SFはわたしという一人称の世界、あなたがいるという二人称の世界、社会を構成する三人称の世界の先に、人類という第四人称が存在することを教えてくれる。
冲方丁『蒼穹のファフナー ADOLESCENCE』後書き
紅音、乙姫、総士、操の祝福はフェストゥムが “個” を獲得するためのものだったが、 “個” を獲得したフェストゥムに対して竜宮島ミールは “フェストゥムの世界” を祝福したのである。
カノン「お前がフェストゥムの世界を祝福するなら
我々が生と死の循環を超える命を与えよう」
カノン「お前は世界の傷をふさぎ、存在と痛みを調和させる者。
我々はお前によってフェストゥムの世界を祝福する」
『EXODUS』24話
・フェストゥムの無の世界
乙姫「家族みんなで、暮らしたいな」
一期17話
織姫「普通の家族みたいに、暮らしたかったね。
総士「それがかなう未来を願おう」
『EXODUS』22話
マリスによって連れ去られたこそうしを守るために、竜宮島ミールは一騎とともにフェストゥムの世界を祝福した結果、この世にフェストゥムの無の世界が誕生した。偽竜宮島はこの世に具現化したフェストゥムの無の世界そのものだった。海神島にいた時の記憶を改変され(※1)、偽竜宮島に連れてこられたこそうしは存在と無の地平線を超えた総士がフェストゥムの無の世界に転生し、親である総士の妹、乙姫と姪、織姫の望み-竜宮島で家族と暮らす世界-がかなった世界で暮らすことになった。
マリス「君たちが願っていた家族を作ったよ、美羽。
君もおいで。
この平和な島に」
『THE BEYOND』2話
偽竜宮島がフェストゥムの無の世界がこの世に具現化した場所であることを考えると、マリスの言葉は以前、プロメテウスが一騎と真矢に言ったことと同じことを意味している。
グレゴリ型「ねえ、早く僕たちと一緒になろう」
『EXODUS』14話
つまりマリスは美羽にフェストゥムの無の世界においで、と呼びかけていたのである。
アルヴィスが偽竜宮島を急襲した際、島の中に侵入したのは一騎、海中から偽竜宮島を破壊したのは操、一騎を追うレガートを食い止めたのが甲洋であることを考えると、偽竜宮島に触れられるのはフェストゥム、エレメント、エスペラントだけで、人間はその存在を見ることすらできないのかもしれない。
こそうし「なんだ」
一騎「お前を閉じ込めていた島が破壊される音だ」
『THE BEYOND』3話
一騎が偽海神島の偽装鏡面を破壊したにもかかわらず、空母・ボレアリオスからは偽海神島がある方角を見ても濃い霧に覆われているため、その姿を見ることはできない。
・フェストゥムの誕生
フェストゥムが無から生まれ、無に還る存在であることを考えると、こそうしにとって偽竜宮島とは人間の子宮の中だったのではないだろうか。こそうしが偽竜宮島に出た時の流れを人間の出産と比較してみた。
人間 | 竜宮島ミール | |
子宮 | 偽竜宮島 | |
ファフナーのコックピット | ||
産道 | フェストゥムのフィールド |
こそうしがマリスの命令で島の外に出た場合、産道を通って生まれる赤子のように自分の意思で島の外の世界に出ていくことになったはずだ。だが、無線の声を受信した一騎がこそうしを強引に外に連れ出したことを考えると、本人の意思とは関係なく帝王切開でこの世に生まれたようなものである。それは一騎から真実を突きつけられた時のこそうしの反応からの明らかだ。
一騎「これが真実だ、総士」
こそうし「殺してやる。
お前を殺してやる」
『THE BEYOND』2話
・三つの誕生日
『EXOUDS』26話、総士が存在と無の地平線を越える様子を見送った一騎、甲洋、操がこの世に帰ってきた後、マークニヒトのコックピットを開けるとそこには転生した総士がいた。
総士は存在と無の地平線を越え、無に還った後、フェストゥムと同じ方法で生まれたが(※2)、その姿は生まれたばかりの人間の赤子そのものだった。人間の子どもの誕生であるため、一騎、甲洋、操という三人のエレメントが立ち会った。
一騎「北極だ。
ここで多くのフェストゥムが生まれた」
『THE BEYOND』2話
『THE BEYOND』2話、こそうしはフェストゥムの誕生の地である北極で人間と同じ方法でフェストゥムが生まれる瞬間を体験するかのように、海神島でファフナーのコックピット(竜宮島のファフナーのコックピットは子宮の位置にある)に乗って島の外に出て、ボレアリオスの甲板に降ろされた。
この時のこそうしは14歳の体と心を持っており、フェストゥムが生まれてすぐに戦えるように、こそうしもすぐにファフナーのパイロットになることが可能だった(※3)。フェストゥムは親もなく、無から一人で生まれるため、フェストゥムの誕生に立ち会ったのは、偽海神島から連れ出した一騎だけだった。
総士「僕らも還ろう、命の源へ」
『EXODUS』26話
この言葉通り、総士は存在と無の地平線を越えて命の源へ還り、まず人間ととしてこの世に生まれ、次にフェストゥムとしてこの世に生まれることを体験したのである。こそうしが体験した2回の誕生を以下にまとめた。
人間 | フェストゥム | ||
生まれた年 | 2151年 | 2156年 | |
生まれた場所 | 海神島 | 北極 | |
生まれた時の状態 | 人間の赤子 | 14歳の少年 | |
何も知らない | 年相応の知識を持つ | ||
生まれた方法 | 無から生まれる | ファフナーの胎内から生まれる | |
立ち会った人 | 一騎、甲洋、操 | 一騎 |
史彦「君の本当の生まれ故郷に戻す」
『THE BEYOND』3話
マリスに連れ去られた後、フェストゥムに育てられ、フェストゥムとしてこの世に生まれたこそうしは、最初に人間として生まれた場所である海神島のミールの根元にあるマークニヒトのコックピットに戻った。こそうしは本当に生まれたのはマークニヒトのコックピットで親である総士が残した声を聞き、生まれ変わらせた時だった。
・2歳の子ども
こそうしは14歳相応の知識は持っているが、この世では生まれたばかりの子どもに過ぎない。人間の子どもとして生まれてから2年は海神島で暮らしていたので、人間から見ると2歳くらいの子どもということになる。
舞「ほっぺにお弁当ついているよ」
こそうし「よけいな真似をするな」
ベラ「ちっちゃいころを思い出すわ」
シャオ「大きくなっても変わらないわよ」
舞「もっとおかわりする」
こそうし「してやろうじゃないか」
『THE BEYOND』3話
こそうしと一緒に食事をしたアルヴィスの女性たちは見た目が14歳のこそうしに対して、幼児を相手にするかのように話しかけている。このことからもこそうしが生まれたばかり子どもであることを表している(※4)。
※1 『THE BEYOND』1巻のブックレットに以下のような記述がある。
【幼い総士】
マリスのエスペラントの能力により、幼い総士は強制的に記憶の改変をされていた。
※2 存在と無の地平線を超える総士を見送ったエレメントたちがマークニヒトのコックピットの中で赤子を発見した時、ごく普通の誕生として受け止めていたのは対象的に人間である視聴者が転生した総士(こそうし)の生まれ方に違和感を感じるのは当然である。
※3 こそうしは海神島に帰った直後、ルヴィの命によりマークニヒトのコックピットに入った。
※4 見た目と精神年齢がずれているという設定で思い出したのが『烈車戦隊トッキュウジャー』(2014年~2015年)である。