敵” である。
こそうし「でも敵が来たら戦わないと」
『THE BEYOND』2話
竜宮島ミールがマレスペロを祝福したことで、マレスペロが成長して大人になり、その結果、かつてマレスペロを利用していたヘスターのように、フェストゥムの支配者となった。
史彦「あれが自らマレスペロと名乗り、
支配する群れをベノンと名付け、
人類に宣戦布告した」
『THE BEYOND』3話
竜宮島ミールが祝福した結果、人類とフェストゥムの間に戦争を生み出してしまったのである。
・一騎の祝福
乙姫「あなたはどう世界を祝福するの」
『EXODUS』4話
一騎「守るよ、みんなを。
それがたぶん、まだ俺の命がここにある理由だから。
これが、俺の祝福だ」
『EXODUS』9話
人間としての一騎は人間の社会を祝福した。その結果、”人間の体” が同化され、昏睡状態に陥った。
カノン「お前が世界を祝福するなら
我々が生と死の循環を超える命を与えよう」
『EXODUS』24話
竜宮島の祝福によりエレメントになった一騎はフェストゥムの社会を祝福した。
操「一騎はいなくならないよ。
でも心が消えてしまう。
もう空をきれいだと思わなくなる」
『THE BEYOND』1話
操の言葉から一騎はいずれ “人間の心” がすべて同化されてしまうのだろう。
・生まれること
乙姫「昔、日本のミールがあなたたちから親になる力を奪ったのは、
生まれるってことが理解できなかったから」
一期22話
竜宮島ミールは同化した人間の記憶とコアを通して生まれるということを学んでいった(※2)。
2133年 | 受胎能力を有していた皆城鞘は乙姫を妊娠中、竜宮島ミールに同化されが、乙姫は同化されず、コアになった。 | |
2146年 | 岩戸を出たコアである乙姫は竜宮島ミールに生と死を教えたことで生命の循環を理解し、島民の受胎能力が回復した。遠見弓子は竜宮島で初めて子どもを自然受胎した。乙姫は同化されたが、次のコアが生まれた。 | |
2147年 | 日野美羽が生まれた。 | |
2148年 | 竜宮島のコアに真壁紅音の記憶を持つミョルニアが同化された。その結果、竜宮島ミールは真壁紅音の記憶を獲得した。受胎能力を持たない真壁紅音は人口子宮を使って2131年に一騎を授かり、2133年に北極ミールに同化されるまで育てていた。 | |
2151年 | 新たなコア、織姫が岩戸の外に出て、アルタイルを眠らせた後、同化され、次のコアが生まれた。 | |
2156年 | 新たに生まれたコアは男女の双子である。 |
竜宮島ミールは人間の女性が受胎した後、出産し、子どもが自立するまで育てるという過程を同化した皆城鞘と真壁紅音を通して学んだが、皆城鞘は受胎した状態で同化され、真壁紅音は子どもが2歳の時に同化されたため、竜宮島ミールの知識は欠けていた。
- 皆城鞘を通して竜宮島ミールは子宮の中で胎児を育てるということを学んだ。
- しかし、人間の胎児が外に出る方法と時期、つまり生まれる方法と時期を知らない。
- 真壁紅音を通して生まれた子どもを育てることを学んだ。
- しかし、真壁紅音は子どもを2年間しか育てられなったので、子どもが自立する年齢まで育てる方法を知らない。
- 真壁紅音が育て子どもはこれまでのコア(女)とは違う性(男)だったので、男と女という2つの性を学んだ。
そのため、竜宮島ミールは「子どもが生まれる方法」と「子どもが自立するまで育てる方法」を、「生と死の循環を超える命」を与えて「世界の傷をふさぎ、存在と痛みを調和させる者」にした一騎に経験を通して学ぶことにした。
一騎がこそうし(子ども)を自立するまで育てる時間でフェストゥムの世界を祝福し、偽竜宮島をそこでこそうしをフェストゥムに育てさせた。こそうしとのクロッシングを通して竜宮島ミールはフェストゥムがこそうしを育てる様子を学んだ。
こそうしが十分成長すると、一騎は竜宮島ミールの欠片を持つアルヴィス製のファフナー(マークツェン改アキレス)で偽竜宮島に侵入し、ファフナーのコックピットにこそうしを入れ、偽竜宮島を脱出した。そして、こそうしを偽竜宮島の外に停泊していた空母・ボレアリオス(ボレアリオス・ミールに守られているので安全である)の甲板に降ろした。つまり竜宮島ミールは子宮の位置にコックピットあるファフナーを使い、偽竜宮島(子宮)にいるこそうしをファフナーのコックピット(子宮)に入れ、偽竜宮島の外に停泊していた空母・ボレアリオスに降ろすという行為を通じて、子どもを出産するという学んだのである。
一騎「俺を、母さんみたいにするのか」
『EXODUS』24話
竜宮島ミールは一騎に偽竜宮島でファフナーのコックピットにこそうしを入れ、空母・ボレアリオスに降ろすという体験をさせることで、一騎をこそうしの産みの親にしてしまった。
・死ぬこと
千鶴「今まで島のミールによって発症が抑えられていたものが。
コアの成長期に敵襲来が重なり、バイオスフィア機能が衰え」
『HEAVEN AND EARTH』
『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』19話で描かれたように、アルヴィスの大人たちは人と戦った時の後遺症を抱えている人が多く、竜宮島のミールがその発症を抑えていた。しかし、アルヴィスがこそうしを取り返したことは竜宮島ミールが生まれるということを理解してしまったことを意味し、その結果、この言葉が逆転するはずである。
乙姫「だから人を死から守ろうとして生を奪った」
一期22話
竜宮島ミールが人を死から守ることをやめた結果、人と戦った時の後遺症が抑えられていた人は症状が進行し、やがて死に至るのだろう。人と戦った時の後遺症を持つ人の体調がすぐれないことを現しているかのように、『THE BEYOND』3話、史彦は杖を使って歩いていた。
竜宮島ミールから生と死の循環を超える命を与えられた。しかし、戦いの痛みを背負い、戦いが終われば眠り、”心” を少しづずつ奪われることで(※3)、フェストゥムに近づいていく一騎の姿は、人と戦った時の後遺症を抱え、死に近づいていく竜宮島の大人の姿とどこか重なる。
・希望
竜宮島の住民が島に帰った時、竜宮島のミールはこのように変化しているはずである。
史彦「いずれ島のミールが完全に生命の循環を理解すれば、
この島は地球と同じ存在になり、
宇宙でも海の底でも、我々を生かし続けるだろう」
一期25話
・異種婚姻譚
宇宙からやってきたアルタイルを獲得し、眠らせることで時間を稼いだ竜宮島ミールは人間が子どもを産む方法を学び、”フェストゥムの体” と “フェストゥムの心” を持つ対話できる子どもを手に入れることに成功した。
R・シュトラウスの歌劇『影のない女』(※4)は人間と結婚した霊界の王の娘には影がない。人間と結婚したことで父の怒りを買い12ヶ月経って子どもができなければ、夫を石にするという呪いを掛けられた。このことを知った霊界の王の娘が乳母をともない影を探しに人間界に降りていく。最後に霊界の王の娘は影を得る、つまり人間になって物語は終わる。『影のない女』の人間の夫=竜宮島の島民、霊界の王の娘=竜宮島ミール、石になる=敵ミールに同化されるに置き換えると、『蒼穹のファフナー』と『影のない女』同じ構造の物語だったことがわかる。
つまり『蒼穹のファフナー』の竜宮島のミールとそこに住む人間との物語は異種婚姻譚だったのである。
※1 こそうしと一緒に連れ去られた二人の子どもは人間であったため、竜宮島ミールに祝福されなかった。
※2 『EXODUS』公式サイト内 SPECIAL / CHRONOGY の文章を参考して作成しました。能戸総監督のtwitterアカウントに掲載された「公蔵さん、お子さん誕生おめでとう」と「真壁家に長男がやってきた。」という2枚のイラストが考えをまとめる参考になりました。
※3 『THE BEYOND』1話、操は一騎についてこのように話していた。
操「一騎はいなくならないよ。
でも心が消えてしまう。
もう空をきれいだと思わなくなる
※4 オペラ対訳プロジェクトで歌劇『影のない女』の対訳を読むことができます。『影のない女』は台本を執筆したホフマンスタールが書いた小説(邦訳あり)もあります。