「THE BEYOND」を理解し終わった後の感想 Part1 の公開後から『THE BEYOND』DVD/BD 4巻発売前の間に書いた文章です。
●命の使い道
竜宮島にフェストゥムが来る前、つまりフェストゥムがいない世界で、一騎のそばにいたのは甲洋だった。世界からフェストゥムがいなくなった時、一騎のそばにいたのは甲洋だった。フェストゥムが来る前の一騎の望みは、フェストゥムがいなくなった時、かなえられることになった。
「なあ……甲洋は、来年になったら、どうする?」
なんとなく答えを予想しながら、訊いた。
「島を出るよ」
「そうか」
「お前も多分、そうするんだろう? 一騎?」
「ああ」
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』一章3(※1)
しかし、一騎が島を出る意味を10年という年月が変えてしまった。フェストゥムとの戦いが終わった時、戦いの最中に生まれた子どもは大人になり、戦いでいなくなった友人は思い出になった。『ファフナー』で描かれていたのは、RUSHの “Time Stand Still” の歌詞そのものだった(※2)。
Children growing up —
old friends growing older
Experience slips away…
RUSH / Time Stand Still
一騎はフェストゥムとの戦いの間に、竜宮島でやるべきことをすべてやってしまったため、竜宮島を出ていった。
一騎の言う「命の使い道」とは、作品から視聴者への問いかけであり、それは「人としてやるべきことをすべて終えた後、どのように生きるべきか」なのだろう。
●亡霊
生徒A「好きな相手に告白するとか、なんでも良いさ。
心残りってのは最悪だ、きっと」
『RIGHT OF LEFT』(※3)
『EXODUS』で総士の体は同化されてなくなったが、総士はこの世に心残りがあったので、総士の心は亡霊となって、存在していたのではないだろうか。しかし、『THE BEYOND』で総士の心残りは解消され、『THE BEYOND』12話で一騎が総士の灯籠を流した時、総士の心は灯籠ともにこの世を去った。『THE BEYOND』4巻のジャケットで総士は背を向けているが、この世にあった総士の心残りがなくなり、この世を去った証である。
今後、この世に生きている人が総士の声を聞くことはないだろう。マークアインはもともと総士の機体であったことから、マークアイン改スペクターの specter(幽霊、亡霊)とは、『THE BEYOND』における総士のことを表していたのかもしれない。
●死と生、生と死
・人間の死と生
総士「僕は人間として生き、命を終える」
『EXODUS』14話
フェストゥムを象徴する総士はこの言葉通り、人間の死と生を体験した。総士の体は『EXODUS』26話で多くのファフナー・パイロットと同じく、コックピットで同化されてなくなった。
5年後、偽竜宮島(=無の中)にいた総士は、一騎がファフナーを使うことで、人間と同じように子宮からこの世に生まれた。
以後、総士はフェストゥムではなく、人間として生きていくことになる。
こそうし「僕はコアとは違う。
何者にも従属しない一人の人間だ」
『THE BEYOND』12話
・フェストゥムの生と死
人間を象徴する一騎はフェストゥムの生と死を体験した。『EXODUS』24話、一騎は竜宮島ミールから命をもらい、フェストゥムとして生まれた。
カノン「お前が世界を祝福するなら、
我々が生と死の循環を超える命を与えよう」
『EXODUS』24話
一騎は『THE BEYOND』11話でフェストゥムとしていなくなることを選んだ。ミョルニアはイドゥンに同化されていなくなることを受け入れた上で、言葉で情報を伝えた。
ミョルニア「私はいなくなる」
ミョルニア「私は最後に我々に伝えることがある」
一期15話
イドゥンはミョルニアから情報を受け取った後、ミョルニアを同化した。
一騎はこそうしに同化されることを受け入れた上で、自分の持っている力をこそうしに伝えようとしたが、こそうしは一騎の申し出を断った。
一騎「俺を同化しろ。
俺の命も力もお前のものだ、総士」
こそうし「何を言っているんだ。
結局、自分や誰かを犠牲にすることしか知らないんじゃないか。
お前の力なんかいるもんか」
『THE BEYOND』11話
一騎はこそうしに同化されていなくなることを望んでいたが、こそうしから断られたたた、フェストゥムの命の使い道を知るために、旅に出た。
一騎「まだ俺にも命の使い道があるなら
それを知るために生きたい」
『EXODUS』24話
●大人になる
『蒼穹のファフナー』は子どもが大人になる物語だったが、人間は子ども時代を思い出にした時、大人になる。『蒼穹のファフナー』において、子ども時代は一番大切な人の姿をしていた。そのため、一番大切な人との別れを受け入れた時、子ども時代は思い出になる。
・一騎
一騎の子ども時代の思い出は総士だった。こそうしが一騎に皆城総士の灯籠を押し付けた時、一騎はこそうし≠総士であり、総士はもういないことを受け入れざるを得なかった。一騎が皆城総士の灯籠を流した時、一騎の子ども時代は思い出になった。
・真矢
真矢の子ども時代の思い出は一騎だった。真矢は一騎の「遠見、一緒に来るか」(※4)という誘いを断ることで、真矢は子ども時代が終わったことを受け入れ、子ども時代を思い出にしようとした。
・こそうし
こそうしの子ども時代の思い出は乙姫(フロロ)だった。こそうしは一騎が乙姫(フロロ)を消した理由を理解した時、こそうしの子ども時代(偽竜宮島での生活)は思い出になった。竜宮島で輝夜、朔夜と話している時、こそうしは偽竜宮島での乙姫(フロロ)との記憶を思い出していた。
一騎と真矢、そして『THE BEYOND』の主人公であるこそうしが大人になった時、『蒼穹のファフナー』という物語は終わりました。
※1 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫JA)より引用。
※2 RUSHの “Time Stand Still” の歌詞はRUSHの公式サイトから引用しました。
※3 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫JA)より引用。