真矢にとって『THE BEYOND』とは、子供時代に別れを告げ、思い出にする物語でした。
●喫茶楽園
『THE BEYOND』12話、祭りが終わった後、真矢は喫茶楽園の前で一騎と話をした。真矢は一騎に自分の言葉(竜宮島にとどまってほしい)を口にしかけたが、一騎の言葉(甲洋と一緒に世界を見てくる(※1))を肯定する言葉を返した。
真矢「一騎君、この島にと……。
いつ島を出るの」
『THE BEYOND』12話
一騎は真矢の言葉を肯定する言葉を返した。
一騎「皆の用意が整ったら」
『THE BEYOND』12話
その後、一騎は「ずっと乗っていられたいいのに」(※2)という真矢の望みを肯定する言葉を返した。
一騎「遠見、一緒に来るか」
『THE BEYOND』12話
真矢には一騎の言葉がこう聞こえたのではないだろうか(※3)。
一騎「生きよう、二人で」
『EXODUS』17話
真矢は一騎に返事した後、一騎の服の袖をつまんだ。
真矢「えっ。
そう言ってくれると思わなかった」
『THE BEYOND』12話
『THE BEYOND』1話、フロロがロケットで旅立つマリスの手袋をつまんだ時、こう言っていた。
フロロ「ねえ、また会える?」
『THE BEYOND』1話
この時、この時のフロロの心の中にあった言葉は『THE BEYOND』2話、一騎がこそうしを連れ去った後、空母ボレアリオスで再会したこそうしに対して言った「行かないで」(※4)だったのではないだろうか。
以上のことを踏まえると、真矢が一騎の服の袖をつまんだ後、以下のような言葉が真矢の心の中に浮かんだのではないだろうか。
フロロ「行かないで」
『THE BEYOND』2話
カノン「私は、その未来を選べない。
お前といられる未来があった。
それだけでいいんだ。
好きだよ、一騎」
『EXODUS』17話
しかし、真矢は自分の感情を口にすることなく、自分の中ですでに出ていた答え(※5)を一騎に言った。
真矢「私じゃ一騎君のいる場所には行けないから、
ここで帰る場所を守ってるね。
たまには帰ってきてね、竜宮島に」
『THE BEYOND』12話
一騎は真矢の言葉を肯定する言葉を返した。
一騎「約束するよ」
『THE BEYOND』12話
この後、真矢と一騎の間を飛んでいた2匹の動きを通して、一騎と真矢が別々の道を選んだことが描かれました。
この時、真矢の心の中には以下のような言葉が浮かんだのではないだろうか。
真矢「さよなら、一騎くん」
『EXODUS』23話
一騎は真矢の子ども時代そのものでした。そのため、真矢は一騎に抱いていた恋愛感情(※6)にけりをつけ、一騎とは別の道を行くと決めた時、大人になったのです。
●カノンと真矢
一騎はカノンにはカノンがいなくなる直前に声をかけ、真矢には一騎自身が旅立つ直前、声を掛けました。その時の状況を比較してみました。
一騎とカノン | 一騎と真矢 | ||
場所 | 喫茶楽園の中 | 喫茶楽園の外 | |
一騎が言葉を掛けた時 | 向き合っている | 横に並んでいる | |
竜宮島を去る人 | カノン | 一騎 |
カノンと真矢には「一騎に恋をしている、一騎から誘われるが断る」という共通点がありますが、それ以外の項目は対称的になっていることがわかります。
●総士の言葉
ファフナーに乗せたくない真矢とファフナーに乗りたいこそうしの間で意見が対立している時、真矢にはこの言葉が聞こえた。
総士「そうとは限らないぞ」
『THE BEYOND』5話
真矢は総士の言葉を聞いた後、真矢は自分の望みを心にしまい、以後、こそうしの望みをかなえるために動き始めました(※7)。
竜宮島に帰った美羽がアルタイルの所に行こうとした時、美羽の行動を否定するこそうしと美羽の行動を肯定する一騎との間で意見が対立した。一騎がこそうしの前に立ち塞がったため、こそうしは一騎と戦いで決着をつけることを選んだ。こそうしと戦っている時、一騎は5年前、総士から言われた言葉を思い出した。
総士「未来へ導け、一騎」
『EXODUS』26話
一騎は総士の言葉を聞いた後、一騎は自分の望みを心にしまい、こそうしの望み(※8)をかなえるための行動を取った。
真矢と一騎は総士から全く違う言葉を受け取ったにも関わらず、真矢と一騎は総士の最後の言葉から「自分の望みを心にしまい、相手の望みをかなえる」ということを学びました。『THE BEYOND』12話、喫茶楽園の前で真矢と一騎が話した時、二人とも自分の望みを心の中にしまい、相手の言葉を肯定するという形で話をしましたので、真矢と一騎は自分の心の中にある望みを相手に伝えませんでした。つまり、真矢と一騎は自分の本音を相手に言うことはなく、別れてしまいました。『THE BEYOND』DVD/BD 4巻の一騎と真矢の法人特典の絵柄こそ、『THE BEYOND』12話、喫茶楽園の前で話していた時の一騎と真矢の心の中にある感情が表に出た姿だったのです。
●真実
なぜ一騎と真矢は最後に自分の考えを言わなかったのか。
一騎「真実を知りたいか」
『THE BEYOND』2話
『THE BEYOND』のテーマが「真実を知る」であったことを考えると、私は一騎が「真実を言いたくなかった」、真矢が「真実を知りたくなかった」ので、相手に自分の考えを言わなかったと考えています。真矢=視聴者であるため、一騎が真矢に残していったものから、真実を知ることができるか否かは、視聴者自身にかかっているのです。
●真矢の最後の言葉
これを書き終わった後、真矢の感情として浮かんだ言葉は一期を見終わった時と同じ “I wish you were here” でした。旅立つ一騎と甲洋を見送る真矢の心の中にあった言葉は、これだったのではないでしょうか。
一騎「総士、俺はここにいる。
ここでお前を待っている。
ずっと」
一期26話
『THE BEYOND』12話後、真矢は一期終了時の一騎のように、「約束するよ」という一騎の最後の言葉を信じて、竜宮島で生きていくことになります。真矢は一期終了時~『HEAVEN AND EARTH』の時の一騎と同じ経験をすることによって、この時の一騎が考えていたことと感情を理解することになります。真矢=視聴者であるため、『HEAVEN AND EARTH』公開後に『ファフナー』を知った人も、『HEAVEN AND EARTH』の制作が発表される前の視聴者が考えていたことと感情を体験することになります。
※1 『THE BEYOND』12話で一騎が史彦に言った台詞。
※2 『THE BEYOND』8話で真矢が一騎に言った台詞。
『THE BEYOND』DVD/BD 4巻のブックレット収録の「鼎談」で、一騎の「遠見、一緒に来るか」という言葉について、以下のように説明をしていました。
石井 行くって答えてたらどうしたのかな。
能戸 真矢はアズライールで行きます。
能戸監督の言葉から、一騎が真矢に言った言葉は『THE BEYOND』8話で真矢の言葉を受けてのものだと判断できます。真矢が「ずっと乗っていられたいいのに」と言った後、以下のようなやり取りがありました。
一騎「俺や甲洋みたいになる必要はないよ」
真矢「無理なのはわかってる。
でもせめて、乗れる間だけは乗っていたい」
ここから一騎は真矢が一騎と一緒に行くとは言わないことを知っているにもかかわらず、「遠見、一緒に来るか」と言ったことがわかります。
※3
一騎は「甲洋と一緒に世界を見てくる」と行っているので、真矢は一騎と二人きりで旅に出られるわけではない。一期26話、イドゥンが輸送機に乗ったマークザインを連れ去ろうとした時、マークザインの手には総士がいたにもかかわらず、真矢は一騎の名しか呼ばなかった。つまり、真矢は一騎のことになるとまわりが見えなくなることから、この時も真矢はまわりが見えなくなっていた。
※5 真矢が出している答えとは『THE BEYOND』8話の「無理なのはわかってる」。
※6 冲方丁『冲方丁のライトノベルの書き方講座』の「3時間目 蒼穹のファフナーの書き方」の中に、真矢は以下のような人物案が記載されています。
【遠見真矢】
一騎の幼なじみ。ほのかな恋愛感情を抱いているが、親友の翔子が一騎への想いをあらわにしているため、自分はそうではないと思いこんでいる。
『THE BEYOND』は翔子のいない世界なので、一騎に恋愛感情を抱いていないという思いこみから開放された真矢が描かれていると見ることができます。
※7 真矢はこの直後に行われたアルヴィスの会議で、こそうしをマークニヒトに乗せることについて賛成意見を出した。
溝口「皆城総士を乗せることについちゃ、
上級隊員は全員反対だ」
史彦「パイロットチームも同意見かね」
真矢「変性意識のコントロールを学べば、
あの子も自分と機体を制御できると思います」
『THE BEYOND』5話
※8 一騎の考えたこそうしの望みとは、『THE BEYOND』2話でこそうしが一騎に言った「殺してやる。お前を殺してやる」だった。