昨年は総士の誕生日に一期と『EXODUS』を一挙放送というハードスケジュールでしたが、今年は一期から『EXODUS』までの4作品を2日に分けて一挙放送という形になりました。プレミアム会員ではないので、本放送時は追い出されるので出たり入ったりして飛び飛びで見ました。タイムシフトで見る場合、視聴時間は本編(12時間半)+24時間。さすがに全部見るのは難しかった。ふと2011年12月、ニコニコ動画で数日間、無料配信が行われた時のコメントを思い出したのですが、今回のニコニコ生放送とは雰囲気が違いすぎて隔世の感があります。
以下は一期と『RIGHT OF LEFT』を見た時のメモです。『HEAVEN AND EARTH』と『EXODUS』の一挙を見る前にまとめました。
・第1話の脚本
公蔵「今日の夕日は、特別な色になりそうだ」
この公蔵の台詞について『月刊ニュータイプ2004年12月号』の付録『蒼穹のファフナー Log-Book』の中で以下のように説明している。
公蔵が竜宮島にフェストゥムを呼び込んだのは、島のファフナーとパイロットを覚醒させるため。
公蔵が総士を偽装鏡面の外に出してフェストゥムを竜宮島に呼び寄せたという設定でありながら、公蔵に以下のような台詞を言わせている。
公蔵「我々にはもう巨人を覚醒させるしか、生きるすべはないのか」
これはある日突然、敵が襲来した時に司令官が言う台詞だ。第1話の脚本は全体的に詰めが甘く、設定をおざなりにしていると感じる部分が多い。冲方丁が書き、アニメ放送終了後に発売されたノベライズでは設定との整合性を取ったストーリー展開になっている。
・過去、現在、未来
一期でその人が存在したという証は写真という形で表現されていたが、『HEAVEN AND EARTH』以降はいなくなった人が身につけていた物、遺品という形に変化した。写真は今を切り取りるものだが、切り取った瞬間、過去のものになってしてしまう。つまり今と過去をつなぐアイテムだった。一方、遺品は持ち主がいなくなった後、誰かが手にとって引き継ぐ。つまり、今と未来をつなぐアイテムということになる。
作品の視点が過去(一期)から未来(『EXODUS』)を見つめる方向に変わったことを端的に表現しているのは鏑木家だろう。娘がいなくなった時で時間が止まっている鏑木家を象徴するのは娘がいたころに撮った家族4人の写真だった。しかし、香奈恵は彗が引き寄せたお守りを受け取った時、やっと娘の死を受け入れることができた。そして、今やらなければいけない自分の仕事に目を目を向けることができるようになり、その結果、未来(カノンが引き寄せたものでもある)、つまりウォーカーの正体をも手にした。
逆に持ち主が生きている時に別の人の手に渡る物は不幸を呼ぶアイテムと化している。手放した人がいなくなるゴーバインのヘルメット、受け取った人には殺意を抱く人が現れ、その人に銃口を向けることになる道生の銃。
・心を持つもの
乙姫「ううん、あたしも選んだよ。
心を持つこと」
一期16話
乙姫のこの台詞からわかるように、一期でフェストゥムとは心を持たない存在だった。それ故、同化された人間は皆、感情を失った。
甲洋「これが同化されるってことなのか。
何も感じない。
悲しいことがあったはずなのに」
一期9話
咲良「なにこれ、なに。
心が消えていく」
一期21話
総士「つらいという感情が消えかけているらしい」
一期23話
一方、人間でありながらミツヒロは悲しいという感情を持っていなかった。
真矢「日野のおじさんが死んだこと、お父さん悲しいと思う?」
ミツヒロ「彼は結局、そこまでの人間だったんだよ」
一期18話
それ故、ミツヒロは真矢にこう言われてしまった。
真矢「お父さんはフェストゥムとどう違うの」
一期18話
・ファフナーに乗る理由
道生「お前が、世界のどこかに生きていることだけが、
俺が戦う理由だったんだ、弓子」
一期16話
狩谷「やっと手に入れた幸せな時間」
一期23話
道生と狩谷由紀恵という同級生二人がファフナーに乗った理由が「愛する人のため」というのが興味深い。しかし、2組のペアがフェストゥムに与えたものは正反対だった。道生と弓子のペアからは美羽というフェストゥムとの対話の道が生まれたが、狩谷由紀恵とミツヒロのペアはフェストゥムに憎しみを教えてしまった。
・竜宮島のコア
乙姫「真壁紅音が敵である彼らに命を与えたように
あたしのお母さんはこの島のミールに命を与えた」
一期22話
ミョルニアは真壁紅音が北極ミールを祝福したことで生まれたフェストゥムである。ミョルニアは真壁紅音の記憶を持っているので、真壁紅音と同一視したくなるが、血縁的には北極ミールと真壁紅音との間に生まれた娘、つまり一騎の異母妹とも言うべき存在である。『HEAVEN AND EARTH』でコアの生命を維持するためにミョルニアがコアに同化した結果、後に織姫と名付けられる島のコアは総士の妹、乙姫と一騎の異母妹とも言えるミョルニアの血を引く者になった。つまり織姫は総士の姪であるのと同時に一騎の姪でもあるということになる。もっとも『HEAVEN AND EARTH』でミョルニアが島のコアと同化した時、一騎はその場にいなかったので、織姫にミョルニアの血が混じっていることを知らない。実際、ワルキューレの岩戸を出た直後、織姫は総士にこう命じた。
織姫「総士は一騎を呼んで」
総士「一騎を……」
『EXODUS』6話
総士も目覚めた織姫からの最初の言葉が「一騎を呼んで」になるとは予想もしていなかっただろう。
一騎は竜宮島との合流直前、ハバロフスクでの戦闘でアビエイターを同化した後、昏睡状態に陥った。一騎は島の祝福を受けた後、昏睡状態から目覚めて海神島での戦闘に参加した。しかし、戦闘中は無言で、明らかに雰囲気が一変していた。
一騎「アショーカのコアが死にかけている」
織姫「希望はある。
守りなさい。
平和を願って戦いを選んだのなら」
『EXODUS』25話
島のコアに伺いを立てる一騎の姿はどこか総士と重なる。もしかしたら、一騎は島の祝福を受けた時、島のコアにミョルニアの血が混じっていることを知り、総士と同じように島のコアの意志に従う者に変化したのかもしれない。一騎は確かに自分の意志で総士と同じ道を選んだが、一騎も総士と同じく島のコアの意志に従う存在になる運命が決まったのは、おそらくミョルニアが島のコアに同化していなくなったことにより、一騎と島のコアとの間に血縁関係が生まれた時だったのだろう。
ドラマCD『GONE/ARRIVE』で史彦はミョルニアについて「あれは紅音ではない。お前の母さんはもういない」と言っているが、それに対する一騎の答えは曖昧で、一騎がミョルニアをどういう存在だと思っているのかはわからない。しかし、冲方丁が書いた小説『Preface of 蒼穹のファフナー HEAVEN AND EARTH』(※1)にこの場面での一騎の心情が描かれている。
(前略)これまでずっと記憶にとどめ続けている女性――まったく同じ姿をしたフェストゥムを目の当たりにしてのちも、史彦も一騎も、それが彼女本人だとは思っていなかった。
「紅音は、もういない」
史彦はそう言った。
一騎もきっとその通りなんだろうと思った。
史彦は一騎とミョルニアは紅音ではないと結論づけたが、『HEAVEN AND EARTH』でワルキューレの岩戸に現れたミョルニアに対して、千鶴は紅音さんと呼んでいる。
遠見「紅音さん、なぜあなたが」
ミョルニア「これが私の、最後の可能性だ。
いや、以前のコアに教えられたからだ。
この島が、私の帰るべき場所だと」
『HEAVEN AND EARTH』
北極ミールと拮抗し、自分のいるべき場所を失ったミョルニアは島のコアである乙姫と話したことで自らが持つ紅音の記憶を理解したのかもしれない。
※1 『Newtype Library 冲方丁』(2010年、角川書店)に収録。