【蒼穹のファフナー THE BEYOND】どこにもいない

 一騎は『THE BEYOND』1話後、連れ去られていなくなったこそうしを探していたように、真矢にとって『THE BEYOND』はいなくなった一騎を探す物語でした。

 

 一騎からの視点ではあるものの、ノベライズには真矢の本音を描いていると感じられる一文があります。

 あるいは、そうする気が、真矢自身に、ないのだろうか。変貌する世界を、本当の世界だと受け入れる気が。
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』三章3(※1

 上記の文章の「世界」を「一騎」に、「変貌する」を「変貌した」に置き換えることで、真矢がファフナーに乗った後の一騎を見た時に考えたことが見えてきます。

 あるいは、そうする気が、真矢自身に、ないのだろうか。(ファフナーに乗ることで)変貌した一騎を、本当の一騎だと受け入れる気が。

 これが真矢の心の中にある考えであるならば、以下の言葉からは別の意味が見えてきます。

真矢「たとえどんなに変わっても、一騎君のこと覚えてるよ」
一期10話

 この言葉は「できるかどうかはわからないけれど」という条件のついた真矢の望みだったのではないだろうか。この考えを元に『THE BEYOND』の真矢の行動を見てみると、これまでとは別のものが見えてきます。

 『THE BEYOND』4話、一騎はフェストゥムのように無から実体化し、真矢の手を取って真矢の考えを読んだ。真矢は一騎の行動について何も言わなかった。


 

 『THE BEYOND』8話、一騎が飲み物を手に取らなかった。真矢はそのことについて、何も言わなかった。

 

 真矢が出した答えはこれだった。

 人間のように食べたり飲んだりしない一騎と一緒に生きていくことはできない。真矢は変貌した一騎を、本当の一騎だと受け入れることができなかった。一騎が「遠見、一緒に来るか」(※2)と言った時、真矢の心の中にあった言葉はこれだろう。

カノン「たくさん困った、たくさん考えた。
    答えは一つしかなかった。
    私はここにいることを、この島にいることを、選びたい」
一期22話

 だから、真矢は一騎にこう答えたのだろう。

 真矢「私じゃ一騎君のいる場所には行けないから、
    ここで帰る場所を守ってるね。
    たまには帰ってきてね、竜宮島に」
『THE BEYOND』12話

 

 真矢が好きなのはファフナーに乗る前の一騎だった。しかし、ファフナーに乗る前の一騎はもういない。『THE BEYOND』11話、真矢が子どもたちの雪合戦を見ている一騎の横顔を見た後に描かれたのは、真矢が子どもの時の雪合戦の様子だったことから、真矢の記憶に残るのはファフナーに乗る前ではなく、総士の左目を傷つける前の一騎なのだろう。

 

 『THE BEYOND』12話の喫茶楽園、真矢の目の前の席には誰も座っていない。

 真矢が好きな一騎はもはや亡霊であり、存在していたとしても人間の目には見えないことを表しているのかもしれません。

 

 

※1 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫JA)より引用。

※2 『THE BEYOND』12話の一騎の台詞。