【蒼穹のファフナー THE BEYOND】相互理解

 『EXODUS』は真矢が一騎を理解する物語だったのに対して、『THE BEYOND』は一騎が真矢を理解する物語だった。

 

・平気

 真矢は人類軍の兵士を言葉で説得しようとしたが、人類軍の兵士は真矢の言葉に耳を貸さなかった。

  真矢「お願い、大勢の人たちがあなたたちの助けを待ってるの。
     たくさんの子供たちが必死でここまで来たの。
     わかって」
  兵士「キャプテン」
  機長「発射用意。
     発射」
  真矢「やめてー」
『EXODUS』15話

 そのため、真矢は大切な人を守るために、半ば衝動的に爆撃機を攻撃した。

 その後、真矢がアルゴス小隊の工作員を撃った時は衝動的な行動ではなく、一騎を絶対に守るという真矢自身の考えに基づいて行動していた。

 

 真矢は爆撃機を攻撃した後、かつて総士の左目を傷つけた後の一騎と近い精神状態になっていたのではないだろうか。

  真矢「ずっとファフナーに乗ってるみたいで
     いろいろ平気になるの。
     なんでも平気な自分に」
『EXODUS』19話

 平気なのだ。
 自分はそんなことでは感情を動かされたりはしない。誰かが傷つくことも、誰かを傷つけることも、実は大したことない。(中略)
 そうして――一騎は、平気なのだと思うことで耐えられることを発見した。実際に平気になってしまった自分を恐ろしいと思うことも、やがて無くなった。
『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』二章7(※1

 この時の一騎と真矢の精神状態を表している共通の言葉は「平気」である。

 

・同化=殺人

 『THE BEYOND』2話、一騎はフロロを同化した後、下を向き目をつぶった。

 レガートからフロロについて問い詰められた時、以下のように答えた。

レガート「なぜフロロを消した」
  一騎「お前たちがみな、マレスペロに支配されているからだ。
     できれば消したくなかった」
『THE BEYOND』7話

 以上のことから、一騎にとってフロロの同化とは、「嫌だが、やらなければいけないこと」だったのは明白である。しかし、一騎はフロロを同化した時のことを誰にも話さず、眠りについた。

 

 『THE BEYOND』7話、一騎はアキレスをザルヴァートル化する時、大量のフェストゥムを同化した。

セレノア「群れを食われた」
『THE BEYOND』7話

 一騎はファフナーに乗ると「無限のクロッシング」であらゆる者の痛みを背負ってしまうため(※2) 、アキレスをザルヴァートル化した時、一騎はフェストゥムが同化される時の痛みを感じていたはずである。しかし、一騎はフロロを同化した時と同じく、アキレスをザルヴァートル化した時のことを誰にも話さず、眠りについた。

 

 かつて、一騎は真矢がアルゴス小隊の爆撃機を攻撃した後とアルゴス小隊の工作員を射殺した後、真矢の苦しみを背負おうとしたが、真矢はそれを望んでいなかった。

一騎「遠見、暉から聞いた。
   みんなを助けるためにやったって。
   遠見一人に背負わせる気はない。
   また同じことになったら、次は俺がやる」
真矢「そんなのやだよ」
『EXODUS』15話

一騎「また遠見に痛みを負わせた。
   もう戦いに出なくていい。
   全部俺がやるから」
真矢「大丈夫。
   あたし、大丈夫だよ、一騎くん」
『EXODUS』19話

 一騎は『THE BEYOND』で『EXODUS』15話、18話の真矢と同じ経験をすることで、真矢の考えを理解したのではないだろうか。

 

 

※1 <冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』(2013年、ハヤカワ文庫)より引用。/p>

※2 『THE BEYOND』第1~3話パンフレットから引用。