【蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH】土に還る

史彦「フェストゥムが、土に還る? 」
紅音「彼らの体は珪素、つまり土でしょう 」
『HEAVEN AND EARTH』

 『HEAVEN AND EARTH』の主題歌「蒼穹」にも “死” と “土に還る” という言葉が使われているが、『HEAVEN AND EARTH』では土に還るフェストゥムの姿が妙に印象に残っている。

 

 秦剛平『七十人訳ギリシア語聖書』(講談社学術文庫)の「創世記」を読んでいたところ、紅音の台詞が頭に浮かぶ一文があった。

おまえは土くれだから、土くれに戻る。」
創世記3:19

 ちなみに日本で広く読まれている『旧約聖書』の新共同訳では以下のように訳されている。

塵にすぎないお前は塵に返る。 」
創世記3:19

 『七十人訳ギリシア語聖書』の脚注によると、「土くれ」はヘブライ語で「塵」になっているとのこと。「人が塵に返る」で思い出すのはシェイクスピア『シンベリン』の第4幕第2場の葬送歌である。

Golden lads and girls all must,
As chimney-sweepers, come to dust.
(尊きも 卑しきもみな
 みまかれば 塵と化すのみ)

The sceptre, learning, physic, must
All follow this, and come to dust.
(王者 医者 学生をとわず)
 行く道は 塵と化すのみ)

All lovers young, all lovers must
Consign to thee, and come to dust.
(うら若き 恋人たちも
 ともにみな 塵と化すのみ)(※1

 私はロリーナ・マッケニットの “Cymbeline” (※2)という曲でこの詩を知ったのだが、この詩が印象の残りすぎているため、新共同訳の「創世記」では紅音の台詞を思い出すことはなかったと思われる。

 

 『HEAVEN AND EARTH』というタイトルが『旧約聖書』、「創世記」1:1の “In the beginning God created the heavens and the earth.” (「初めに、神は天地を創造された。)(※3)を思い起こさせることから、私の中で「創世記」=『HEAVEN AND EARTH』となり、「土くれ」という言葉でフェストゥム並びに紅音の言葉を思い出してしまったのかもしれません。

 

P.S. 同じ旧約聖書でも新共同訳はヘブライ語のマソラ本文を翻訳、『七十人訳ギリシア語聖書』はギリシア語の七十人訳聖書(セプトゥアギンタ)を翻訳と底本が違います。詳しくはwikipediaの旧約聖書#旧約聖書の成立過程を参照。

 

※1 小田島雄志訳『シンベリン』(白水Uブックス)より引用。

※2 ロリーナ・マッケニット( Loreena McKennitt )はカナダのシンガーソングライター。この曲は『 The Visit 』(1991年)に収録されている。このアルバムは日本盤がリリースされていたことはある。

※2 『旧約聖書』の「創世記」の英訳は 欽定訳聖書(King James Version)から引用。『旧約聖書』の「創世記」の新共同訳から引用。