「月刊少年シリウス」2017年11月号

 ドラマCD『No WHERE』で真矢が電話で一騎に話した翔子と甲洋の部分を電話を通して話すのではなく、翔子の墓前で直接話すという形に変更。そして、一期10話にある一騎が遠見家に行って夕食を食べるという流れになっている。一期10話のメインエピソードになっていた広登の放送室立てこもりは、テレビで突如始まった歌謡ショーを見ながら真矢と弓子が話すという形になっていた。一期10話とコミカライズを比較すると11月号での剣司、衛、咲良と広登の扱いはどことなく冲方丁によるノベライズを思い出させる。コミカライズは一騎の視点で描かれているため、冲方が脚本に参加する前のアニメでは主人公であるはずの一騎の描写がないに等しいことがよくわかる。

 公式サイトにある11月号の最新号の試し読みにファフナーは掲載されていません。

 

・広登の言葉

広登「でもさ、でもさ、この島から出られないのが嫌なんだよ。
   なんか、なんか、檻の中にいるような気がしてさ。
   一度でいいから外の世界を見てみたいんだよ」
一期10話

 学校で広登の放送室立てこもり事件が起きた後、真矢は町中で一騎に会った時に「こら、今日学校サボったな」と言っていることから、一騎はこの日、おそらく学校には行っていない。実際、広登が校庭でこの言葉を言った時、一騎は港にいた。

 一方、コミカライズで広登の放送室立てこもり事件は一騎が招かれた遠見家の夕食時に弓子がを説明するという形に変更されている。そのため、コミカライズでは弓子を経由する形で一騎は広登の言葉を聞くことになった。

弓子「頭では理解できてても
   やっぱり
   自分の目で
   確かめたかった」
弓子「何も知らないのは
   イヤだったんだってーー」

 この言葉を聞いた後、一騎は狩谷の言葉を思い出していた。ここで11月号は終わっているが、狩谷の誘いを受けるかどうか迷っていた一騎の背中を押したのは弓子の言葉ということになるのだろう。

 アニメで一騎は総士に会ったが、総士から欲しかった言葉は得られなかった。しかし、その直後、神社で会った狩谷から一騎が欲しい言葉そのものではないが、総士を理解するための鍵を提示された。狩谷の言葉に惹かれた一騎の心情は島内を放浪するという形で描かれた。そして、放送室で叫ぶ広登の言葉はあたかも一騎の本心を吐露しているように演出された。しかし、残念ながらこの演出は視聴者に向けたものであり、一騎自身は広登の言葉は聞いていない。つまり「広登の言葉を聞いた視聴者は一騎が島を出ることを納得したが、広登の言葉は聞いていない一騎は納得していない」ということになる。そのため、狩谷の誘いに乗って島を出ると一騎が決断した言葉もしくは出来事が必要ということになり、コミカライズでは広登の言葉を一騎が聞いたことにより、島を出るという決断をしたという流れに変更されている。

 

 結果的に一騎の島出に加担したのが、狩谷(意図的)と弓子(無自覚)ということになるが、二人とも島で生まれた子供の世代というのが意味深である。また、狩谷と弓子と同級生の道生も父に連れられるという形で島の外に出て行った人間である。『RIGHT OF LEFT』で竜宮島において「島を出る=大人になること」という構図が示されたが、フェストゥムが襲来したことにより、一騎の世代が従来の形で大人になることができなくなった。そのため、島で生まれた子どもである狩谷の世代が一騎を追い立て、竜宮島から引きずり出すことにより、一騎を強制的に大人にしてしまったということになる。「島を出る=大人になること」というテーマは『EXODUS』26話で剣司と咲良を通して再び描かれ、補強されることになる。

 

P.S. 一期10話の広登の立てこもりの場面は好きなのですが、主人公である一騎を描いていないという脚本上の構造の欠陥に気がついてしまい、なんとも複雑な心境です。