映画館で「HEAVEN AND EARTH」を見た感想

 2013年のリバイバル上映は見に行けなかったので、8年ぶりに映画館で『HEAVEN AND EARTH』を見た感想です。4DXの感想はこれとは別枠で書きます。

 

・名前

 操「俺の名前は、来主操」

史彦「来主操、同化した人間の名か」
 操「違う。
   皆城総士の知識を使って、俺の存在を君たちの言葉にするとそうなるみたい。
   君たちと話すには名前が必要でしょ」
『HEAVEN AND EARTH』

 この会話を聞くと私はいつもワーグナーの楽劇『ワルキューレ』の以下の会話を思い出します。

ジークリンデ:お客様,あなたがどなたか,
       知りたく思います。
ジークムント:フリートムントとは僕は名乗れない,
       できればフローヴァルトでありたいのですが。
       しかし、自分をヴェーヴァルトと呼ばねばならないのです。
『ワルキューレ』第1幕第2場(※1

 ワーグナー自身、カール・フリードリヒ・ワーグナーが自分の本当の父親なのだろうかという疑問を持ち続けていたこともあり、オペラの男性主人公は名前を名乗れない人が多い。さまよえるオランダ人は通り名を名乗り、ローエングリンは自分の名を名乗れず、トリスタンはタントリスと偽名を名乗る。パルジファルは自分の名前を忘れてしまった。

 

 名前と言えば『EXODUS』で新しく生まれた島のコアは名付けを芹にお願いしました。

織姫「あなたがわたしを名づけなさい」
 芹「えっ」
織姫「わたしの名前を決めるの。
   問題ある」
 芹「あの、ありません」
『EXODUS』6話

 織姫「で、あなたは私をどう名付けるの」
  芹「ええっと。皆城、織姫ちゃん」
『EXODUS』8話

 織姫と芹のやりとりはワーグナーの楽劇『ワルキューレ』でジークリンデが双子の兄に名付ける場面を思い出します。

ジークムント:お前に名前を付けてもらおう,
       お前の愛するとおりに,僕は名乗る,
       僕はお前から名を貰おう!

ジークリンデ:ジークムント,と
       私はあなたを名付けます。
『ワルキューレ』第1幕第3場(※2

 

・対照的な双子

里奈「近藤先輩、ホント弱いんだ」
 暉「わざと負けてくれたんだよ。
   僕たちが勇気持てるように」

剣司「うわー、痛かったあ」
咲良「やられ役、ご苦労さん、生徒会長」
『HEAVEN AND EARTH』

 訓練終了後、真実が明かされた。里奈は物事の表面しか見えていなかったが、暉は隠された意図を見抜くことができた。

 

・人間の本質

 暉「僕、4つも倒しました。
   敵が逃げなきゃもっとやれたのに」
真矢「そう」
 暉「次はもっとたくさん来るといいですね」
『HEAVEN AND EARTH』

 この会話を聞いた時、『EXODUS』の以下の台詞を思い出した。

 暉「人類軍の爆撃機を待ってるんですよ。
   来たら僕が撃ちます。
   早く来ないかな」
『EXODUS』19話

 初陣で気持ちが高揚している時と精神的に疲弊している時の敵に対する感情が似たものになっているのが興味深い。

 

・変わりゆく一騎

一騎「俺たちは人とは戦わない。
   お前たちと一緒に世界中と戦うなんて望まない。
   そんなことしたらそれはもう俺じゃない」
『HEAVEN AND EARTH』

一騎「必要なら、俺が人類軍と戦う」
『EXODUS』25話

 『HEAVEN AND EARTH』で一騎は人と戦うなってことをしたら自分でなくなると言って拒否していたが、『EXODUS』で一変。「必要なら」という条件付きではあるが、一騎は人と戦うことを肯定してしまった。島の外の世界を旅し、島の祝福を受けたことで、一騎は変わってしまったのだろうか。一騎が総士を理解するために島を出る前、真矢に言ったこの言葉を思い出した。

一騎「遠見は俺のこと覚えていてくれる」

一騎「このまま戦うことに慣れていくのが怖いんだ。
   自分はなにか別のものに変わっちまうような気がして」
一期10話

 

・いなくなる → ここにいたい

 一騎「自分なんかどこにもいないって思ってるから
    命令された時、お前、安心しただろう。
    ずっと誰かに命令されるのを待ってて。
    自分じゃ何も決められずに
    ずっといなくなりたいと思ってただけだろう」
一期17話

 物語開始時、一騎とカノンはともに命令待ち且ついなくなりたいと思っていた。だが、カノンは一期17話での一騎との対話と竜宮島での生活を通してその考えを捨てた。

 音声「フェンリル機動認証。
    実行には認証キーが必要です。
    実行しますか。
カノン「まだだ、まだわたしは、ここにいるぞ」」
『HEAVEN AND EARTH』

 だが、カノンを説得した一騎はまだいなくなりたいという気持ちを捨てられなかった。(※3

カノン「一、騎」
 一騎「逝くな、カノン。
    お前はここにいろ。
    いなくなるのは、俺だけでいい」
『HEAVEN AND EARTH』

 一騎がいなくなりたいと思わなくなったのは、余命を宣告された後だった。一騎は七夕の短冊に心からの望みを書いてしまった。


『EXODUS』5話

 

・映画館で見る意味

 記憶にない背景のみの1秒ほどのカットが2カットあり、自宅にあるBDで確認したところ、そのカットはあった。大きなスクリーンで見ないと印象に残らない編集ってあるんだなあ。

 

※1 ワーグナー/高辻知義訳「『ニーベルングの指環』(上)序夜『ラインの黄金』第1日『ヴァルキューレ』」(音楽之友社)から引用。

※2 ワーグナー/高辻知義訳「『ニーベルングの指環』(上)序夜『ラインの黄金』第1日『ヴァルキューレ』」(音楽之友社)から引用。

※3 『HEAVEN AND EARTH』の時の一騎の本音は『Newtype Library 冲方丁』(2010年、角川書店)に掲載されている『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』で読むことができる。