『THE BEYOND』を最後まで見た上での『蒼穹のファフナー THE BEYOND(TV Edition)』の感想です。『THE BEYOND』全話と『BEHIND THE LINE』は視聴済み且つ物語を理解し終わった状態で見ています。
●史彦と一騎
『THE BEYOND』12話で描かれた史彦と一騎の別れは、『機動戦士ガンダム』(1979年)の13話「再会、母よ」を下敷きにして描かれていました。それぞれの行動を時系列順に並べ、共通項を列記しました。相違点を赤字で表記しました。
蒼穹のファフナー | 機動戦士ガンダム | |
カマリアとアムロは話をした カマリアはアムロの行動(ジオン兵を撃つ)を否定した |
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史彦は人形を手にした | カマリアは人形を手にした | |
史彦と一騎は話をした 史彦は一騎の行動(旅に出る)を肯定した |
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一騎は史彦に敬礼をした 史彦は一騎に敬礼をした |
アムロはカマリアに敬礼をした カマリアは何もしなかった |
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一騎は旅立った | アムロは旅立った |
『蒼穹のファフナー』は『機動戦士ガンダム』の主人公が母から自立する流れを使って、主人公が父から自立する姿を描いていました。『機動戦士ガンダム』では母が子の行動(ジオン兵を撃つという過去の出来事)を拒否し、母が子の価値観を受け入れることなく別れました。一方、『蒼穹のファフナー』では父は子の行動(旅に出るという未来の出来事)を肯定し、子に敬礼を返すという形で子の旅立ちを祝福しました。
●真矢と一騎
一騎「食った、母さんを食った」
一期15話
一騎の母(の姿をしたフェストゥム)が同化されていなくなった後、真矢はマークザインのコックピットで目を覚ました一騎を抱きかかえていました。
真矢は母を失った子どもが最初に出会った女性、つまり『銀河鉄道999』の主人公、鉄郎が母を失った後、最初に出会った女性であるメーテルと同じ立場に立っていたキャラクターでした。『THE BEYOND』12話で描かれた一騎と真矢の別れは、映画『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』(1981年)で描かれた鉄郎とメーテルの別れと重なりました。
映画『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』のラスト、鉄郎と一緒に旅立とうとしたメーテルに対して、エメラルダスが以下の言葉を言いました。
エメラルダス「メーテル。
あなたは鉄郎と一緒に行くことはできない」
映画『さよなら銀河鉄道999 アンドロメダ終着駅』
メーテルはエメラルダスの言葉を聞いた後、メーテルはホームから鉄郎の乗った列車を見送るという行動を通して、鉄郎と一緒に行かないという意思表示をしました。一方『THE BEYOND』12話の真矢は一騎からの問いに答えるという形で、一騎と一緒に行かないという意思表示をしました。
一騎「遠見、一緒に来るか」
真矢「私じゃ一騎君のいる場所には行けないから、
ここで帰る場所を守ってるね。
たまには帰ってきてね、竜宮島に」
『THE BEYOND』12話
メーテルは自分から鉄郎から離れることができなかったのに対して、真矢は自分から一騎と離れました。
●マークアレス
こそうしは総士とは別の人格を持つ人間だった。つまり、総士はこの世にいない。そのため、一騎は総士の後を継ぐと決めた。マークアレスという名前がその証である。一騎がマークアレスに乗って竜宮島から旅立ったということは、一騎はこの世にいない総士の代わりに総士になったということになります。
●一騎と甲洋
『THE BEYOND』12話の一騎と甲洋の最後の台詞は『STAND BY ME』の台詞と重なっています。
甲洋「行こう」
一騎「ああ」
『THE BEYOND』12話
甲洋「行こうか」
一騎「ああ」
『STAND BY ME』
『STAND BY ME』で一騎は甲洋に以下のような約束をしていました。
一騎「あ、俺がいてやるよ」
一騎「なにもできないかもしれないけど、
せめて危ない時には隣にいてやる」
『STAND BY ME』
一騎は甲洋と同じフェストゥムになることで、甲洋との約束を守り、甲洋のそばにいることを選びました。
●存在と無の地平線
『THE BEYOND』のラストが人間の視点で見られる『蒼穹のファフナー』の最終地点です。『THE BEYOND』が『蒼穹のファフナー』という物語における存在と無の地平線でした。この先の物語を見るためには、存在と無の地平線を越えて、フェストゥムになる必要があります。
2023年8月26日、私は人間とフェストゥム双方の視点の物語の終わりを見ました。人間とフェストゥムの相互理解を描いた『蒼穹のファフナー』という物語の終わりは、視聴者が人間とフェストゥム双方の視点で物語を見終わった時、なのです。