「蒼穹のファフナー THE BEYOND」第1~3話の感想 Part2(前半)

 2019年6月1日に『THE BEYOND』第1~3話を2回見た後の感想の前半です。長くなったので二分割しました。この記事には『THE BEYOND』第1~3話のパンフレットからの引用があります。

 

・祭りの半纏

 偽りの竜宮島の夏祭りで住民が着ている半纏の背中の文字は「竜」だった。何回を見ると、背景や小物に目がいくようになります。

 

・こそうしの服

 冲方丁はドラマCD『STABD BY ME』で登場人物に制服を着ることの意味について語らせていたが、こそうしが着ている服に託された意味を読み解いてみた。

 海神島にいる時、こそうしは白い半袖のパーカーを着ていたが、これはまだ何も知らず純粋で無垢な子どもであることを示している。一騎がこそうしを偽りの竜宮島の外に連れ出し、その後、Rボートに保護されると青い作業着に着替えていた。その後、海神島に到着後もこそうしはこの服を着ていた。これはこそうしがアルヴィスに所属する者ではなく、ゲストであることを示している。この後、こそうしが自分の意思で海神島にいることを選んだ後、服装も変わるのだろう。

 

・ファフナーに人が乗る

 『EXODUS』からパイロット以外の人間がファフナーに乗るという状況が描かれるようになった。

 『EXODUS』16話、シュリーナガルから竜宮島に戻ってきた派遣部隊の輸送機がフェストゥムに襲われた。輸送機の一つがウォーカーにぶつかる直前、彗は輸送機にいたオルガを自分のコックピットの中に引き寄せた。

 『EXODUS』23話、溝口は捕虜となっていた真矢を取り戻すためにダーウィン基地で新国連との交渉を開始した。しかし、新国連の支配下にあったプロメテウス・ミールが謀反を起こしたため、交渉は打ち切られ、真矢は溝口とも脱出した。その時、真矢は溝口をマークジーベンの手のひらに乗せて、輸送機まで運んだ。

 『THE BEYOND』1話、フェストゥムに機体を乗っ取られた里奈はフェンリルを起動。機体が爆発する寸前、彗が里奈を自分のコックピットの中に引き寄せた。

 『THE BEYOND』2話、偽りの竜宮島を訪れた一騎はこそうしを取り戻そうとするフェストゥムを同化した後、こそうしを連れてファフナーのコックピットに入った。

 竜宮島のファフナーのコックピットは子宮の位置にあるが、コックピット内に人を入れたのは彗と一騎という二人の男性パイロットだった。女性パイロットの真矢は人をコックピットの中に入れるのではなく手のひらに乗せた。

 こそうしを連れてファフナーのコックピットに入り、フェストゥムと戦う一騎の姿を見て思い出したのはカンガルーだった。

 

・10年のズレ

史彦「人類が半世紀もの間、戦い続けている相手だ」
『THE BEYOND』3話

総士「人類の理解を越えた力を持つ彼らがこの星に現れてから40年
   世界の大半が戦場と化した」
『EXODUS』1話

 史彦と総士の言葉の間には10年のズレがある。『THE BEYOND』3話から10年前というと2146年ということになり。総士は14歳、つまりフェストゥムとの戦いに身を投じた年ということになる。

総士「もし君がこの機体と出会うなら、それが君の運命となる」
『THE BEYOND』3話

 総士は転生した自分がマークニヒトに乗る状況になった場合、転生した自分には左目に傷がないので、ファフナーの乗って戦うことのできる14歳の自分だと考えていたのかもしれない。

公蔵「パイロットには別の者を選抜する。
   お前はジークフリードシステムに乗れ、総士」
総士「前線で戦わず……仲間を戦場に送り出せと……(悔しげ)」
公蔵「それがお前の適正だ」
『RIGHT OF LEFT』(※1

 13歳の時、パイロット不適格を言い渡されたため、転生した総士は13歳の時の総士の夢をかなえることのできる存在ということもできる。

 

・返還

 『THE BEYOND』2、3話で一騎はこそうしからすべてを奪ったが、こそうしが本物の竜宮島を取り戻すことができれば、奪われたものを取り戻すことができるのではないだろうか。

ミョルニア「お前たちに必要なものをそこで与えてやれるだろう」
   史彦「フェストゥムが与えるだと。
      我々から奪った命を返してくれるとでも言うのか」
ミョルニア「それは、不可能だ。
      我々にも時間は操作できない。
      だか、時間の到達していない未来でなら
      私とお前は求めるものを共有できる」
一期24話

 人間とフェストゥムの立場が入れ替わっているため、ミョルニアの台詞を一騎に、史彦の台詞をこそうしに置き換えることができる。一期ではフェストゥム(ミョルニア)が人間(アルヴィス)から奪った総士を返したが、『THE BEYOND』は人間(アルヴィス)がフェストゥム(こそうし)から奪った竜宮島と妹(島のコア)を返すことになる。フェストゥムは人間から本物を奪い、本物を返したが、人間はフェストゥムから偽物を奪い、本物を返すことになる。

 

・世代交代

シャオ「うちのフェイや近藤さん家の衛一郎くん(※2)と遊んだの覚えてる」
『THE BEYOND』3話

 海神島に移住した後、シャオにはフェイという名の子どもが生まれていたことが明かされた。シャオとは一期16話で竜宮島のファフナーに乗った人類軍のパイロットの一人で、『EXODUS』ではCDCのオペレーターになった陳晶晶のことである。『EXODUS』で陳晶晶が結婚したことがさり気なく語られていた。

 店員「魚定さんのところも落ち着いたみたいね」
  客「シャオさんみたいな、美人なお嬢さんもらっちゃって」
 店員「アルヴィスで出会ったんですってよ」
『EXODUS』4話

 竜宮島のミールが生と死の循環を学んだ後、生まれたのは美羽、織姫、こそうし、衛一郎の4人だが、脇のキャラクターを使って、竜宮島の世代交代を印象づけている。

 

・美羽とこそうし

 『THE BEYOND』2話、夕食時、こそうしが父(レガート)から島の外の話を聞くシーンは、『EXODUS』で美羽がミツヒロに父のことを聞くシーンを思い出した。

  美羽「美羽のパパのこと、知ってるの」
ミツヒロ「もちろん。
     666、敵を滅ぼし味方に勝利をもたらす獣の王。
     最高のファフナー乗りだ」
  美羽「うわ、もっと聞かせて」
『EXODUS』4話

 『EXODUS』4話と『THE BEYOND』2話の遠見家のシーンを比較してみた。

  EXODUS 4話 THE BEYOND 2話
場所 遠見家和室 遠見家和室
聞き手 美羽 こそうし
話す手 ミツヒロ 父(レガート)
内容 島の外での父の戦い 島の外で見たベノン軍について
家族 弓子、真矢 母(セレノア)、乙姫(フロロ)
主人公の友達 エメリー マリス

 『EXODUS』4話と『THE BEYOND』2話はキャラクター配置も含め同じ状況でのシーンだった。

 こそうしが暮らしている島は美羽の記憶から作ったものなので(※3)、『EXODUS』4話と『THE BEYOND』2話で話している場所は遠見家の同じ部屋だと思われる。両者の違いはこそうしがいた部屋のテレビの上には古いラジオがあったこと。その一方、美羽とこそうしは共に「島の外の戦争」についての話を聞きたがった。

 

・一騎とマリス

 織姫と芹、ルヴィ・カーマと美羽、転生したコアとコアの親の親友がそばにいた。転生した存在であるこそうしのそばにいるのはこそうしの親の親友である一騎だった。しかし、マリスがこそうしを連れ去ったことでこそうしは一騎ではなくマリスと友人になり、その結果、転生した者と転生した者の友人というペアに変貌してしまった。マリスはこうそしを連れ去った本人であり、『THE BEYOND』3話でマリスは一騎が『THE BEYOND』1話で乗っていたグリムリーパーに乗っていたことから、いずれ一騎とマリスが直接、対峙するになるのかもしれない。

 

・言葉の矛先

こそうし「殺してやる。
     お前を殺してやる」
『THE BEYOND』2話

 『THE BEYOND』3話でこそうしは「自分を利用して島に入り込んで、島を破壊した」と一騎を非難した。こそうしにとって一騎とはこそうしの親の友人で、マリスにさらわれる前は育ての親だった人物である。こそうしが海神島に戻る前にいた場所はすべて作り物で、マリス以外の島の住人は全員フェストゥムだったという事実を受け入れた時、一騎に向けた言葉はすべてこそうしの友人だったマリスと一騎の代わりに育ての親だったセレノアとレガートに向けられるはずである。

 

・一騎の存在感

 『THE BEYOND』3話、一騎はこそうしをボレアリオスの甲板まで連れてくると、仲間にこそうしを託して姿を消した。『THE BEYOND』における一騎の存在感の薄さは、こそうしが海神島で生活していた時の記憶を失っているため、一騎という存在が認識できなくなっている状態を表しているのではないだろうか。こそうしはRボート内の会議室での食事中、海神島で生活していた時のことをおぼろげに思い出していた(※4)。

 

・ミツヒロの行方

 『THE BEYOND』2話、こそうしは父(レガート)とベノン軍について話していたが、その中に「バートランド総帥」という言葉があった。こそうしと父(レガート)の話すベノン軍の現状は真実である可能性が高い。そう考えた場合、「バートランド総帥」という言葉とオープニングのカットから、ミツヒロはマレスペロの支配下から逃れることはできず、総帥という地位なのかもしれない。

 

 

※1 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫)より引用。

※2 『THE BEYOND』第1~3話のパンフレットの近藤剣司の項に子どもの名前が記載されていた。

※3 『THE BEYOND』第1~3話パンフレットのマリス・エクセルシアの項に「美羽の記憶をもとに偽りの島に「家族」を作り出す」という一文がある。

※4 こそうしの頭によぎったのは『EXODUS』26話ラスト、一騎と海神島の海岸を歩いているシーンだった。『THE BEYOND』3話ではこそうしの視線で描かれ、こそうしは手を引く一騎の顔を見上げたが、その顔までは思い出していなかった。