「蒼穹のファフナー THE BEYOND」第1~3話の感想 Part4

 関東での公開最終日となった2019年6月13日に『THE BEYOND』第1~3話を見た後の感想です。

 

・一期1、2話と「THE BEYOND」2、3話

中西 入ってきやすいよう、ファーストシリーズの総集編を劇場2作品で公開する案もありましたが、結果としてモノになりませんでした。
『THE BEYOND』第1~3話パンフレット

 『究極BOX』に収録されている冲方丁×能戸隆×中西豪のインタビューによると、『HEAVEN AND EARTH』の製作時にも一期のリメイクという話が出ていたそうです。一期の総集編がうまく作れなかったことで、『THE BEYOND』第1~3話からは「一期1、2話をこういう感じに作りたかった!」という作り手の強い意思を感じます。登場人物の自然な会話だけで物語を進めるには、作り手が作品の設定を完全に頭に入れておく必要があるのですが、一期開始時点で物語の設定を完全に理解していた冲方丁は直接、制作には参加していませんでした。

 

・総士の後継者

 『THE BEYOND』2話冒頭、こそうしの夢の中に竜宮島のコアが現れたが、そこには一騎の姿もあった。

一騎「お前が選んだ道を、俺も選ぶよ」
『EXODUS』25話

 総士が同化されていなくなり生まれ変わった結果、一騎が島から動けないコアの代わりに行動する者になった。この役割においても一騎は総士の後継者となった。

 

・こそうしの年齢

 『THE BEYOND』2話の台詞の中にこそうしの年齢を知る手がかりが隠されていた。

乙姫「生徒会長がいないっておかしいでしょ」
『THE BEYOND』2話

 この後、乙姫(フロロ)とマリスの会話からこそうしは中学校の生徒会長であることがわかり、現在、中学3年生ということになる。

 

・フェストゥムの物語

 『THE BEYOND』第1~3話の公開日、蒼穹のファフナーの公式twitterアカウントが以下のようなツイートをしていた。

15年目にして描かれる「BEYOND(向こう側)」の物語の始まりを、是非見届けて下さい!
蒼穹のファフナー 2019年5月17日

 この一文は『THE BEYOND』の本質を突いていて、『THE BEYOND』の主役は人間ではなくフェストゥムで、フェストゥムが選ぶ物語なのではないだろうか。

 

・フェストゥムの時間認識

 ボレアリオス・ミールのコアである来主操の乗っているファフナーの機体名はマークドライツェン改クロノスだが、クロノス ( χρόνος ) は古代ギリシア語で「時間」を意味する単語である。また『THE BEYOND』1話では一騎が乗り、ベノン側に奪われた後はマリスが乗っていたマークアイン改グリムリーパーのグリムリーパーも時間と関係のある単語だった。

Grimreaper:死神(鎌で人間の時間を刈り取るとされる)
『ウィスダム英和辞典』第3版

 こそうしが最終的にフェストゥムの側につくことを選んだ場合、竜宮島に眠るアルタイルはフェストゥムのものとなり、フェストゥムは人類と出会う前の状態に戻ることになる。時間がフェストゥムが人類と出会ったことで生まれたため、人類と出会う前に戻るということはフェストゥムには時間が存在しなくなる。そのため『THE BEYOND』でベノン側とエレメントたちは時間を意識した言葉を使っていた。

セレノア「は来た」

  甲洋「を稼がれた」

  一騎「まだ少しだけ時間をくれ」
『THE BEYOND』1話

レガート「今度はこちらがを稼がれた」
『THE BEYOND』3話

 

 時間といえば、こそうしの台詞の中に出てくる時間に関する単語が興味深い。

こそうし「明日から頑張ろうっと」
『THE BEYOND』2話

 他にも無線機を通して一騎と話したこそうしの会話の中に昨日(昨日の話の続き)、今日(今日、学校であなたの姿を見た)という言葉が出てくる。この台詞からこそうしが体現しているフェストゥムが理解している時間が「昨日、今日、明日」の3日間であるということを表しているのだろう。それと対比するかのようにマリスと甲洋という二人の人間は未来という時間を知っている。

 マリス「彼らは未来を予期して
     僕たちをこれに乗せたんだ」

  甲洋「この先の未来ではその方がいいのかもしれない」
『THE BEYOND』1話

 

・総士とこそうし

  一騎「お前をいるべき場所へ返す」
『THE BEYOND』2話

  史彦「君の本当の生まれ故郷に戻す」
『THE BEYOND』3話

 アルヴィスはこそうしに生まれた場所に戻すと2回、告げた。こそうしは生まれ故郷の海神島を見たが、この地で生活していた時のことは全く思い出せなかった。

ディラン「皆城総士の身は帰れど、
     心は去ったままのようです」
『THE BEYOND』3話

 ルヴィ・カーマはこそうしが親である総士が子ども(転生した自分)に宛てに残したメッセージを聞けば、こそうしの身だけではなく心も海神島に帰ってくる可能性があると考え、こそうしをマークニヒトに乗せたのだろう。

  総士「未知の希望が新たなる戦いと訪れたその日、僕らの最後の時間が始まった」
『EXODUS』1話

 こそうしは総士のメッセージを聞くことで、親にあたる総士が死んだが故に自分が生まれ、今ここにいることを知ることになるのだろう。『THE BEYOND』のEDの中にボレアリオスの甲板にこそうしと総士が並んで立っているが、しばらくすると総士の姿が消えるというカットがあるが、こそうし自身はフェストゥムの価値観を理解している人間であるため、総士の残したメッセージを通して人間の価値観を理解した時、フェストゥムと人間の両方の価値観を理解した人間として生まれ変わるのではないだろうか。そう、総士とともに存在と無の地平線を超えたマークニヒトのコアがこそうしと出会ったことで生まれ変わったように。

 

・親の役割

一騎「これが真実だ、総士」
『THE BEYOND』2話

 偽りの世界に閉じ込められたこそうしを諭すことができるのは親だけだった。一騎は迷うことなくこそうしに真実を見せ、こそうしの目の前で妹だと思っていたフロロ(乙姫)を無に還した。

史彦「君の本当の生まれ故郷に戻す」
『THE BEYOND』3話

 史彦はこそうしを生まれた場所に戻し、ルヴィ・カーマの助言に従い、親である総士が残した音声メッセージを聞かせることにした。それは親である総士の妹であった乙姫と平和だが偽りの竜宮島で14歳まで過ごしたこそうしに残酷な真実を告げ、諭すことになるはずである。こそうしに残酷な真実を告げ、諭すことができるのは、総士(実の親)と一騎(育ての親)という二人の親だけなのである。

 

・ベノンとマリス

 ベノンの語源は英語のヴェノム(Venom)だと思われます。

venom:《かたく》(言動などに表れた)悪意,憎悪,恨み
『ウィスダム英和辞典』第3版

 英語版 wiktionary で venom を調べると、以下のように説明されていました。

venom: (figuratively) Feeling or speech marked by spite or malice.

 日本語訳の「悪意,憎悪,恨み」を英語では spite と malice という名詞で説明していました。

malice:〈…に対する〉悪意,敵意,恨み 
『ウィスダム英和辞典』第3版

 英語でベノンの語源と思われる Venom の意味を malice という単語を使って説明していることから、マリスとベノンの意味とはほぼ同じということになります。

 ベノンと呼ばれる人類に敵意を持つフェストゥムの群れを率いているのはマリスから読み取った「美羽の記憶」から形成されたセレノア(※1)であることから、『THE BEYOND』は新国連の世界で生まれながら、多くの犠牲の上に成り立っている新国連のやり方に疑問を抱き、フェストゥムと対話したことで新国連に対して反旗を翻したマリスがベノン(フェストゥム)の力を借りて復讐をする物語、つまり新国連の内部抗争ということになります。マリスがこそうしを連れ去ったことで、アルヴィスは好むと好まざるとにかかわらず、新国連の内部抗争に巻き込まれてしまったが、アルヴィスが竜宮島に帰るための道しるべであるこそうしが竜宮島だけでなく全世界の命運を握っているため、アルヴィスは傍観者でいることはできず、むしろ積極的に関わらなければならなくなってしまったのです。

 

※1 『THE BEYOND』第1~3話のパンフレットのセレノアの項から引用。