『THE BEYOND』2巻を見た感想をまとめました。
・マレスペロの祝福
マリス「誰かが生きるために誰かが犠牲になる
そんな世界を捨てて生きよう、総士」
『THE BEYOND』1話
これがマリスの理想する世界であり、偽竜宮島は地球の人類がすべてマレスペロの祝福を受けた後の世界そのものだった。しかし、『THE BEYOND』6話時点で自ら進んでマレスペロの祝福を受け入れるという人間は出てきておらず、ベノン軍がソルダードと呼ばれるファフナーのパイロットを作る手段と化していた。マリスはバミューダ基地で人間がマレスペロの祝福を受けるところを目の当たりにした。しかし、ケイオスが人間に示したマレスペロの祝福はマリスが否定した「誰か(みんな)が生きるために誰か(あなた)が犠牲になる」そのものだった。
ケイオス「ともに連なれば、この地の人間は生かそう」
アナン「信じられるものか」
ケイオス「信じろと言ったか。選べ」
アナン「私以外の者は助けてくれ」
『THE BEYOND』5話
マリスの考えは「選ばれた5万人を生かすため、残り20億人の人類を敵と共倒れさせる」(※1)という新国連の赤い靴作戦を逆にしたもので、アルヴィス、独立人類軍、新国連の上層部を犠牲にして、人類を救うための計画なのかもしれない。それ故、海神島の攻撃対象は史彦とルヴィだったのだろう。
マリス「間違った選択だと教えてあげるよ。
真壁史彦、ルヴィ・カーマ」
『THE BEYOND』6話
バミューダ基地の司令官が祝福を受けた後、マリスが気にしていたのは、マレスペロの祝福を受けた後のバミューダ基地の司令官の姿だった。
マリス「あの人、もう元に戻れないね」
マレスペロ「君とは違うよ、マリス」
『THE BEYOND』5話
マリスは別の形でマレスペロの祝福を受けた人間なのだろうか。『THE BEYOND』2話、ファフナーに乗る直前、レガートと同じく胸が緑色の光が見えていた。
・死と再生
『EXODUS』の開始時、総士はそう遠くない日に訪れる死を受け入れていたが、一騎は3年後に迫った死を拒否していたも同然だった。
竜宮島のコアは一騎と総士にファフナーに乗ることを命じたが、マークザイン、マークニヒトに乗ることは死を意味していた。総士と一騎がその命令を受け入れた時、二人は「死のペア」となった。
織姫「総士、一騎、今すぐ美羽を守りに行きなさい」
総士「ぼくはコアの言葉に従う。
ずっとそうしてきたように」
一騎「行くよ、俺も」
総士「一騎」
一騎「お前が行くなら、俺も行く」
『EXODUS』6話
七夕の短冊に「生きたい」と書いた一騎はいわば竜宮島のコアに死を命じてもらったも同然だった。
一騎「今日、命の使い道を教えてもらった」
『EXODUS』6話
一騎が「死」という竜宮島のコアの命令を受け入れていないことは、シュリーナガルから竜宮島に戻る旅の途中、ナレインの言葉に心惹かれた様子からも明らかである。
ナレイン「君なら永遠の戦士になれるだろう。
我々のミールの祝福を受ける気はないかね。
命の果てを越えて生きるために」
一騎「祝福」
『EXODUS』18話
しかし、最終的に一騎は自らの命の終わり、すなわち「死」を受け入れた。一騎は竜宮島を目前にしたハバロフスクでアビエイターのコアを同化する直前、微笑んだ後、昏睡状態に陥った。
美羽が竜宮島に帰って来たことで「美羽を守る」という使命を果たした後、一騎が昏睡状態、つまり死に近い状態になった後(※2)、竜宮島のコアは総士に死を告げた。竜宮島のコアが総士に死を告げたことで総士と一騎は死に「死のペア」は終わった。しかし、竜宮島のコアは総士に死と同時に生も告げていた。
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
あなたとあなたの器が生まれ変わる」
『EXODUS』22話
竜宮島のミールは七夕の短冊に「生きたい」と書いた一騎に「生と死の循環を超える命」を与えた。
カノン「我々が生と死の循環を超える命を与えよう」
『EXODUS』24話
つまり、一騎が「生と死の循環を超える命」を受け取った時、一騎と総士は「死のペア」から「生のペア」に生まれ変わった。
・総士の祝福
レガート「次に会う時は苦しまずに破壊してやる」
『THE BEYOND』5話
この台詞からレガートが自分を「感情(苦しまず)」+「器(破壊)」を持っている存在と認識していることがわかる。
総士がフェストゥムを痛みで祝福(※3)した結果、フェストゥムは「戦いで傷つくと痛い」と感じるようになった。
芹「なんて言ってるか、やっとわかった」
芹「痛い、助けて、痛い、助けて」
『HEAVEN AND EARTH』
フェストゥムは人間との終わりのない戦いの中で、戦いとは痛みに耐えるものであることを学び、そこから「苦しい(※4)」という感情を知るに至ったのではないだろうか。総士がフェストゥムに教えたのは痛みに耐えて戦う、つまり苦しい戦法だった。
総士「フェストゥム、教えてやる。
ぼくがお前たちに教えた戦い方の名を。
消耗戦だ。
痛みに耐えて戦う戦法だ」
『一期』26話
総士がフェストゥムを痛みで祝福してから10年後、フェストゥムは総士がイドゥンに同化されている時に感じていた感情、「苦しい」を理解したということになる。
レガート「お前は許せない。
だが、できるなら戦いたくない」
『THE BEYOND』5話
レガートは「(一騎と)戦いたくない」という感情から、戦っている時に感じる「苦しみ」を一騎に与えたくないと思い、そこから「苦しまずに」いう言葉が出てきたのではないだろうか。「苦しまずに」という言葉から思い浮かぶ言葉は「慈悲」である。
ヘスター「これは慈悲なの。
パペットを強引に操作すれば、いずれ人格が崩壊が崩壊する。
その苦しみから救ってあげるだけ」
『EXODUS』22話
レガートは『EXODUS』22話でヘスターがミツヒロに行ったのと同じことを一騎に行おうとしていることになる。『EXODUS』では人間に敵意を送っていたフェストゥム(※5)が、『THE BEYOND』では敵に対して慈悲を与えようとする存在にまで進化したということになる。一騎に対するレガートの行動は人間そのものと言ってもいいだろう。
こそうし「殺してやる。
お前を殺してやる」
『THE BEYOND』2話
レガート「次に会う時は苦しまずに破壊してやる」
『THE BEYOND』5話
乙姫(フロロ)を殺した一騎に対して、こそうしは「殺す」という言葉を突きつけ、レガートは「破壊」という言葉を突きつけた。「体」を消す行為は「殺す」だが、「器」を消す行為は「壊す」である。フェストゥムは人間が「体」として認識しているものを、珪素でできているコアの容れ物、つまり「器」と認識しているということになる。それ故、レガートは一騎に「殺す」ではなく「破壊する」と言ったのだろう。フェストゥムは感情を学んで理解するに従い人間に近づいているが、その容れ物は未だに「器」にすぎず、「体」だと認識するまでには至っていないということになる。
※2 ドラマCD『THE FOLLOWER2』を参照。一騎には死という選択もあった。
※3 『HEAVEN AND EARTH』でミョルニアは「痛みは皆城総士の祝福だ」と言っている。
※4 皆城総士の祝福は痛み(pain)だが、pain には(心身の)苦しみという意味もある。フェストゥムが「pain」という感情を完全に理解した時、その先にある「慈悲」という感情を知ったと考えることが可能である。
※5 『EXODUS』14話、ナレインは「敵は二度とも孤立した者を襲い、美羽やエスペラントへ敵意を送っている」と言っている。