2016年12月27日ニコニコ生放送一挙の感想

 12月27日の総士生誕祭に合わせて行われたニコ生一挙は一期26話と『EXODUS』26話を続けて放送するというスケジュールでした。リアルタイムでは見られないので、予めタイムシフト予約をしておき、年が明けてから一期、『HEAVEN AND EARTH』(1月2日、abemaTVで放送)、『EXODUS』という順で見ました。さすがに全部見るのは無理なので、11月末~12月上旬にかけてabemaTVで放送した一期は見直したい回のみ視聴、『EXODUS』は1クールは見直したい回のみ見て、2クール目はほぼ全話視聴しました。以下はその時のメモになります。

 ※最後の項目に『THE BEYOND』のティザーPVのネタバレ内容が含まれています。

 

・台詞で設定を語る

翔子「あなたのせいで、真矢ちゃん遅刻しちゃったらどうするの、だって」
真矢「大丈夫よ、あれくらいダッシュで余裕余裕。
   そんなこと気にしないでよ」
一期1話

 物語の開始直後、会話を通してキャラクターの基本的な設定を説明していくものですが、そのセオリーに従うと、足が速いと表現すべきは真矢ではなくスポーツ万能の一騎ということになる。(真矢も運動神経は悪くないが、趣味はロッククライミングだ)しかし、この会話は翔子の部屋で行われているので、翔子とは異性であり、それほど親しくない一騎では成り立たない会話である。やはり物語の導入時の最適解は冲方丁のノベライズということになる。

 

・総士の本質

総士「僕に必要なのはこの左目の代わりになるものだけだ」
一期10話

 この場面は総士が一騎に左目を見せつける映像と相まって、一騎のやったことを許しているにもかかわらず、一騎の罪悪感につけこんで戦わせようとする総士の強い意志を感じる。しかし、何度見ても、ここまで描いてきた総士のキャラクター像とのズレを感じる場面でもあった。手元にある雑誌のインタビューを再読していたら、この時の総士の行動を説明していると思われる文章を見つけた。

自分に障害をもたらした一騎の事もとっくに許しており、一騎が罪悪感を抱き続けている事を喜びつつ憐れむという複雑な感情を抱く。
能戸隆インタビュー『グレートメカニックDX18』(双葉社)(※1

 一期10話冒頭のシーンで総士の行動はまさにこの言葉そのものだった! つまり、総士は一騎の質問にいらついて(この時の総士の気持ちを言葉にするなら、真矢に言った「あいつが、あいつなら、あいつなら僕をわかってくれると思った」(※2)だろう)、総士は思わず自らの心の奥底にある感情が露呈させてしまったということなのだろう。

 インタビューの中にある「喜びつつ憐れむ」という言葉で思い出したのが、『EXODUS』9話でディアブロ型と戦っている時の総士の台詞だった。

総士「ワームスフィアの変形か、面白い」

総士「憎しみと虚無の塊、ニヒトと同じだな」
『EXODUS』9話

 総士はディアブロ型に対して文字通り「喜びつつ憐れむ」という感情を抱いていることがわかる。

 シリーズを通して総士が一騎に対する心の奥底にある本心を見せたのはこのシーンだけなので、このシーンでの総士の言動と行動に違和感を感じるのは至極当然のことなのである。


 

・個を消さないフェストゥム

グレゴリ型「ねえ、早く僕たちと一緒になろう」
『EXODUS』13話

グレゴリ型「繋がろう、僕らみんなと」
『EXODUS』21話

 フェストゥムと半同化状態の総士はかつて一騎に「一つになろう」(※3)と言った。一期26話で北極ミールは自らの死と引き換えにフェストゥムに個であることを教えたため、グレゴリ型はフェストゥムであるにも関わらず、一つになるのではなく、個であることを受け入れた上で、相手に自分の考えを強要するというやり方に変化した。それは情報統制されている人類軍を思い出させるが、おそらくフェストゥムが人類軍から学んだことなのだろう。

 

・謝罪の言葉

   弓子「基地には本格的な治療のできる施設があるんですって。
      到着するまで無事でいて」
ウォルター「借りを作るばかりだ。
      俺は、あなた方に謝らなければいけない」
   弓子「えっ」
  ビリー「ねえ、早くしてよ、ウォルター」
『EXODUS』14話

 ウォルターは3年前、竜宮島を攻撃したことを悔やんでいて、誰でもいいから竜宮島の人に謝りたかったんだと思う。ということでウォルターはまず同化現象を抑える薬を投与してくれた弓子に謝ろうとした。しかし、空気を読めないビリーのせいでウォルターは弓子に謝ることはできず、最終的に謝罪の言葉は暉に伝えた。(※4

 

・有限と無限

  総士「僕は人間として生き、命を終える。
     それもそう長くない」
『EXODUS』14話

  一騎「あと三年、それだけあれば覚悟だってできる」
『EXODUS』1話

 フェストゥムの世界を見てきた総士は永遠に生きることを望まず、そう長くない寿命を受け入れ、命を終えることを望んだ。一方、総士と違い、フェストゥムの持つ永遠を見ていない一騎は、生物としての定めである限りある命、つまり自分に与えられた余命を受け入れられずにいた。それ故、フェストゥムの持つ永遠を与えると言われた時には心が揺れ動く。

ナレイン「君なら永遠の戦士になれるだろう。
     我々のミールの祝福を受ける気はないかね。
     命の果てを越えて生きるために」
  一騎「祝福…」
『EXODUS』18話

 

・島の祝福

織姫「島が一騎を祝福する。
   一騎が望む限り」
史彦「ミールの祝福…」
『EXODUS』22話

 史彦はこの時、島のミールが一騎を祝福する時が来たら、それは一騎自身が望み、選んだ結果であるということを知ったのだと思う。

織姫「島のミールが一騎を祝福した」
史彦「なに!」
織姫「もう戻れない。
   生と死の循環を超えて。
   行きなさい、一騎」
『EXODUS』24話

 一騎はもやは父の言葉に従うような人ではないけど、史彦は一騎が島の祝福を受けないことを望んでいたのだろうか? 一騎が島の祝福を受けなかったら、確実にいなくなっていた。ただし、人として人生を終えることができた。

 その一方で島のミールの意志を知っていた総士は一騎が自分と同じ道を歩むことを望んでいた。

総士「お前も戻れ。
   まだ僕らの時間は終わっていない、一騎」
『EXODUS』23話

 

・島のミールの望み

織姫「あなたたちが戦いを選んだから。
   平和ではなく、希望のために」
『EXODUS』6話

 島のミールは島の住民が希望のために戦いを選んだことを容認したが、島の住民よりも平和を望んでいたように感じる。実際、総士のモノローグにも平和という言葉がよく出てくる。(※5

織姫「平和を願って戦いを選んだのなら」
『EXODUS』25話

 島のミールの祝福を受けた一騎に織姫はこう言ったが、総士と同じように一騎もまた島のミールの考えを理解したということなのだろう。

 

・パペットの心

一騎「人じゃない。でも、心を感じる」

一騎「俺はお前を信じる。
   お前の心は今どこにいる、ミツヒロ」
『EXODUS』26話

 どちらもベイグラントのコアの少年が作ったアイと新国連が作ったパペットであるミツヒロに心を感じた一騎が呼びかけた言葉。総士は「人と信じこまされた怪物だ」(※6)と言って消そうとするが、一騎は人とフェストゥムが作ったパペットという存在に心を感じてためらい、ミツヒロの心を信じて訴えかける。

 その一方、真矢に「全部俺がやるから」(※7)と言った手前もあるが、一騎はその心を持つはずの人に対してこう言い切った。

一騎「必要なら、俺が人類軍と戦う」
『EXODUS』25話

 この直後、父、史彦から「お前たちが学んだのは、人の怖さだけか」(※8)と窘められた。人類軍から伝説の英雄と利用されているが故に、人類軍から直接悪意を向けられた一騎(※8)にとって、父の言葉は図星だったと思われる。

 人の心を信じられなくなった一騎が作られた存在であるパペットの心は信じて、その可能性に賭けるというのは皮肉なものである。

 

・生きること=選ぶこと

 『THE BEYOND』のティザーPVの中に「総士、彼らを選ばないで」という美羽の言葉があったが、この世界では自分の信念を持ち、自分の意志で選ばないと生きていけないのだと思う。最後まで何も選べなかったビリーでさえも、何度か自分の意志で選択する機会はあった。しかし、その時、カノンと操に選べと迫った一騎のような人がいなかったことが不幸である。

 


2017年1月25日追記

エメリー「あなたは永遠の存在だとミールは言っています。
     彼らに痛みを与え続けるため、この世に居続けると」
  総士「ぞっとしないな」
『EXODUS』14話

 初見時から総士「ぞっとしないな」のニュアンスが理解できなくて、辞書で意味を調べたりしたものの、やはり腑に落ちない。先日、iOSアプリの『精選版 日本国語大辞典』(小学館)を買ったので、「ぞっとしない」を引いてみたら、これだ!と思う答えが書いてあった。

ぞっとしない
特に驚いたり感心したりするほどではない、あまり感心しない。いい気持ちがしない。

 この言葉はまさにこの時の総士の心境そのものである。

 


※1 この季刊誌が発行されたのは2011年9月、つまり『HEAVEN AND EARTH』のBD/DVDのリリース直前である。この答えに対する質問は「どういう形で平井さんにキャラクターデザインをオーダーしたのか」である。

※2 一期11話ラスト、総士と真矢の会話シーン。

※3 一期15話。

※4 『EXODUS』19話参照。

※5 「平和」という言葉は『EXODUS』の1話、2話、4話~8話、14話のモノローグに出てくる。

※6 『EXODUS』25話。

※7 『EXODUS』19話。

※8 『EXODUS』25話。

※9 『EXODUS』18話、一騎はアルゴス小隊の工作員から命を狙われた。