YouTubeでPVが公開され、見直した後の感想になります。2018年8月に『THE BEYOND』特報を見た時に物語の目指す方向性が見え、考えたことをほとんど書いてしまったので、PVの感想はいわば補足。『EXODUS』の時にいろいろ考えすぎて物語を素直に受け取れなかった部分もあったので、『THE BEYOND』ではあまり深く考えず、フラットな気持ちで作品を見たいと思っています。
・織姫が見た未来
織姫「一番希望に満ちた未来にたどり着いた。
行きなさい。
そしていつか島を目覚めさせて」
『EXODUS』26話
織姫は未来を見るの能力を持っていたが、アルタイルが到来した時、織姫にはどのくらい先の未来まで見えていたのだろう。織姫は海に姿を変えたアザゼル型フェストゥム、ウォーカーがベイグラントの手に落ちたことも知っているので、竜宮島が眠らせたアルタイルとともに海に沈んだ後、竜宮島が敵の手に落ちるところまで知っていたのではないだろうか。
織姫「皆が願い、わたしが生まれた。
ありがとう」
史彦「アルヴィス総員、必ずこの島に戻る」
『EXODUS』26話
織姫は竜宮島の住人が島を取り返して帰還するという未来に賭けて、竜宮島を敵の手に渡すという最善の未来を選んだのかもしれない。『HEAVEN AND EARTH』で総士がスフィンクス型フェストゥムの来主操を竜宮島に差し向けるという賭けをしたことを思い出す。(※1)
・Welcome To The Festum’s World
『EXODUS』では人間が生きていく姿が描かれていた。
織姫「どんな命も他の命を奪って生きてるわ」
『EXODUS』16話
総士「誰かが犠牲になると知りながら、
誰かを守れると信じて戦う。
それ以外に術はなかった」
『EXODUS』12話
そんな人間の生きる姿を見たフェストゥムが出した答えがこれなのだろう。
マリス「誰かが生きるために誰かが犠牲になる。
そんな世界を捨てて生きよう、総士」
『THE BEYOND』1話PV
マリスのこの考え方は『EXODUS』でグレゴリ型が一騎と真矢に言った言葉と同じである。
グレゴリ型「みんないなくなればいいのに」
グレゴリ型「ねえ、早く僕たちと一緒になろう」
『EXODUS』13話
グレゴリ型もマリスも人間に対してフェストゥムのやり方で生きようと誘っている。
・『THE BEYOND』と『RIGHT OF LEFT』
『THE BEYOND』1話PVの32秒~35秒あたりにあるこのシーンを見た時、なぜか『RIGHT OF LEFT』の以下のシーンを思い出した。
祐未「急いで! 自力じゃ出られないのよ」
コックピットが開き、同化現象により意識を失った生徒C。
僚「ゆきひろっ」
僚、パイロットCを抱えるが――パイロットCの手足に結晶が広がり、体を包む。
『RIGHT OF LEFT』(※2)
・海の向こうの世界
穏やかな日常
弓子「大丈夫、ここはずっと平和だもの」
『THE BEYOND』2話PV
この弓子の台詞を聞いた後、『EXODUS』1話冒頭の総士のモノローグを聞くと、総士の言葉が妙に心に突き刺さる。
総士「22世紀は人類にとって戦いの時代となった。
遠い宇宙から来た未知の存在フェストゥム。
人類の理解を越えた力を持つ彼らがこの星に現れてから40年、
世界の大半が戦場と化した。
『EXODUS』1話
『THE BEYOND』2話のPVに「世界はほんとはどうなっているのか」というこそうしの言葉があるけど、現実は予想以上に過酷だ。
・総士の本質
こそうし「僕は知りたい。
海の向こうには何があるのか。
世界はほんとはどうなっているのか」
『THE BEYOND』2話PV
こそうしが世界を見る視線は大人から与えられた世界観に疑問を持たなかった一期の総士の同級生と対照的である。私はなぜか総士のこの台詞を思い出した。
総士「信用できないと思ったら、即、撤退しろ」
真矢「信じてないの」
総士「可能性には賭けるが人類全体の状況は不明だ」
『EXODUS』5話
「見た目の状況に惑わされない」というのが総士の変わることない本質なのかもしれない。転生後、総士はフェストゥムによって平和な世界に閉じ込められ、何も考える必要のない状況に置かれたが、それでもその本質は失われなかった。
・総士≒コア
失われた記憶
美羽「小さい頃、こうしてたくさんお話したの。覚えてる」
『THE BEYOND』3話PV
この言葉と美羽の台詞から『EXODUS』のミツヒロと同じく、14歳のこそうしは海神島で暮らしていた子供の頃の記憶をすべて失っている可能性が高い。
3話の「運命の器」というタイトルと『THE BEYOND』3話PVには「君がこれを聞く時、もう僕はこの世にいないだろう」という台詞があったことから、おそらく3話でこそうしはマークニヒトに残された皆城総士のメッセージを聞くことになると思われる。こそうしは総士の残したメッセージを聞くという形で竜宮島やボレアリオスのコアと同じく転生前の自分の記憶を獲得することになる。
その肉体はすでに普通の人間のものではなく、島のコアに近い存在になっている。(※3)
総士は肉体だけ島のコアに近い存在だったが、こそうしは総士の残したメッセージを聞くという形で転生前の自分の存在の記憶を引き継ぐことになる。その結果、こそうしは総士よりもさらに島のコアに近い存在になるのだろう。
・フェストゥムに育てられた人間
総士は北極ミールに同化され、フェストゥムの世界を体験した後、こちらの世界に帰ってきた。しかし、人間の世界で育った総士はフェストゥムの世界を人間の言葉で説明することはできなかった。
総士「僕も何度も報告書を書こうとしたがダメだった」
『EXODUS』14話
その一方、人間がフェストゥムの世界を理解する方法も提示していた。
総士「彼らの世界に触れるには彼ら自身に触れるしかないということだ」
『EXODUS』14話
こそうしは海神島から連れ去られ、ゴルディアス結晶の記憶とフェストゥムたちと一緒に暮らすことになった。こそうしはフェストゥムによって育てられた結果、総士にはできなかった人間の言葉でフェストゥムの世界を説明することができるはずである。
・竜宮島の空から全世界の空へ
操「ここの空は俺たちのミールが奪った。
あれがコアを殺すんだ」
『HEAVEN AND EARTH』
かつてボレアリオスのコアは竜宮島の空を奪うことで竜宮島のミールを殺そうとした。そのボレアリオスのコアがこう言うのは感慨深い。
操「あの存在が空にいる限り、
この地上のどこにも平和はない」
『THE BEYOND』3話PV
ボレアリオスのコアが奪ったのは竜宮島の空だけだったが、『THE BEYOND』ではベイグラントが衛星軌道上にあるため全地球の空を奪った。『HEAVEN AND EARTH』では竜宮島上空という世界の一部分の空が奪われたが、『THE BEYOND』全地球の空に拡大されている。
・みんなから君へ
総士「君がこれを聞く時、もう僕はこの世にいないだろう」
『THE BEYOND』3話PV
『RIGHT OF LEFT』で僚はアルヴィスの所属する人々に対して音声メッセージを残したが、総士は転生した自分、つまりあなたにメッセージを残した。
SFはわたしという一人称の世界、あなたがいるという二人称の世界、社会を構成する三人称の世界の先に、人類という第四人称が存在することを教えてくれる。
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』後書き(※4)
この言葉通り、『EXODUS』ではあなたという二人称から、社会を構成する三人称の世界に向けられた物語へと変化していた。しかし、なぜか音声メッセージの聞き手は三人称から二人称の世界へと逆向きに変化した。
・すべての始まりの時
『THE BEYOND』では「逆」というのがキーになっているが、その起点はどこなのだろう。
総士「マークジーベンの武器に同化してあれを撃て」
一期26話
空に逃げようとした北極ミールに対して総士がマークザインに攻撃を命じ、それが成功して北極ミールが砕け散った瞬間ではないだろうか。その直後、フェストゥムの世界は変化した。
総士「ミールは己の死を以って、個体であることを与えた」
一期26話
北極ミールの死はフェストゥムを人間と同じように個を持つ存在への進化をもたらした(※5)。フェストゥムが個を持つということをある程度、理解した時、フェストゥムは同化した人の記憶が見えるようになったのではないだろうか。その時、おそらく同化は個を持つ人間を消す行為から同化により肉体を失った人間の心がフェストゥムの世界に行く行為へと変化してしまった。人間が地球にフェストゥムが来て居座ることを望まなかったように、フェストゥムも自分たちの世界に人間が来ることを望まなかったのではないだろうか。ヘブンズ・ドア作戦の後も人類軍はフェストゥムへの攻撃の手を緩めなかった結果、フェストゥムは人間を攻撃する方法を学んでしまったが、人間がフェストゥムを攻撃する方法を使うと自分たちの世界に人間がこないことにフェストゥムは気がついてしまったのだろう。フェストゥムが人間を理解すればするほど、その攻撃は巧妙になっていった。『EXODUS』でディアブロ型はファフナーのパイロットを乗っ取って同士討ちという人間の心理を利用する一方、武器を持たぬ無力な人間に対しては一方的な殺戮を行った。
『蒼穹のファフナー BEYOND』PVには第5次蒼穹作戦でこそうしがいる場所を示している地図があるが、攻撃しているのはその形からグリーンランドだと思われる(※6)。こそうしはすべての始まりの場所である北極にいるということになる。
・次回予告
「EXODUS」と「THE BEYOND」のプロモーションでも書きましたが、『EXODUS』と『THE BEYOND』では予告の内容も正反対だった。『EXODUS』はできるだけ本編に尺を回すために次回予告はタイトルのみだった。一方、『THE BEYOND』では1回で上映される1話~3話の各話45秒のPVを公開。劇場にまで足を運んでもらうには、ある程度、情報公開する必要があるということなのでしょう。
※1 総士は来主操が竜宮島にやってくる前、一騎にこう言っている。
総士「すまない、一騎。
これは賭けだ。
最後の手段は必ず伝える。
もしもの時は11番の扉で行け」
※2 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫)より引用。
※3 『EXODUS』公式サイトの『蒼穹のファフナー EXODUS』公式サイト内、SPECIAL/CHARACTER/皆城総士の第1話時点 情報より引用。
※4 冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫)より引用。
※5 真壁紅音の記憶を持つミョルニアは北極ミールが砕かれる前に人の記憶を理解していた。だが、北極ミールはミョルニアを同化できず、ミョルニアは北極ミールから弾き出されてしまった。ミョルニアは北極ミールが砕かれる前に個を持ったフェストゥムということになる。
※6 『EXODUS』21話に登場した世界地図を参照。そういえば、冲方丁は2018年6月にグリーンランドを旅していました。ぶらりずむ黙契録の北極航路1を参照。
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・「蒼穹のファフナー THE BEYOND」1、2、3話のPVの感想 Part1