「蒼穹のファフナー THE BEYOND」第10~12話の感想 Part2 を公開した後に書いた感想です。
●フェストゥムの世界にようこそ
一騎が竜宮島ミールの祝福を受けて目覚めた後、つまり『EXODUS』25話から物語の描き方が変わり、視聴者も一騎と同じく、感情のないフェストゥムの視点で見ることになりました。『THE BEYOND』では登場人物が自分の感情を独り言として吐露する場面はなくなり、プライベートなシーンは物語として必要な部分だけ描かれるようになりました。この結果、視聴者は登場人物に感情移入するのは難しくなりました。
また、視聴者は海神島の住人と同じ目線で、一騎を見ることになりました。海神島の住人が一騎とこそうしについて知っていることは、作中の台詞、パンフレット、BD/DVDの解説書の内容だけということになります。『THE BEYOND』で一騎の考え、感情、プライベートなシーンを描かないことで、一騎の空気を読めない状態にしたのです。一騎の考えや感情を知りたければ、一騎に直接、尋ねるしかないのですが、海神島の住人とは異なり、視聴者は一騎に直接、尋ねることはできません。しかし、『ファフナー』は物語であるため、物語をロジカルに読むことができるようになれば、『EXODUS』と『THE BEYOND』の一騎が何を思い、何を考えていたのかを知ることができます。
●2回目の経験
私が一足先に『ファフナー』を理解してしまった理由の一つに、RUSHというバンドの歴史を通して、この物語の大枠の物語をすでに体験していたということが挙げられます。以下にRUSHというバンドの歴史を書き出します。
RUSH | ||
1968年: | バンド結成 | |
1974年: | 健康上の理由により、バンドリーダーが脱退 | |
後任のニール・ピアートは歌詞も担当 | ||
1997年: | ニール・ピアートが相次いで家族を失ったため、バンドの活動は停止 | |
2001年: | バンドの活動の再開 | |
2015年: | (最後の)ツアー | |
2020年: | ニール・ピアートが死去 | |
バンドの活動が終了 |
次にRUSHの歴史に重ねる形で『ファフナー』の歴史を書き出します。
蒼穹のファフナー | ||
2004年07月: | 『蒼穹のファフナー』放送開始 | |
2004年10月: | 脚本家交代 | |
2004年12月: | 一期終了 | |
(総士が物語から去った) | ||
2010年12月: | 『HEAVEN AND EARTH』公開 | |
(総士が物語に戻ってきた) | ||
2015年12月: | 『EXODUS』放送終了 | |
(総士が物語から去った) | ||
2021年11月: | 『THE BEYOND』完結 | |
(総士の灯籠を流した=総士は死者である) |
RUSH のニール・ピアートの立ち位置は『ファフナー』における冲方丁であり、総士でした。『ファフナー』が冲方丁が脚本として参加した後、変わったように、RUSH は歌詞を担当することになるニール・ピアートが加入した後、変わりました。つまり、言葉が『ファフナー』という物語と RUSH というバンドを変えたのです。『ファフナー』という物語は一騎が総士の死を受け入れた時に終わったように、RUSH というバンドの命もニール・ピアートの死で終わりました。
●I wish you were here.
『ファフナー』のテーマは、一期から『THE BEYOND』まで一貫して、”I wish you were here.” だったと思います。日本語には仮定法という法がないので、この言葉のニュアンスを日本語に翻訳するのは難しい。私は高校生の時、Pink Floyd の『Wish You Were Here』(1975年)というアルバムタイトルを通して、この言葉を知りました。Pink Floyd というバンドの歴史を通して、この言葉のニュアンスを理解していきました。