【蒼穹のファフナー THE BEYOND】三人の皆城総士

 『THE BEYOND』6話終了の時点で、真矢はこそうしを名前で読んでいない。なぜなのだろうか。

 真矢が知っている皆城総士は三人いる。

  1. 2151年、19歳でいなくなった皆城総士(総士)
  2. 2151年から2153年まで海神島で暮らしていた皆城総士(こそうしA)
  3. 2156年、偽竜宮島から連れ戻された皆城総士(こそうしB)

 真矢は総士を「皆城君」と呼んでいた。こそうしAをどう呼んでいたのかは現時点では不明。こそうしBは第三者に対して「本人」、「あの子」と呼び、こそうしには「君」と呼びかけていた。

 

・二人のこそうし

 2153年、こそうしAはマリスによって連れ去られた。その際、こそうしAの記憶はマリスによって改竄されたため、こそうしAという人間はいなくなってしまった。2156年、アルヴィスはこそうしAを取り戻したが、海神島で暮らしていた時の記憶を持たない状態で育てられたため、こそうしBという別人に変化してしまった。こそうしAは同化された人間と同じく遺体のない死者であり、真矢には2153年まで海神島で暮らしていたこそうしAと目の前にいるこそうしBの違いがわからなかった。

真矢「本当に本人なの」
剣司「診断した限り、敵が作ったパペットじゃない。
   美羽ちゃんもそう言っているしな」
美羽「うん、あの子は総士だよ」
真矢「なのにあたしたちを敵だと思っている」
『THE BEYOND』3話

 ルヴィの考えでマークニヒトに乗ったこそうしはワームスフィアで海神島を攻撃した。火遠理命島でこそうしAの乗るマークニヒトと戦うことになったのは零央、美三香、真矢、美羽の4人だった。マリスが連れ去る前、真矢と美羽よりはこそうしAとの距離が遠かった零央と美三香は目の前にある現実-こそうしBが海神島を攻撃した-という事実だけを直視することができるため、島を沈めるだけの力を持つマークニヒトに対して遠慮なく攻撃をした。

 それに対し、マリスが連れ去る前、零央と美三香に比べるとこそうしAとの距離が近かったため真矢と美羽はこそうしに対する感情が邪魔をして、目の前にある現実-こそうしBが海神島を攻撃した-という事実だけを直視することができない。少年に成長したこそうしを見ているにも関わらず、マークニヒトを見た真矢はこう言った。

真矢「子どもだ」
『THE BEYOND』4話

 こそうしを傷つけたくない真矢はこそうしに対する攻撃を海神島上空で一発、火遠理命島上空で一発の合計二発と必要最小限に押さえていた。腕を切ったり、頭を破壊した零央と美三香とは対象的である。

 しかし、真矢はこそうしと直接戦ったことで、こそうしがアルヴィスを敵と認識している事実を受け入れ、目の前にいるこそうしはこそうしAでないと判断した。以後、真矢はこそうしBという別の人間として扱うことにした。以降、真矢は第三者にこそうしのことを「あの子」と言うことで心理的な距離を開けた。

  真矢「あの子、一騎くんをとても憎んでる」
『THE BEYOND』4話

 真矢はマークニヒトで海神島を攻撃したこそうしに対して銃で二発、発砲して脅した。

  真矢「覚えときなさい。
     もしまたファフナーで私たちを襲ったら、
     私があなたを撃つ」
『THE BEYOND』4話

 こそうしと真矢の心理的な距離も開いた。その結果、こそうしは真矢に対して丁寧な言葉遣いをするようになった。

こそうし「遠見さんにお願いがあります」
『THE BEYOND』5話

 こそうしは美羽の申し出を受け入れ、遠見家で暮らすことになった。こそうしがファフナーに乗るための訓練を始めた後、真矢はこそうしのことを再び「本人」と言うようになっていた。

  真矢「本人を見る限り、それはないと思います」
『THE BEYOND』6話

 真矢がこそうしAとこそうしBを見分けることができるようになったことを意味している。

 

・総士とこそうし

 真矢はこそうしAとこそうしBを見分けることができるようになったが、総士とこそうしの違いを認識しているのだろうか。

 真矢にとって総士とは第四次蒼穹作戦時にいなくなったが、生まれ変わって赤子になった人である。真矢は一騎のように総士と別れの言葉を交わすこともなく、何より総士の遺体は存在しないため、おそらくいなくなったという実感がない。

  真矢「訓練もなしであれを乗りこなした」
『THE BEYOND』4話

 真矢はマークニヒトに乗りこなしたこそうしの姿を見た時、こそうしの中に総士の面影を見たのではないだろうか。さらにこそうしと話している時、総士の声まで聞こえてきた。

    総士「そうとは限らないぞ」
『THE BEYOND』5話

 かつて、広登が人類軍に連れ去られた後、「今、広登がここにいてほしい」と思った暉は想像上の広登と会話していた。

    暉「また遠見先輩に助けられるなんて」
   広登「いつまでもくよくよするなって」
    暉「それでも来てよかったっていうのかよ」
   広登「憎まれるのもアイドルの宿命さ。
      確かに平和を広める難しさを知った。
      でも、やる価値があるもわかったろ」
『EXODUS』19話

 暉と同じように総士の言葉が聞こえた真矢には「今、総士がここにいてほしい」という自分自身の願いから生まれた言葉のように聞こえたのではないだろうか。もっとも、暉の場合、自分の中にある答えを広登に代弁させていたにすぎない(※1)が、真矢の場合、こそうしの言葉に耳を傾ける気もなかったことから、総士の言葉は真矢の心の中にはなかった答えである。

こそうし「またあのファフナーに乗りたい」
  真矢「島を壊したい?
     痛い目に会うだけよ」
『THE BEYOND』5話

 だが、総士の言葉は真矢の考えを変えさせ、真矢はこそうしの言葉に耳を傾けた。

こそうし「あの中に知らなきゃいけない何かがある。
     でも、僕をおかしくさせる何かもある。
     どうしたらいいか、教えて下さい」
『THE BEYOND』5話

 こそうしの言葉を聞いた真矢は、アルヴィスの会議ではこそうしをファフナーに乗せることに賛成した。

  溝口「皆城総士を乗せることについちゃ
     上級隊員は全員反対だ」
  史彦「パイロットチームも同意見かね」
  真矢「変性意識のコントロールを学べば
     あの子も自分と機体を制御できると思います」
『THE BEYOND』5話

 『THE BEYOND』6話終了の時点で、真矢はいなくなった総士がこそうしの中にいるのかもしれないと思っている状態なのではないないだろうか。そのため、真矢が総士はこの世には存在せず、総士とこそうしが別人であることを確信した時、真矢はこそうしを名前で呼べるようになるのだろう。

 

 こそうしAとこそうしB、次いで総士とこそうしBを見分けることのできない真矢は咲良のSDPである “増殖” を外から見ている状態なのかもしれない。

  咲良「自分がたくさんいる。
     どれがあたしなの」
『EXODUS』13話

 咲良は自分がたくさんいると感じたが、真矢は見分けのつかないたくさんの皆城総士がいるという状態なのだろう。

 

 

※1 『EXODUS』24話、暉はバスの中で再会した広登に「本当は、わかってた。お前はもういないって」と言っていたことから、かなり早い段階で広登が死んだことを自覚していた。