今回、冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』と冲方丁『冲方丁のライトノベルの書き方講座』に描かれている人物像を念頭に置いて一期前半を見ました。アニメに対して感じた違和感をまとめました。
・一騎の人物像
総士「あれに乗った気分はどうだ」
一騎「別に」
総士「驚いただろう。
島の人達がこんなことをやっていたなんて」
一騎「別に」
総士「それじゃあ、日本がもう存在しないってことは」
一騎「えっ、日本が」
一期2話
田舎の平和な島が突如、防衛要塞と化し、戦闘が始まった時点で衝撃を受けると思うが、一騎は斜に構えた態度を取り、総士から「日本が存在しない」と言われた時、やっとショックを受けていた。秘密基地だと喜ぶ衛と戦争という現実に耐えきれずトイレに籠る甲洋の反応の方が理解できる。
フェストゥムとの2回目の戦闘時、一騎は命令を無視して、人類軍の偵察機を助けた。この戦闘後、総士と司令に対する一騎の態度は反抗的だった。
総士「降りたぞ」
一騎「落ちたんだよ」
一騎「助けることは、悪いことなのか」
史彦「時と場合によってはな」
一期4話
一騎はイキった少年として描かれているように感じました。
・翔子と甲洋
翔子は一騎に恋していたが、一期5話まで翔子と一騎が顔を合わせることがなかったため、頻繁に顔を合わせていた甲洋へのあてつけるという形で描かれていた。
甲洋「羽佐間、よかった。
無事だったんだ。
けがは」
真矢「大丈夫」
翔子「春日井君、あのね」
甲洋「なんだ」
翔子「一騎君は?」
甲洋「真壁、ああ、無事だと思うよ」
翔子「よかった」
一期2話
翔子「あっ」
甲洋「どうした、こんなところで」
翔子「春日井君」
甲洋「大丈夫か、顔色悪いぞ」
翔子「そんなことないよ」
甲洋「ならいんだけど」
一期5話
一期5話でやっと翔子と一騎が直接顔を合わせたが、その場に甲洋と真矢もいたため、一騎への気持ちは描かれず、逆に一騎が甲洋の気持ちを逆撫でするような態度を取った。
翔子「ねえ、一騎君の番だよ」
一騎「うん、どれにしようかな」
甲洋「いいから早く引けよ」
一騎「うーん」
一期5話
結局、翔子は一騎が出撃する直前、甲洋の目の前で一騎に自分の思いを伝えた。
翔子「必ずこの島に戻って来てね。
その時にはここでアシストするから。
必ず戻って来てね」
一騎「ああ」
翔子「約束だよ。
私はあなたの帰ってくる場所を守っています」
一騎「頼む」
一期5話
プロットの時点で翔子が一騎に思いを伝えるのは、翔子がファフナーに乗る直前と決まっていたのだろう。コミュニケーションが取れない相手との恋愛が描かれた作品というと映画『トーク・トゥ・ハー』(2002年、ペドロ・アルモドバル監督)を思い出します。看護士ベニグノは看護しているアリシアを恋心を抱くようになりましたが、アリシアは植物状態であるため、言葉でのコミュニケーションは取れません。ベニグノのアリシアに対する恋愛感情は丁寧な看護という形で表現されていました。直接、コミュニケーションに取れない相手に対する恋愛感情を表現する方法が多数ある中、翔子に思いを寄せる甲洋を足蹴にするという形で翔子の一騎に対する思いを描いた結果、翔子に対する好感度が下がり、明らかに悪手でした。
独りよがりの愛を描いた物語の主人公としては、映画『トーク・トゥ・ハー』のベニグノの他に、オスカー・ワイルド『サロメ』のサロメ、ワーグナー/歌劇『さまよえるオランダ人』のゼンタなどを思い出しました。ベニグノ、サロメ、ゼンタの3人は自死、他殺とさまざまですが、すべて死亡しています。翔子は最初から悲劇のヒロインとして設定されていたことは明白なので、それならば、甲洋との関係を通して一騎に対する思いを描くのではなく、一騎に対する強い思いを描くべきでした。
・5話-負の連鎖-
一期5話では翔子がファフナーに乗って戦いに出る前日と当日の様子が描かれた。
総士「あまり、関わらない方がいい」
一騎「総士」
総士「もう友達のままではいられないんだ」
一期5話
一期5話は視聴者が総士のこの言葉を実感できる物語にすべきだった。しかし、実際にはそうはならず、徹頭徹尾、負の連鎖の物語になってしまった。
冒頭、総士は真矢の趣味、つまり真矢の価値観を否定した。
総士「パイロット候補なんだから、こういう趣味は控えた方がいい」
真矢「個人の趣味にまで口出しするの」
総士「作戦に差し障ることもあるからね」
一期5話
総士はこの後、アルヴィスで一騎を真矢を会わせないようにした。
総士「一騎、今日は向こうだ」
一騎「えっ、なんで」
総士「シミュレーションの前に前回のトレーニングを行っておけ。
わかったな」
一期5話
この結果、翔子は一騎に会うことができず、そのとばっちりを受けたのが甲洋だった。翔子は一騎に会えなかった気持ちを甲洋にぶつけてしまった。
翔子「あっ」
甲洋「どうした、こんなところで」
翔子「春日井君」
甲洋「大丈夫か、顔色悪いぞ」
翔子「そんなことないよ」
甲洋「ならいんだけど」
一期5話
この夜、一騎、甲洋、翔子、真矢の4人がアルヴィスでトランプをしたが、ここでは翔子が好きな甲洋に対して一騎が当てつける姿が描かれた。
翔子「ねえ、一騎君の番だよ」
一騎「うん、どれにしようかな」
甲洋「いいから早く引けよ」
一騎「うーん」
一期5話
この回は翔子は甲洋に無神経な態度を取り、総士が真矢に、一騎が甲洋に意地悪をする様子が描かれたことで、翔子、総士、一騎の嫌な面ばかり印象に残ってしまい、一期前半は人間関係がギスギスしていると感じられる要因の一つになっていると思われます。アルヴィスに泊まったこの日は学校に行けない翔子にとって同級生と一緒に過ごす最後の楽しい時間であることを考えると、作劇は失敗していると言わざるを得ません。