「月刊少年シリウス」2017年12月号

 第三十歌でやっと一期10話のラスト、すなわち一騎が島を出るところまで到達。一騎が初めて自分の意志で行動することで物語が始まると言っても過言ではないが、アニメで10話(+ドラマCD2枚)、コミックで7巻というのはやはり長い。4クールのアニメならともかく、2クールの深夜アニメ向けの構成ではないと思う。

 

 11月号に引き続き、細かい部分でアニメとの相違が多いが、大まかな物語の流れは以下の通り。

  • アニメの9話にあった春日井夫妻とアルベリヒド機関のスタッフが話し合う。
  • 春日井夫妻が甲洋の生命維持装置を切ろうとするが、史彦が阻止。
  • 遠見家の夕食後、自宅に帰る一騎と真矢が一緒に歩いているが、途中で一騎は同化現象に襲われる。
  • 拘束されていた春日井夫妻を狩谷が開放。
  • 一騎はマークエルフとともに島から出て行く。

 春日井夫妻がアニメよりも狡猾に描かれ、新国連のスパイである狩谷と連携していた。その一方、遠見家での夕食後の帰り道での一騎と真矢の会話はアニメよりあっさりとしたものになっていた。この場面で重要なのは一騎と真矢の会話ではなく、一騎が同化現象が襲われることだと思うので、この変更はありだと思う。

 

 史彦は狩谷について一期11話で次のように説明していた。

史彦「狩谷由紀恵が新国連のスパイであったことは私と皆城公蔵は承知していた。
   彼女の目的ははっきりするまで泳がせていたが、
   このような事態を阻止できなかったことは私の責任だ」
一期11話

 この史彦の台詞に基づく行動として、コミカライズでは「狩谷由紀恵を捕縛する拘束する」という史彦の台詞が追加された。しかし、狩谷の方が一枚上手で、アルヴィスに捕縛される前に一騎とともに島を出ていくという形になっている。

 

 一騎が竜宮島を出て行く直前、アルヴィス内の一室で眠る甲洋の元に立ち寄る場面が追加されているが、『EXODUS』25話で海神島に行く前、暉がアルヴィス内の一室で眠る一騎の元を訪れ、「俺、負けませんから。行ってきます」と言った場面を思い出した。一騎はマークザインととともに竜宮島に帰ってくるが、暉は海神島でいなくなり竜宮島に帰ることはできなかった。一期の一騎と『EXODUS』の暉は同じ行動を取っているが、その結果は正反対になっている。

 

 一期10話を元に再構成したコミカライズで読むと、アニメ版は演出の力で納得できるような作りになっていたものの、脚本には多くの問題点を抱えていたことがよくわかる。一期10話の脚本上の問題点は一期1話と同じく主人公であるはずの一騎の存在感がないことである。冲方丁はかなり早い時点でアニメの脚本上での問題点を気がついていたと思われる。それは2004年10月27日発売の『蒼穹のファフナー BGM & ドラマアルバム I』に付属しているドラマCDで冲方丁が脚本を書いていない時期の問題点について補足していることからも明らかである。

 

P.S. 第三十歌を読んだ後、一期10話を見た。単独でこの回だけを見ると、9話までの重苦しい雰囲気から一変、別の作品かと思うほど雰囲気が明るいので少し戸惑った。10話の実質的な主人公は一騎でもなく、一騎の同級生のパイロット候補生でもない一期では脇役で終わった広登という構成には疑問が残る。(一騎の同級生のパイロット候補生の中で剣司については10話で描かれたが、衛と咲良が描かれるのは12話である)10話は一騎が島を出るという大きな決断をする回だが、アニメではその理由ははっきりと描かれていない。結果的に物語の起点である1話と物語の転換点である10話において主人公の視点で物語を進行させていないということになっているので、やはり脚本に問題があるということになる。