「THE BEYOND」を理解し終わった後の感想 Part5

 「THE BEYOND」を理解し終わった後の感想 Part4 を公開した後に書いた文章をまとめました。

 

●問いかけ

物語はその人が心に持つ何かに気づく装置です。
冲方サミット 2021年12月29日 

 私は『蒼穹のファフナー』という物語から「日本は近代国家の形をしているが、住んでいる人の価値観も近代国家の形をしているのだろうか。もしそうでないのであれば、なにをするべきなのか」と問いかけられました。追分日出子『孤独な祝祭 佐々木忠次 バレエとオペラで世界と闘った日本人』(文藝春秋)が外から見た日本の姿を描き出していたので、佐々木忠次が残した遺言の意味を考えて出した答えが、『蒼穹のファフナー』からの問いに対する答えそのものでせいた

 

●瀬戸内海ミールと日本人

冲方丁「一騎と総士の関係が、上手くフェストゥムと人類の関係になっています」
「冲方丁×プロデューサー座談会」(※1

 『EXODUS』まで一騎と総士が担っていたフェストゥムと人類の関係はこそうしと美羽に引き継がれ、一騎と総士は瀬戸内海ミールと日本人の関係に担うことになりました。

  乙姫「昔、日本のミールがあなたたちから親になる力を奪ったのは、
     生まれるってことが理解できなかったから。
     だから人を死から守ろうとして生を奪った」
一期22話

ミツヒロ「30年前、フェストゥムのコアから放たれた毒素が、
     日本人の受胎能力を奪っていった」
一期13話

 竜宮島ミールは死を理解したので、竜宮島の住人に受胎能力を奪ったがために生まれなかった子どもを返しました。

 こそうしこそ、竜宮島ミールが竜宮島の住人に返した、生まれるはずだった子どもだったのです。

 

●総士の記憶

 総士の記憶は竜宮島ミールの元に還った描写がない。なぜなのか。

 総士は自分の記憶を言葉にして、”この世” に存在するマークニヒトの中に残したので、総士の記憶はゴルディアス結晶という “あの世” には行かなかった。総士は “記憶” という形のないものを、”言葉” という形のあるものにして、この世に残した。

  総士「君の名を僕は知らない。
     もし君がこの機体と出会うなら、それが君の運命となる。
     僕の名は皆城総士。
     君がこれを聞くとき、もう僕はこの世にいないだろう」
『EXODUS』25話

 こそうしは総士と同じようにマークニヒトの中に親友だったマリスの記録を残した。

こそうし「お前ほどフェストゥムと共存した人間は他にいないんだ。
     親友として記録に残してやる」
『THE BEYOND』12話

 マークニヒトはこの世に存在し続ける総士のためのゴルディアス結晶になった。

 

●「THE BEYOND」のテーマ

 一期1話~12話を見ると、制作スタッフが理解していたファフナーのパイロットは剣司、衛、咲良の3人だけだったのではないだろうか。残りの一騎、総士、甲洋、翔子、真矢のうち、翔子は悲劇のヒロインという見たことのあるキャラクターになぞらえることができたもの、制作スタッフにとって一騎、総士、甲洋はこれまでほとんど見たことのないキャラクターだったのではないだろうか。真矢は冲方丁が脚本に参加し始めた頃から動きだしたので、ほとんど影響を受けていません。

 冲方丁は直接、脚本を書いていない一期1話~12話までの内容を分析した時、制作スタッフが一騎、総士、甲洋、翔子の考えを理解していない人が多いことに気がつき、『THE BEYOND』では一騎、総士、甲洋、翔子の考えを描くことを選んだのではないでしょうか。

 

●こそうしの口パク

 『THE BEYOND』12話、こそうしが旅に出る一騎に言った言葉を口パクにすることで、あえて『蒼穹のファフナー』という物語を画竜点睛を欠く形で終わらせたように感じました。

 

 

※1 『蒼穹のファフナー Blu-ray BOX』付属のブックレットに掲載。