【物語の読み方】「THE BEYOND」とオイディプス王

 私が『THE BEYOND』1~3話を見た時点で、ある程度、物語の構造を理解していた理由の一つは、ソポクレスの『オイディプス王』が『THE BEYOND』の下敷きになっていると考えていたからです。

 

 ソポクレスの『オイディプス王』はオイディプスが自らの出自を知る物語でした。オイディプスはコリントスの王の息子だと信じていましたが、それは偽りでした。『THE BEYOND』のこそうしは乙姫が妹だと信じていましたが、それは偽りでした。

劇の後半では、オイディプスは自分の出自探究、すなわち世界の中に自らの位置測定に熱意を見せることになる。丹下和彦『ギリシア悲劇』(中公新書)

ルヴィ「あなたがいると定めた場所があなたをあなたにするのです」
『THE BEYOND』5話

 そのため、ソポクレスの『オイディプス王』と『THE BEYOND』のこそうしは、自らが何者であるかを知った時、自分の居場所が確定することになったのです。

 

 ソポクレスの『オイディプス王』はオイディプスの出自とは真実であり、真実を知った時の姿も描かれました。

知り得たことに伴う痛みを描くことにあった。
丹下和彦『ギリシア悲劇』(中公新書)

  これこそ『THE BEYOND』2話で描かれたものでした。事実、『THE BEYOND』2話はこそうしが真実を知った時の痛みを感じたところで終わりました。

  一騎「これが真実だ。総士」
こそうし「殺してやる。
     お前を殺してやる」
『THE BEYOND』2話

 

 ソポクレスの『オイディプス王』ではオイディプスが真実を知る道筋を描き、オイディプスが真実を知ったところで物語は終わったことから、『THE BEYOND』ではこそうしが一騎がこそうしに見せたものが真実であることを理解する物語だと考えました。さらに、オイディプスはライアスを父だと知る前に殺してしまいましたが、『THE BEYOND』はこそうしが一騎の殺害を回避する物語だと考えました。つまり『THE BEYOND』がソポクレスの『オイディプス王』を下敷きにしていると気がついた時、自ずと『THE BEYOND』のゴールは見えていたのです。