ファーストコンタクトSF

 『蒼穹のファフナー』が “ファーストコンタクトもの” の作品として語られることはほとんどない。なぜなのだろうか。

 

 近年、”ファーストコンタクトもの” として扱われた作品で思い出すのは、2017年4月~6月に放送された『正解するカド』(※1)。この物語は人類と異方から来たヤハクィザシュニナとの出会いを描いた物語だった。”ファーストコンタクトもの” で描かれるのはでは人類と別の知的生命体との出会い、そして別の知的生命体と出会った後の変化が、『正解するカド』は前者の人類と別の知的生命体との出会いを描くことのみに注力していた。それは犬束総理大臣の台詞からも明らかだ。

犬束「すべてが失われたわけではありません。
   我々には最も大きなものが一つだけ残されました。
   それは異方が存在するという事実です。
   私たちは知りました。
   異方という高次元世界の存在を。
   我々の前に広がる進歩のフロンティアを。
   ならば今度は人類が自らの足で
   ヤハクイザシュニナに会いに行こうではありませんか」
『正解するカド』12.5話

 物語は人類はヤハクィザシュニナの提案を拒否し、ヤハクィザシュニナを倒したところで終わった。人類はヤハクィザシュニナを通して異方の力に触れたが、ヤハクィザシュニナの存在は消えたのと同時に異方の力も消え去り、人類に何も影響を与えなかった。『正解するカド』において、別の知的生命体と出会った後の変化は描かれなかったということになる。

 

 一方、『蒼穹のファフナー』は人類と宇宙からやってきた北極ミールとフェストゥムが接触し、世界が戦争状態になってから32年後の物語(※2)である。『正解するカド』とは反対に物語の中で人類と別の知的生命体との出会いは描かれず、人類が別の知的生命体と出会ったことによる変化を描くことに力点を置いている。事実、主人公は人類と北極ミールが接触した後の生まれであり(※3)、人類とフェストゥムが融合した存在である。もっとも、主人公が属する竜宮島の住民は積極的にフェストゥムと融合した存在を生み出したのではなく、そこまでしなければ子どもを持てない状態にまで追い詰められていた。

新国連スタッフ「遺伝子操作、フェンリルの自国製造、反応炉の無認可使用。
        国際犯罪のかたまりのような集団ですね、アルヴィスって」
   ミツヒロ「生き残るため、人類からも孤立した者たちだ」
一期13話

 日本人は新国連の核攻撃により国土の80%を失ったため、生き残った人々は巨大な移動要塞艦に移り、そこが行きていく場となりました。さらに瀬戸内海ミールの遺伝子汚染から守るために子どもたちにはフェストゥムの因子が移植せざるを得ず、その結果、竜宮島で生まれた子どもたちは人類とフェストゥムが融合した別種の存在になってしまった。

 『EXODUS』で明らかになったように、地球上で人類とフェストゥムが戦った結果、フェストゥムの因子は世界中にばらまかれ、ごく一部の人間を除いて(※4)人類はフェストゥムの因子に感染していました。つまり世界中の人間は図らずも人為的にフェストゥムの因子を移植された竜宮島の子どもと同じ存在になってしまったということになります。

2095年には、人類の染色体とミールの遺伝情報が一致していることが判明。
翌年、超古代ミールが、人類を類人猿からホモサピエンスへと進化させたことが分かる。
つまり、人類の体内には染色体レベルで超古代ミールが融合していることになる。
『蒼穹のファフナー EXODUS』SPECIAL/CHRONOGY/2093年

 ヘスターはフェストゥムとフェストゥムに因子に感染した人間を抹殺して、フェストゥム因子に感染しない人間のみを生き延びさせようとしているが、昔、超古代ミールが融合したことで人類が進化したように、2114年に飛来した北極ミールに由来するフェストゥムの因子と融合することで人類が進化するという流れは歴史の必然であり、もはや止められないのかもしれない。

 

 人類と別の知的生命体が出会った時を描くことに力点を置いている『正解するカド』は”ファーストコンタクトもの” として扱われているのに対して、は人類が別の知的生命体と出会った後の変化を描くことに力点を置いている『蒼穹のファフナー』は “ファーストコンタクトもの” と言う視点で語られることはありません。もっとも『EXODUS』のラストで宇宙からやってきた新たなミール、アルタイルと接触する瞬間が描かれましたが、竜宮島のコアがアルタイルと接触し、直ちに眠らせたため、人類には何の影響も与えませんでした。人類と別の知的生命体が出会った瞬間とその直後の反応を描くことに力点を置いた作品が “ファーストコンタクトもの” として扱われているように感じます。

 

※1 TV放送終了から1年後の2018年5月22日~2018年6月4日の2週間、YouTubeで公開された『正解するカド12.5話 KADO:Beyond Information』という総集編が存在する。TV放送版とは少し違う物語展開になっている。

※2 北極ミールが地球に飛来したのは2114年、一期は2146年の物語。

※3 北極ミールが地球に飛来したのは2114年、一騎が生まれたのは2131年。

※4 『EXODUS』23話でバーンズは溝口にこう言っていた。

バーンズ「本当の目的はフェストゥム因子の消滅と
     因子に感染しない特異体質者の選別だ」
  溝口「そんな人間がいるのか」
バーンズ「5万人ほどな」