【蒼穹のファフナー】ロボットアニメの主人公像

 2019年3月30日、NHK総合で放送された『ガンダム誕生秘話』で、安彦良和と古谷徹が主人公アムロ・レイのキャラクター像について語っていた。その言葉を手がかりに『ファフナー』の主人公である真壁一騎のキャラクター像を見ていく。

 

安彦良和: 主人公というのは大体カッコいいと。 正義感にあふれていて 頭もいいか もしくは悪いか。 悪くて運動能力があって ひたすら元気とかね。 みんなに愛されるっていう中心的な主人公。

 安彦良和がガンダム以前のロボットアニメの主人公について語っているが、ここに挙げられた要素で一騎が持っているのは「正義感にあふれている」と「運動能力があって元気」という2点である。次にアムロがこれまでのロボットアニメの主人公とが違う点を挙げた。

安彦良和: 根暗で メカフェチであまり友達がいなくて。 そんなのいないですよ。

 この中で一騎が持っている要素は「根暗」と「あまり友達がいない」の2点である。(メカフェチという要素は衛に振られた)ただし、この2つの要素は一騎が生来持っていたものではなく、総士の左目を傷つけた後に獲得したものだった。つまり、一騎が総士の左目を傷つける前の性格がガンダム以前、傷つけた後の一騎の性格がガンダム以後ということになる。

 ロボットアニメの主人公がよく持っている他の要素のうち、「父の開発したロボットに乗る」は衛に振られ、「ヒロインとの恋愛」と「戦いで肉親を失う」は剣司に振られた。また『新世紀エヴァンゲリオン』で見られた「司令の息子」という要素だが、物語開始時にそのポジションにいたのは総士だった。しかし、最初の戦闘で総士の父、公蔵が亡くなり、一騎の父、史彦がそのあとを継いだため、主人公である一騎がその要素を獲得した。

 

 古谷徹: 最初にオーディションの時に 「アムロというのは戦いたくない主人公なんです」って説明されたんですよ

 『機動戦士ガンダム』以降、ロボットアニメには戦いたくない主人公が頻出するようになった。『ファフナー』の主人公である一騎はある日突然、自分の住んでいる場所に敵が襲来し、総士の代わりに戦うことを選んだが、戦いそのものについてどのように考えていたのだろうか。その答えはドラマCD『NO WHERE』にある。

一騎「俺はただ総士に言われたとおりに敵を倒してるだけで、
   島を守ろうとか、本当は、あまりそういうふうに思ってなくて」

一騎「もっとあいつらを壊したくなる。
   敵を破壊するとすごく安心する。
   ものすごく嫌なことのはずなのに。
   戦うのが楽しいと思う瞬間だってある」
ドラマCD『NO WHERE』

 戦場に立ち始めた時、一騎の戦いに対する考えはファーストガンダム以前、以降の主人公像を混ぜたものだった。しかし、た。アルヴィスからの命令により一騎はファフナーのパイロットから引退した後、父、史彦にはこんな言葉をぶつけていた。

一騎「俺はまだ完全に乗れない訳じゃない。
   俺が必要なら、使ってくれて構わない」
『EXODUS』4話

 一騎もファフナーに乗って戦い始めた頃は戦うことに対して迷いがあったが、フェストゥムとの戦いは終わりが見えず、断続的に5年間戦い続けた。そして、いつしか一騎は戦場にしか居場所のない人間になってしまった。つまり『EXODUS』以降の一騎は『機動戦士ガンダム』以前の、戦いに積極的な主人公像に近づいてしまったということになる。

 

 『ガンダム誕生秘話』の安彦良和と古谷徹の言葉から『ファフナー』の主人公である一騎のキャラクター設定を見ていったが、一騎はガンダム以前、ガンダム以降の主人公の性格を内包していることから、ロボットアニメの主人公の集大成になっています。