【蒼穹のファフナー】絶対的な肯定、共依存

・絶対的な肯定

史彦「積極的な自己否定の先にあるのは、絶対的な肯定だ。
   いつか一騎と君がそこに辿り着けることを、願っている」
一期12話

 

 本放送時(私が見たのはDVDリリース後の2005年1月)に印象に残るけど理解できなかった台詞の一つ。予想外にも続編が制作され、10年後に一騎と総士の「絶対的な肯定」が何なのか、具体的に見られるとは思わなかった。

 一騎の自己否定は一期15、16話で総士の同化未遂事件の真相を知り、総士の苦しみを知ったことで終了した。一期のDVDブックレットで一騎の変性意識はなしとなっているが、二期BD1巻の解説に一騎の変性意識の設定があることからも明白である。一騎は同化未遂事件を乗り越えたことが以下の会話でわかる。

一騎「左目は大丈夫なのか」
総士「お前と同じだ。一度失われ、戻った」
『EXODUS』6話

 予想外にも二期で総士の絶対的な肯定が描かれた。フェストゥム化しかけた総士は一騎を同化しようとしたが、反撃され左目に傷を負い視力を失った。左目の傷が人間としての証だった。一期ラストで一度フェストゥムの側に行き、『HEAVEN AND EARTH』で帰還。体はフェストゥムのものとなり、左目の視力も取り戻した。つまり総士は子供の時に一度は否定した自らがフェストゥムであるということを肯定して、存在することを選んだ。ただし、人としての証である左目の傷は残した。

 

・共依存

 一騎と総士の関係は通常の友情を越えた共依存に近いものになっている。普通フィクションでも共依存を解消して自立する方向に向かうけど、二人とも残りの人生が短く時間がないため、この状態を肯定した状態で物語が終わると思われる。『EXODUS』6話で織姫から一騎と総士が搭乗するマークザインとマークニヒトの存在は「二つで一つの力」と言われ、この二人の共依存に近い関係が作中で肯定されてしまった。ちなみにOP「イグジスト」のサビの歌詞は二人がザインとニヒトに搭乗してクロッシング状態にある時の様子を歌っていると思われる。それを裏付けするかのように7話のザインとニヒトの起動シーンでも冒頭のコーラス部分が使われていた。

 一騎と総士の関係を見ていくと一期の一騎の家出、帰還までは総士の方の依存度が高くて、一期終盤、総士が北極に拉致されてから『HEAVEN AND EARTH』での帰還までは一騎の方の依存度が高い。一騎は長年関係がこじれていた友人と和解、これからという時に総士がフェストゥムに略奪された。北極まで助けに行ったけど、あと一歩のところで助けられず、「僕は一度、フェストゥムの側に行く。そして、再び自分の存在を作り出す。どれほど時間が掛かるかわからないが、必ず」という総士の言葉を信じて島で帰る日を待つことになる。劇場版のイメージソング「FORTUNES」に一期ラスト~『HEAVEN AND EARTH』の時期の一騎の気持ちが表現されている。

 一騎は一期前半の無批判な総士への依存状態から脱して、自分で選び直している。しかし、その結果は「俺がやる、お前が望むなら」(『HEAVEN AND EARTH』)であり「お前が行くなら、俺も行く」(『EXODUS』6話)。結局「俺、やっぱり総士を選ぶわ」になっちゃってる。

 一方の総士の一騎への依存は一期12話の「安定したがっていたのは僕の方です。一騎もそれがわかっていたから」というこの台詞に尽きる。

 総士は安定するために一騎をいつもそばに置いていたい人。一期ラスト~H&Eまでニヒトをザインに封じ込めるためとはいえ、一騎に気がつかれない形にクロッシングしていたのがその証拠。総士は一騎に相当依存しているのに、他人にはわかりにくい方法で依存しているのはずるい。

 総士は二期開始の時点で両親、義姉、妹死亡で、親族は岩戸の中の姪一人とこの物語では珍しい家族のいないキャラ。姪は6話から登場したけど、実質的な母親は千鶴で名づけたのは芹。妹から姪へと変わった結果、親族はいるが家族のいない孤立した状態になったこういう場合はそばで支える存在は女性なのに、この作品だと男性の一騎。。1話のモノローグと冲方のインタビューで総士が島から出るのは確定なので、意図的にこういう構図にしているんだと思う。

 

追記:
 単独で一期11話、冲方との共同で一期15話まで担当した脚本家には共依存に近い濃い友情が理解できず、結果、BLっぽいものになってしまったんだと思う。一期のTVシリーズでは一騎と総士の共依存はそれほど描かれていなくて(23話の総士9連呼ぐらいか)、放映終了後に出た小説版とドラマCD(特に『NOW HERE』と『GONE/ARRIVE』)による補完が大きい。『HEAVEN AND EARTH』以降どんどん冲方色が強くなり、結果的に一騎と総士の関係は他人には描けないものになってしまった。