「蒼穹のファフナー THE BEYOND」第10~12話の感想 Part9 を公開した後に書いた感想です。
●復讐と償い
奪われた人が奪った人にすることは「復讐」である。
こそうし「殺してやる。
お前を殺してやる」
『THE BEYOND』2話
奪った人が奪われた人にすることは「償い」である。一騎はこそうしに乙姫(フロロ)を返すことはできないので、こそうしに対して一騎にできる「償い」は、こそうしの望みをかなえることである。
一騎「お前の言う通りにするよ」
『THE BEYOND』12話
一騎はこそうしの望みをかなえ「皆城総士」の灯籠を流した。一騎は灯籠を流すことで、こそうしの妹、乙姫(フロロ)を消した罪を償ったのである。
●なぜ?
こそうしの目の前で一騎が乙姫(フロロ)を消した後、こそうしは一騎に感情をぶつけた。
こそうし「殺してやる。
お前を殺してやる」
『THE BEYOND』2話
『THE BEYOND』4話で故郷と乙姫(フロロ)を失った時の感情を整理した後、こそうしの頭の中には「なぜ一騎は乙姫を殺したのか」という疑問が浮かんだはずである。こそうしはその答えを一騎にぶつけた。
こそうし「この島と、僕のためにやったんだろう」
『THE BEYOND』10話
こそうしが答えを出すまでの過程を一切描写していないことから、視聴者に対して、こそうしがこの結論に達するまでの過程を考えるという課題が与えられたのではないだろうか。
乙姫「でも、人だけがなぜ悲しいと思うのか、
その答えを出す可能性を人は持っているの」
一期22話
あなたが人であるならば、こそうしと同じく「なぜ一騎は乙姫を殺したのか」という疑問に対して、答えを出すことができるということになります。
●マークザイン
フェストゥムとの戦いが終わった後、一騎は旅に出ることを選んだが、それは竜宮島は一騎がいる場所ではなく、総士と同じくかつていた場所になったことを意味していた。一騎は美羽に譲るという形で竜宮島にマークザインを残した。
真矢「あたし、ファフナーに乗る前の一騎君のこと、絶対に忘れないよ。
だから一騎君もみんなが元気だった頃のこと忘れないで。
戦いばかりにならないで」
一期23話
真矢はファフナーに乗る前の一騎のことを忘れないと言ったが、竜宮島の住民の多くの人々の記憶に残る一騎の姿はマークザインだというのは皮肉なものである。
父、史彦は人形、同級生の剣司と咲良は写真、真矢は一騎と一緒にいた記憶であることから、家族と友人だけが戦っていない時の一騎の姿を覚えているのだろう。
●一騎と真矢
私にとって『THE BEYOND』の一騎と真矢の物語は、ワーグナーの歌劇『ローエングリン』そのものでした。一騎=ローエングリン、真矢=エルザ、マリス=オルトルート、こそうし=ゴットフリートとなります。『ローエングリン』はローエングリンが行方不明だったエルザの弟、ゴットフリートをエルザに返した後、エルザの元を去りましたが、『THE BEYOND』は一騎が行方不明だったこそうしを真矢に託した後、一騎が竜宮島を去りました。
『THE BEYOND』はこそうしとマリスが再会する可能性を提示して終わりましたが、『ローエングリン』でエルザとゴットフリートの姿を隠した犯人であるオルトルートが和解して終わったヴェルナー・ヘルツォーク演出(1987年、バイロイト)の舞台を思い出しました。
●アキレスからマークアレスへ
一騎がアキレスをザルヴァートル化すると、マークアレスになりましたが、これをアルファベットで表記すると以下のようになります。
Achilles - chi = Alles
Achilles(アキレス)をギリシャ語で表記すると Ἀχιλλεύς(アキッレウス)となるのですが、一騎がアキレスをザルヴァートル化した時に失った chi(キ)をギリシャ語で表記すると χι となります。これをアルファベットで表記するとXI、つまり11になります。一騎はいなくなった総士の代わりに総士になろうとした結果、マークアレスが生まれましたということになります。一騎はこそうしに破れた後、こそうしに「お前の言うとおりにするよ」と言ったことから、Mark Alles(アレス、全能)から Ares(アレス、戦の神)になったのかもしれません。
●「THE BEYOND」の一騎
『THE BEYOND』は一騎が「総士が選んだ道」を歩く物語だったのではないだろうか。
総士「帰ってきたな、一騎」
一騎「お前が選んだ道を、俺も選ぶよ」
『EXODUS』25話
一騎の言う「総士が選んだ道」とはいかなるものだったのだろうか。その答えは一騎のこの言葉の直前にあった。
織姫「真矢とニヒト、両方守ったのね」
総士「僕がコアの意思に背くことはない」
『EXODUS』25話
『EXODUS』ではコアの言葉に異議を唱えることなく、黙って従う総士の姿が描かれていた。
総士「総士、一騎、今すぐ美羽を守りに行きなさい」
総士「ぼくはコアの言葉に従う。
ずっとそうしてきたように 『EXODUS』6話
織姫「あなたが憎むマークニヒトはあなただけの器。
希望のための。
捨ててはだめ」
総士「わかっている。
だが、交渉に必要だ」
『EXODUS』22話
『THE BEYOND』で一騎は自由意思を奪われ、総士のように竜宮島ミールとアショーカの指示に従うだけの存在だったのではないだろうか。
●旅立ち
朔夜「本当のあなたと島が目覚めるために」
『THE BEYOND』5話
総士=竜宮島であるため、『EXODUS』26話で総士がいなくなると同時に、竜宮島は海の中に沈んで姿を消し、生まれ変わった総士(=こそうし)が目覚めた時、竜宮島も目覚めた。
こそうし「座標。
動いてる」
『THE BEYOND』6話
総士が生まれ変わって別の人格を持つ存在になったことで、二つで一つの力(※1)だった一騎と総士は別々の力になった。総士(=こそうし)=竜宮島であるため、一騎が竜宮島から旅立つという『THE BEYOND』のエンディングは、一騎と総士が別々の存在になったことを表しているのだろう。
※1 『EXODUS』6話の織姫の台詞「二つで一つの力だから」。