【蒼穹のファフナー THE BEYOND】第四人称の世界

SFはわたしという一人称の世界、あなたがいるという二人称の世界、社会を構成する三人称の世界の先に、人類という第四人称が存在することを教えてくれる。
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』後書き

 全体で一つの存在であるフェストゥムは人類と出会うまで第四人称しかない存在だった。総士を通して、フェストゥムがわたし、あなた、社会、人類を理解する過程が描かれていった。

 

・一人称の世界

乙姫「あなたが総士を総士にした大事な傷。
   自分である証」
一期15話

 一騎と一つになろうとした総士は一騎に攻撃された。その時、一騎がに与えた痛みと傷によって、総士の世界は「わたしがいる一人称の世界」になった。

 

・二人称の世界

 総士が救出された時、総士は北極ミールに体のほとんどを同化されていたため、竜宮島ミールを持つ一騎を自分とは別の存在として認識した。

総士「敵のミールの鼓動。
   一騎か」
一期26話

 この時、総士の世界は「あなたがいる二人称の世界」になった。

 

・三人称の世界(ベノン)

 「わたしがいる一人称の世界」と「あなたがいる二人称の世界」を体験した総士は生まれ変わった。マリスに連れ去られ、記憶を改変された総士(こそうし)は、偽竜宮島で父(レガート)、母(セレノア)、妹(乙姫)という三人の家族と一緒に暮らしていた。

 偽竜宮島で総士(こそうし)の世界は家族という「社会を構成する最小の三人称の世界」になった。その先には家族よりも大きい社会を構成する三人称の世界であるベノンという社会が存在していたが、で総士(こそうし)がベノンと直接繋がっている証拠を直接見ることはできなかった。

こそうし「ベノンのこともエスペラントのことも放送で聞くだけです」
『THE BEYOND』2話

 偽竜宮島で総士(こそうし)の世界は、一番小さい「社会を構成する三人称の世界」である家族の先に三人称の世界であるベノンとその先にあるフェストゥムという第四人称の世界に広がることはなかった。

 

・三人称の世界(アルヴィス)

 総士(こそうし)は偽竜宮島から海神島に連れ戻されると、海神島とアルヴィスについての説明を受けた。

  史彦「第三アルヴィス、海神島。
     アルヴィスはフェストゥムに対抗するための海中要塞艦だ。
     島はその上に存在している」
『THE BEYOND』3話

 総士(こそうし)は偽竜宮島にいた時、家族の先にある「社会を構成する三人称の世界」であるベノンを見ることのできなかったが、海神島では「社会を構成する三人称の世界」であるアルヴィスを見ることができた。その後、総士(こそうし)はしばらくアルヴィスの中で暮らしていたが、アルヴィを出て美羽の家族と一緒に暮らすことになった。

 総士(こそうし)は海神島で再び家族という「社会を構成する最小の三人称の世界」に身を置くことになったが、偽竜宮島にいた時とは異なり、家族の先にある「社会を構成する三人称の世界」であるアルヴィスが見えていた。それは『THE BEYOND』8話、第二次L計画に参加するメンバーはアルヴィスの制服を着て家を出たことからも明らかである。

 海神島で総士(こそうし)の世界は、家族からその先にあるアルヴィスに広がったことで「社会を構成する三人称の世界」になった。

 

・四人称の世界

     史彦「かねてからの協定に基づき、我々が行動に出ることをお伝えする」
『THE BEYOND』5話

 アルヴィスと新国連、独立人類軍の間には協定が結ばれ、敵対する存在ではなくなっていた。ベノンに包囲されたアルヴィスに対して新国連は救援部隊の派遣を提案し、アルヴィスはこれを受け入れた。

アレクサンドラ「必要であれば、救援部隊を送ります。
        重要人物を選んで下さい」

     真矢「万一のために部隊を待機させて下さい」
   ヘスター「選別を終えていると」
     史彦「ルヴィ・カーマ、皆城総士、日野美羽だ」
『THE BEYOND』8話

 敵の追跡手段がわからず、袋小路に追い込まれたアルヴィスは救援部隊の派遣を検討し始めた。

     溝口「総士と美羽ちゃんとルヴィだけでも助けて
        俺たちは島が沈む覚悟で戦うか」
     美羽「美羽たちだけを助けたりしないで下さい」
   こそうし「その必要はありません」
『THE BEYOND』9話

 この計画を知った時、総士(こそうし)の世界は、アルヴィスからその先にある新国連に広がったことで「人類という四人称の世界」になった。