【蒼穹のファフナー THE BEYOND】フェストゥムが人間から奪ったもの

 『EXODUS』は人間がフェストゥムを学ぶ物語だったが、『THE BEYOND』は再びフェストゥムが人間を学ぶ物語となった。フェストゥムは『THE BEYOND』で何を獲得するのだろうか。

 

・真矢の右目

 一期では人間(一騎)がフェストゥム(総士)の左目を奪ったが、『THE BEYOND』は逆転し、フェストゥム(セレノア)が人間(真矢)の右目を奪った。

セレノア「面白い目だ。いただこう」
『THE BEYOND』1話

 セレノアは真矢の右目を同化して、その力を奪っていった。『THE BEYOND』2話でアルヴィスが偽竜宮島に攻め込んできた時、セレノアは真っ先に敵を見つけるという真矢の力を使おうとした。

セレノア「私の目でも見えない。
     ミールの船が力を妨げている」
『THE BEYOND』2話

 一期では人間の視力という目が持つ物理的な力が奪われ、総士はファフナーに乗ることができなかった。一方、『THE BEYOND』で奪われたのは真矢の天才症候群の力、つまり人間の心だった。

遠見真矢
天才症候群の兆候により、異常な推理能力を発揮し、相手の顔を見ただけで「だいたい考えていることがわかる」といった読心術的な観察眼を持つ。
冲方丁『冲方丁のライトノベルの書き方講座』

 『THE BEYOND』ではかつて人の顔を見ただけで本心を見抜いていた真矢の姿はない。

真矢「まだ本人かわからない。
   ちゃんと調べてもらわないと」
『THE BEYOND』3話

真矢「本当に本人なの」
剣司「診断した限り、敵の作ったパペットじゃない。
   美羽ちゃんもそう言っているしな」
美羽「うん、あの子は総士だよ」
真矢「なのにあたしたちを敵だと思っている」
『THE BEYOND』3話

 真矢はセレノアによって “心” が奪われた結果、他人の “心” が見えなくなってしまった。つまり、”心” を持たないフェストゥムと同じ状態ということになる。

 

 レガートとフロロの感情は人間から奪ったものではなく、人間の心を持つセレノア、こそうしと人間と同じ暮らしていった獲得したものだった。

 フロロ「感情を学んだのよ。
     最初はマレスペロの命令だったけど。
     今は本当の家族だと思ってるの」
『THE BEYOND』2話

 レガートは「らしい」という表現を使い、レガートが人間のように生活したことで身につけた “感情” という未知のものに戸惑っている姿が描かれている。

レガート「あの子が外の世界に興味を持つことは止められないのかもしれない」
セレノア「不安になる」
レガート「そうらしい」
『THE BEYOND』2話

セレノア「レガート。なぜ戻らない」
レガート「セレノアか。俺の感情のせいだ。
     どうやらこいつらが許せんらしい」
セレノア「私もだ。
     今は耐えろ」
『THE BEYOND』3話

 

・心と時間

一騎「大勢の人から大切なものを奪って作ったお前たちだけの平和だ」
『THE BEYOND』2話

 フェストゥムはこそうしと二人の子供だけでなく、一騎と真矢から一番大切なものを奪った。

 こそうしがさらわれた日時が明らかにされていないが、一騎がこそうしと一緒に過ごしたのは長くても2年である。セレノアは真矢から奪った “心” を使って、一騎からこそうしの “心” と成長を見届ける “時間” を奪った。

 

 第5次蒼穹作戦から3年後、アルヴィスは奪われたこそうしを取り戻した。竜宮島のミールから生と死の循環を超える命を与えられた一騎の代償は戦うたびに徐々に失われる “心” だったが、一騎はこそうしに対してあたかも “心” を失ったかのように淡々と真実を告げた。

一騎「これが真実だ。
   お前が家族だと思っていた相手も
   お前がいた島も全部偽物だ」

一騎「お前を閉じ込めていた島が破壊される音だ」
『THE BEYOND』3話

 一方、セレノアに “心” を奪われた真矢はこそうしの気持ちには興味がなく、こそうしを島に帰るための道しるべ、つまり単なる道具として見ていた。

  真矢「たとえ憎まれても二度とあの子を敵の側へは行かせない」
『THE BEYOND』3話

 真矢のこの言葉はかつてミツヒロが竜宮島の子どもたちに言い放った言葉と重なる。

ミツヒロ「彼らは結局、ファフナーを動かす電池にすぎん」
一期18話

 この時、真矢は父、ミツヒロに「お父さんはフェストゥムとどう違うの」(※1)と問いかけたが、”心” を奪われた真矢は父、ミツヒロと同じ状態であり、”心” を持たないフェストゥムと同じになってしまった。

 故郷を奪われたこそうしの気持ちを一番理解していたのは、皮肉なことにフェストゥムである甲洋だった。

甲洋「偽りの平和でも中にいる者にとっては本物だ」
『THE BEYOND』3話

 

・アショーカと瀬戸内海ミールの代償

 『EXODUS』においてアショーカと竜宮島のミールが人間の望みをかなえる代償として、 “時間” と “心” を奪っていた。

 ミール:アショーカ
望んだ人:美羽
  望み:大きくなればできるのに(※2
  結果:アルタイルとお話ができるくらいの年齢に成長した
  代償:母、弓子から子どもが成長する “時間” を奪った

 ミール:竜宮島のミール
望んだ人:一騎
  望み:生きたい(※3
  結果:生と死の循環を超える命を与えられた
  代償:戦うたびに一騎は “心” を失い、
     戦いの痛みを背負って眠る。(=”時間” を奪われる)

 フェストゥムはアショーカと竜宮島のミールから学んだかのように、弓子の妹である真矢から “心” を、こそうしを通して一騎から “心” と “時間” を奪った。

 

 人間と共存しているミールが望みをかなえる代償が “時間” と “心” だったのだろうか。ミョルニアと乙姫の言葉の中にその謎を解く鍵がある。

ミョルニア「いや、多数の因子が彼女に共鳴することで
      我々の中にある種の時間が生まれたのだ。
      時間は我々にとって世界を形成する重力の一つにすぎない。
      だが、真壁紅音だった存在は多くのコアたちと共鳴し、
      我々の中で時間軸を絶対とする場を形成してしまった」
一期24話

   乙姫「ううん、あたしも選んだよ。
      を持つこと」
一期16話

 紅音がフェストゥムに “時間” を与え、乙姫が “心” 持つことを選んだからである。

 

・一騎、総士(こそうし)、真矢

 物語開始以前、総士の左目が奪われ、総士はフェストゥムに痛みを教えた。『THE BEYOND』で一騎はこそうし、真矢は右目、こそうしは妹を奪われたことから、一騎、こそうし、真矢の三人全員がフェストゥムに何かを教えることになるのではないだろうか。一騎、総士、こそうし、真矢の四人の奪われたものとその後を一覧表にしてまとめました。なお、こそうしの「取り戻すもの」と「取り戻したものの変化」は参考として記載しました。

    奪った者 奪われたもの 取り戻したもの 取り戻したものの変化
  総士※4 一騎 傷のない左目   人間の体
  (フェストゥム) (人間) (視力) 視力  → フェストゥムの体
  一騎 マリス こそうし こそうし 2歳、育ての親
  (人間) (フェストゥム) (時間、心)    → 14歳、赤の他人
  真矢 セレノア 右目
  (人間) (フェストゥム) (心)    
  こそうし 一騎 妹の子孫 偽物
  (フェストゥム) (人間) (竜宮島) (竜宮島)  → 本物

 

 視聴者の視点では美羽自身が望んだこととは言え、ある日突然、子どもは急成長し、子どもの成長を見守るという過程を奪われた上、子どもとは4年7ヶ月しか一緒にいられなかった弓子の姿をしたフェストゥムが、こそうしを通して子どもが2歳から14歳に成長する様子を見守ったという設定はエグいと思いました。

 

※1 一期18話。

※2 『EXODUS』6話、美羽の台詞。

※3 『EXODUS』5話で一騎が書いた短冊の文字。

※4 総士が左目を奪われた時は人間だが、一騎を同化しようとしたのでフェストゥムにした。