蒼穹のファフナー EXODUS 第26話-26「皆城家の物語-大人になること」

 『EXODUS』は一期のメンバーと後輩組が「大人になること」を描いた物語だった。しかし、狩谷由紀恵、道生、弓子の世代を通して一期でも「大人になること」が描かれていた。

 

●親からの独立、結婚

・道生と弓子

 人類軍のファフナー・パイロットだった道生は人類軍の作戦で竜宮島を訪れた。道生は人類軍に愛想を尽かして辞め、島に戻ることを選んだ。道生を島の外に連れだしたのは父である日野洋治だった。(※1

洋治「もし私の息子に会ったら伝えてくれ。
   島から連れ出してすまなかった」
一期14話

 日野洋治は一期14話で亡くなった。つまり道生は父がいなくなったことで親の束縛から逃れ、自分の意志で竜宮島に戻ることを選んだということでもある。

道生「ずっと帰りたいと思ってたさ。
   俺な、フェストゥム以外と、戦ったよ。
   大勢、俺と同い年くらいのやつまで。
   そのたびに、帰りたいけど帰れなくなっちまった」
一期17話

 道生は竜宮島に戻った後、弓子と一緒に暮らし始める。弓子の母、千鶴は反対していたが、史彦が千鶴に助言する。

史彦「差し出がましいことですが、
   島で新しい生活を始めようとしている者がいます」
千鶴「それは……」
史彦「道生君も弓子さんも信頼に値する人間です。
   子どもたちの成長を応援してやってください」
一期19話

 道生は弓子にファフナーから降りたら結婚しようと約束したものの、その約束を果たすことはでず、新国連が作ったもののフェストゥムに奪われてしまったマークニヒトから島を守ろうとしていなくなった。しかし、未来への希望を残していた。

 真矢「お姉ちゃん、ほんとに」
 弓子「ええ」
 千鶴「30年ぶりの自然受胎よ」
 一騎「道夫さんの」
カノン「子供?」
 弓子「こんなふうに約束を守るなんてね、あいつ。
    あなたたちが生まれてくる子に教えてあげて。
    まだ道があることを、希望があることを」
一期24話

 島のミールが人の持つ生と死の循環を学び、その結果、一度は人から奪った受胎能力を返したということになる。道生と弓子は残念ながら結婚はできなかったものの、子どもを作るという形で親になった。

 

・剣司と咲良

 道生と弓子を通して「大人になること」とは「パートナーを得て独立する」という道が描かれたが、一期のメンバーでこのルートをなぞったのが、一期~『HEAVEN AND EARTH』~『EXODUS』と順調に交際を続けた剣司と咲良である。一期から道生と弓子、剣司と咲良は似た者同士の男女のペアとして描かれていた。

咲良「弓子先生はいいですね、頼れる人がいて」
弓子「ん、だれ」
咲良「道生さんですよ。
   大人の男の人って感じ、するじゃないですか」
弓子「あ、そう。
   昔は臆病で情けなくって、目立ちがり屋で女好きのろくでなしだったわ」
一期21話

 一期の弓子と咲良の会話だが、弓子が話す若い頃の道生について話す台詞を聞いて見て思い出すのは、中学生の剣司の姿だった。実は一期21話のこの後の場面で咲良が剣司に弓子と同じ台詞を言う場面がある。

咲良「臆病で情けなくて目立ちたがり屋の女好きで、父さんと正反対なんだから」
一期21話

 道生と弓子、剣司と咲良はこの作品の中でも数少ない形になった男女のペアだが、両者に共通しているのは女性側は一応自分の意見を言うが、最終的に男性側が決めた行動を受け入れるという部分にある。

弓子「やっぱり嫌よ、できないわ」
道生「頼む、メガセリオンはもう使えない。
   今のままじゃノートゥング・モデルには乗れないんだ」
弓子「あなたはファフナーに乗れる限界の年齢まで戦ったのよ。
   今ファフナーを降りたって誰も文句なんて言わないわ」
道生「せめて後続のパイロットが育つまで降りるわけにはいかないんだ。
   今降りたら俺がこれまで奪ってきた命に申し訳ない」
  (中略)
道生「さあ、頼むよ」
弓子「お願い、死なないで」
一期23話

 

咲良「あたし乗るわよ、ファフナーに。
   まだ完全に電池切れじゃないんだから」
剣司「俺も乗る」
咲良「えっ」
剣司「アハトはジークフリード内蔵型だ。
   指揮も取れる、無人機も動かせる」
咲良「どれだけ負荷が掛かるのよ」
剣司「パイロットが減った。
   俺がやらねえと」
咲良「一人で背負わないで」
剣司「今は二人だ」
咲良「絶対、生き残らなきゃだめ」
剣司「生きよう、二人で」
『EXODUS』19話

 状況的に追いつめられた結果、道生と剣司がファフナーに乗ることを決意する場面だが、弓子、咲良ともに道生と剣司の考えを尊重し、それを受け入れている。

 

 共通点の多い道生と弓子、剣司と咲良という2組の男女のペアは違う形の未来を手に入れた。道生と弓子は結婚の約束をしたものの果たせなかったが、娘の美羽が生まれた。生き残った弓子も『EXODUS』でいなくなり、娘の美羽は弓子の妹、真矢に託された。一方、剣司と咲良は『EXODUS』で結婚し、その後の戦いで二人とも戦場に立ったが生き残った。

 

●島のコアとフェストゥム

・芹と織姫

 島のミールは道生と弓子を見て、親から独立して大人になるということを学んだのだと思う。

織姫「芹」
 芹「えっ、はい」
織姫「あなたがわたしを名づけなさい」
 芹「えっ」
織姫「わたしの名前を決めるの。
   問題ある」
 芹「あの、ありません」
織姫「じゃあ、敵を退けて。
   その後で聞くから」
『EXODUS』6話

 乙姫が転生した存在である織姫は岩戸から出た後、名付けを芹に頼んだ。日本語の「名付け親」を英訳すると”godparent”となる。godparent はカトリック教会で使われる言葉で日本語訳すると代父母。男性の場合は代父 (godfather)、女性の場合は代母 (godmother) という。

代母
カトリック教会で、生まれた子どもの洗礼や堅信礼に立ち会い、受洗者の神に対する約束の保証者となってその宗教教育に責任を持つ女性。
精選版『日本国語大辞典』(小学館)(※2

 現代におけるカトリックの信仰を持つ地域での代父母の役割については、wikipediaの映画『ゴッドファーザー』の項の説明が具体的でわかりやすい。

イタリアなどの伝統的なカトリック世界では洗礼時の代父・代母は第二の父母であり、後見人的な存在として生涯にわたり関わりが続いたことに由来している。

 つまり親のいない織姫は芹に名付けてもらうことで、いわば第二の母になってもらったということになる。島のミールはファフナーのパイロットに力を与えたが、芹のSDPはリバース、すなわち、同化の力を使って機体と自分を再生させる能力(※3)であり、文字通り不死の存在となった。

 芹「あたし、どんどん酷くなる」
織姫「あなたの場合、島を離れれば治るわ」
 芹「そんなことできないよ」
織姫「そうすべき時が来たら、迷わずそうしなさい」
『EXODUS』19話

 しかし、織姫は自分の望みを強要することなく、芹に選択の余地を残した。

織姫「芹、なにをしているの。
   島を出なさい」
 芹「織姫ちゃん、いつも一人で泣いてた。
   悲しくてもみんなを守って。
   あたしが織姫ちゃんを守るよ。
   ずっと一緒にいるよ」
『EXODUS』26話

 最終的に芹は海神島から竜宮島に戻り、織姫と一緒にいることを選んだ。織姫はアルタイルから攻撃を受けた芹を眠らせ、自らは岩戸に戻り、命を島に返した。

 

・一騎と総士

 総士は一期で妹、乙姫を守らなければならないが故に竜宮島に縛られ、島から出ていくことのできなかった。しかし、『EXODUS』では島のコアが妹から姪になり、血縁が一つ遠くなったことで竜宮島から完全に開放され、島から出て行くことができるようになった。長い島外派遣から竜宮島に戻った後、総士は織姫から未来を告げられる。

総士「まだ命は消えないそうだ」
織姫「消えた後もきっとあなたの命は続く」
総士「それは…ミールによる死と再生か」
織姫「もうひとつの島に新しいミールが根付く時、
   あなたとあなたの器が生まれ変わる。
   そういう未来が見えるの」
総士「未来…」
織姫「本当は話すべきじゃないけど、
   あなたなら未来を恐れずたどり着いてくれるから」
『EXODUS』22話

 総士は織姫の命によりニヒトに乗ってしまった以上、いずれ同化されていなくなるという運命は変わらない。しかし、総士は一度フェストゥムの側へ行ったことで、自らの意思とは関係なくフェストゥムの持つ永遠を手に入れてしまったため(※4)、地球上の生物と同じやり方、すなわち命が循環する存在となってこの世に永遠に居続けることになった。

 『EXODUS』25話で新国連のダーウィン基地へ真矢を迎えに行った総士は島で昏睡状態から目覚めた一騎の出迎えを受ける。その時、総士だけが一騎の変化――島の祝福を受け入れたことに気がついた。

 総士は一騎が島の祝福を受けたことを知った時、織姫から告げられた自分の運命を受け入れたのではないだろうか。その夜、総士は生まれ変わった自分へのメッセージをニヒトに残した。

総士「君の名を僕は知らない。
   もし君がこの機体と出会うなら、それが君の運命となる。
   僕の名は皆城総士。
   君がこれを聞くとき、もう僕はこの世にいないだろう」
『EXODUS』25話

 自分が同化されていなくなることを受け入れた総士は未来を一騎に託す。

一騎「フェストゥムの世界」
総士「その入口。
   存在と無の地平線だ」
一騎「総士」
総士「ぼくは今度こそ地平線を越えるだろう。
   無と存在の調和を未来へ託して」
一騎「総士、俺も。
   甲洋、来主」
総士「未来へ導け。
   そして互いの祝福の彼方で会おう、何度でも」
一騎「ああ、総士。
   必ず」
『EXODUS』26話

 この時、総士は自分の命が生まれ変わる存在となることを知っているので、総士はパートナーとして一騎を選んだ。芹に逃げ場を提示して選ばせた織姫とは異なり、一騎は総士が生まれ変わる存在になったことを知らないので、言葉で一騎を縛りつけるという総士のやり方はフェアではないのかもしれない。しかし、いずれ世界を祝福するという竜宮島のミールとの契約(※5)を放棄して、総士の後を追おうとしたので、一騎はこの世に居続けるためには総士が言葉で縛りつける必要があった。

 

●皆城兄妹の物語

総士「なぜここに集まる」
織姫「あなたたちもそうしてたでしょ」
『EXODUS』23話

 フェストゥムは人の行動を見て、人を知るために人の行動を真似る。

 ファフナーという物語は総士と乙姫が兄妹分離することから始まり、島のミールは道生と弓子、剣司と咲良を通して「人が大人になるということ」を学んだ。総士と乙姫が分離した後、乙姫、織姫は竜宮島に留まり、総士は竜宮島を去ることを選んだ。(総士がいなくなり、生まれ変わったのは竜宮島ではなく海神島だ)『EXODUS』は互いにパートナーを得て完全に自立=大人になったところで物語の幕が下りた。

 

P.S. 『EXODUS』2クール目のアニメイトのDVD/BD購入特典のBOXに描かれたイラストがこの記事の答えそのものだと思う。

  

 

※1 道生の母、日野恵は一期第1話で蔵前と一緒に乗っていたバーンツヴェックがフェストゥムに攻撃されて死亡した。

※2 iOS版より引用

※3 『蒼穹のファフナー EXODUS』DVD/BD7巻の解説より引用。

※4 『EXODUS』15話、エメリーの台詞。

エメリー「あなたは永遠の存在だとミールは言っています。
     彼らに痛みを与え続けるため、この世に居続けると」

※5 『EXODUS』24話でカノンの姿をした竜宮島のミールの台詞。

 カノン「お前が世界を祝福するなら、
     我々が生と死の循環を超える命を与えよう」