【蒼穹のファフナー THE BEYOND】セカイ系ヒロインと無力な少年

 『THE BEYOND』の美羽は「自分の命を使って世界を救う役割を担わされた女性」であることから「セカイ系ヒロイン」、こそうしはヒロインのそばにいる「無力な少年」でした。『THE BEYOND』は「セカイ系ヒロイン」と「無力な少年」が一人の人間になる方法を描いた物語でした。

 

●セカイ系ヒロイン

 一期16話、乙姫は人類軍に取り上げられた戦う力をアルヴィスのスタッフ、システム担当者、パイロットに渡して、選ばせました。

  乙姫「みんなが求めているものを、与えるのがあたしの役目。
     本当にそれが欲しいのか、もう一度選んでもらうために」

  咲良「ぼさっとしてないでさっさと乗るよ」
  剣司「乗るの」
   衛「スーツなしで」
  咲良「一騎だってスーツなしで載ったことあるでしょう。
     それに、ここで戦わなきゃ父さんや甲洋たちに申し訳ないよ」
一期16話

 『THE BEYOND』10話の操は一期16話の乙姫と同じ役割を担っていました。操は美羽に与えられた役割を託すことで、美羽に選ばせたのです。

    操「ううん、僕には平和にできる力がないから。
      美羽ならそういう存在と一つになれるよ」
『THE BEYOND』10話


 美羽は操から託されるまで、美羽は自分に与えられた役割についてこう考えていました。

  美羽「美羽のせいでママも大切なお友達もいなくなったんだよ。
     だから絶対に竜宮島に行ってみんなを守らなきゃいけないの」
『THE BEYOND』8話

 しかし、美羽は自らの意思で自分に与えられた役割を果たすことを選びました。

  美羽「やめて、総士。
     美羽が望んだことなの」

  美羽「総士こそ、美羽の邪魔をしないで」
『THE BEYOND』11話

 「セカイ系ヒロイン」が一人の人間になるために必要なことは「他人の言葉に黙って従うのではなく、自分で考えた上で選ぶこと」でした。

 

●無力な少年

 偽竜宮島から海神島に帰ってきた時のこそうしは「無力な少年」でした。

 ルヴィ「無力で無知で、だれともつながらず、
     ただそこにいるだけで存在しない」
『THE BEYOND』4話

 こそうしが「無力な少年」から脱却する方法は学ぶことでした。

こそうし「無力なら力をつければいい」

こそうし「お前たちから学んでやる」
『THE BEYOND』4話

 こそうしは知識を獲得することによって、「無力な少年」から問題を解決する方法を提案したり、相手の考えを引き出すことのできる少年に変わりました。

こそうし「自分を捧げず、手に入れるんだ。
     君にはそれだけの力があるし、僕に考えがある」

こそうし「最初のミールはこの星の生命と一つになって消えた。
     きっと君みたいな存在がいて、ミールと一緒に進化したんだ」
  美羽「総士」
こそうし「気にするな。
     君は何者だ。
     何を願ってる」
     何が君を君にしてる。
  美羽「みんながお話してもう争わないでほしい。
     悲しいこと、全部、やめさせたい」
こそうし「なら、そいつを手に入れて君が実現しろ」
『THE BEYOND』11話

 

●人間になる

 「セカイ系ヒロイン」は冲方丁の言葉を使って表現すると「わたしという一人称の世界、あなたがいる二人称の世界、三人称を構成する世界の先に、人類という第四人称の世界が存在すること」(※1)を理解している人、つまり大人でした。一方「無力な少年」は「わたしという一人称の世界、あなたがいる二人称の世界」までを理解している人、つまり子どもでした。「無力な少年」であるこそうしは居場所を定めることによって「三人称を構成する世界」を理解し、知識を得ることによって「その先にある人類という第四人称の世界が存在すること」を理解しました。フェストゥムに育てられたこそうしは「三人称」と「四人称」を理解した時、一人の人間になったのです。

こそうし「ぼくはコアとは違う。
     何者にも従属しない一人の人間だ」
『THE BEYOND』12話

 

 

※1 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(ハヤカワ文庫JA)あとがきから引用。