「蒼穹のファフナー THE BEYOND」第4~6話の感想 Part8

 『THE BEYOND』第4~6話、公開5週目の週末に見た後の感想(後編)です。

 

・真矢の役割

 こそうしの目の前で乙姫(フロロ)を消した一騎は、海神島に戻った後、こそうしのことを真矢に託した。

一騎「あいつを頼む」
『THE BEYOND』4話

 その後、こそうしは遠見家で暮らすようになったが、ある日、真矢に「マークニヒトに乗りたい」と申し出た。このことについてアルヴィスで話し合いが持たれ、一騎がこそうしの壁となるためにマークツェン改アキレスのザルヴァートル化の検討が開始されたが、それと同時にこそうしをマークニヒトに乗せるための訓練を行うことも決まった。その際、史彦は「それが一騎の責務を和らげてくれる」と言っていることから、パイロット・リーダーで訓練の責任者であり、一騎が唯一の本音を言うことのできる真矢が一騎が追うべき責務の一部を肩代わりするという形になっていた。『THE BEYOND』における真矢の役割は一騎のそばにいて、一騎が背負っているものを肩代わりし、支えることなのではないだろうか。

 

・一期の総士と『THE BEYOND』の一騎

 『THE BEYOND』の一騎は一期における総士と同じ役割を担っているが、一騎の周りにいる人物も一期1話の総士と同じ形で配置されている。

       一期 THE BEYOND
       総士   一騎
  守るべき者    乙姫  こそうし
    (フェストゥム)  (人間)
  司令    公蔵   史彦
  同級生  蔵前一騎   真矢

 一期と『THE BEYOND』の間でいくつかの要素がひっくり返しにされています。まず守るべき者の性別が女から男に、その存在はフェストゥムから人間に変わっています。総士の同級生は異性から同性に変化しています。また、総士と蔵前の同級生ペアでは蔵前が弱音を吐く側でした。

蔵前「平和だったのは……たった半年。
   将陵先輩たちの戦いには…それしか意味がないのかな」
『RIGHT OF LEFT』

 それに対して一騎と真矢の同級生ペアでは一騎が弱音を吐く側でした。

一騎「あいつを頼む」
『THE BEYOND』4話

 

 一期の総士は竜宮島にフェストゥムが襲撃した際、蔵前と父、公蔵が亡くなってしまったが、その後、アルヴィスは総士を支えなかったため、孤立無援の状態で乙姫を守ることになってしまった。父と蔵前を失った総士のために乙姫は一騎をワルキューレの岩戸に呼び、「総士と一緒に戦ってほしい」(※1)とお願いした。しかし、アルヴィスについて何も知らない一騎は次第に総士の行動に疑問を抱き、ついに総士に問い詰めてしまった。

一騎「ファフナーと俺たち、お前にとってどっちが大切なんだ」
一期10話

 しかし、一騎が納得できる答えを総士からは得られず、一騎は狩谷とともに竜宮島を出ていってしまった。一騎が総士を支えることができるようになったのは外の世界を見た後、竜宮島に帰ってきた後だった。

 一方、『THE BEYOND』では一騎の父、史彦が司令を務めているため、アルヴィスはこそうしの親となった一騎の負担を減らそうと努力していた。また、一期の総士の時とはことなり、同級生である真矢は一騎と価値観を共有しているため、一騎を支えていた。

 

 

・マリス

 マリスは第五次蒼穹作戦の戦闘の途中でパイロットの一騎が消えたため、ウォーカーが奪っていったマークツヴァイ改グリムリーパーに乗っている。オリジナルのマークツヴァイの機体は以下のような履歴を持っている。

■マークツヴァイ
蔵前の搭乗した機体。結局、実戦に投入されることはなく、蔵前の死後がマークエルフの修復用パーツとして再利用された。
Arcadian Project Plan L -graduation ceremony-(※2

 マリスというキャラクターの立ち位置はマークツヴァイがたどった履歴と同じなのではないだろうか。こそうしが偽海神島で暮らしていた時、こそうしにとってマリスとは自分と同じ価値観を共有する同級生だったので、蔵前と同じ立ち位置にいるキャラクターだった。しかし、こそうしが偽竜宮島の外に出た時、一騎が総士の左眼を傷つけた本当の理由を知らなかったように、こそうしもマリスの真実の姿を知らなかったため、マリスは一騎と同じ立ち位置にいるキャラクターに変化した。

 一騎は総士の左目を傷つけた時の状況を覚えていなかったが、乙姫の導きによってすべて思い出した。一騎は総士が置かれていた状況を知ることによって、総士を理解した。その結果、二人の関係は強固なものになった。

  総士「一騎、僕の見ているものが見えるか」
  一騎「ああ、見える」
  総士「行くぞ」
一期16話

 

 それに対して、こそうしが連れ戻された海神島にマリスが訪れた時、こそうしは2歳の時、海神島から連れ去られた時の経緯を知り、マリスの真実の姿を目の当たりにしてしまった。その結果、こそうしとマリスの間の関係に亀裂が入った。

こそうし「お前をずっと親友と思ってた」
 マリス「僕もさ。
     今でもね」
『THE BEYOND』5話

 この後、こそうしは自分の意思で海神島に留まることを選び、自分の力で真実を知ろうと努力していた。いつしか、こそうしにとってマリスは親友から敵へと変化していった。

こそうし「疑われたまま死ぬもんか。
     僕が敵を呼んだと思っているのだろう。
     戦って証明してやる」
『THE BEYOND』6話

 ベノンが海神島に攻め込んできた時、戦場でマリスの気配を感じたこそうしはシステムに報告した。

こそうし「マリスが何かしてる」
『THE BEYOND』6話

 こそうしとマリスの友人関係は完全に決裂してしまったのではないだろうか。

 

 一騎は総士との間にある真実(左目を傷つけた理由)を覚えていなかった。5年後、一騎がその真実を知ったことで総士を信じられるようになり、二人の関係は揺るぎないものとなった。しかし、マリスとこそうしの関係はこそうしが真実(2歳の時、海神島から連れ出した)を知ると二人の関係が維持できない内容であるため、マリスは真実を隠し続けた。事実、3年後にこそうしが真実を知った時、こそうしはマリスに失望し、二人の関係は決裂してしまった。

 

・一騎-実像と虚像-

 竜宮島と海神島の住人というごく一部を除いた人類が覚えている一騎の姿は人間だった頃のものである。

ミツヒロ「昔、カズキマカベは新国連のファフナー開発に協力してくれた。
     その時、彼の遺伝子を元に特効薬が作られたんだ」
 ビリー「素質が足らない人間でもファフナーが操縦できるようになる薬だよ」
  アイ「感謝しています、マカベ。
     あなたが私をファフナーに乗せてくれた」
『EXODUS』3話

 人類にとって一騎とはファフナー開発に協力し、人類にフェストゥムと戦う力を与えた英雄だったが、フェストゥムと戦う力は命を奪う力でもあった。

  総士「彼らの年齢で染色体変化と同化現象を受けたなら
     20代の終わりまで命が持たない。
     それが彼らの生存限界だ」
『EXODUS』3話

 新国連は因子を投与した兵士にこの事実を告げなかったことから、この事実は闇に葬り去られ、いずれ忘れ去られるのだろう。

 

 一方、竜宮島では子どもたちにフェストゥムと戦う力を与えたのは千鶴だったため、竜宮島と海神島の人々の記憶に残る一騎の姿は新国連とは違うものになるはずである。

  零央「一騎さんのお陰で生き延びた」
『THE BEYOND』6話

 SDP発現後、竜宮島ミールはパイロットの命を守るようになったが、人としての姿や心、生活までは守れなかった(※3)。しかし、一騎が竜宮島のミールの祝福を受けたことで(※4)、一騎は “存在と痛みを調和する者” となり、戦いの痛みをすべて背負うことになった。その結果、パイロットの命だけではなく人としての姿や心、生活も守れるようになった。”存在と痛みを調和する者” となった一騎とはファフナーのパイロットを守ろうとする竜宮島ミールの姿が具現化したものであるのと同時に一騎自身が望んだ姿でもあった。

  一騎「守るよ、みんなを。
     それがたぶんまだ俺の命がここにある理由だから
     これが、俺の祝福だ」
『EXODUS』9話

 竜宮島のミールの祝福を受けたことで、一騎は自らの望みである人間の命を救う存在となったということになる。つまり、一騎がエレメントになったことで、竜宮島ミールからパイロットへの祝福はその言葉通りの意味を持つ祝福へと変化した。

 人間としての真壁一騎はフェストゥムと戦う力を与えた人類の英雄であるのに対して、エレメントとしての一騎はフェストゥムと戦う竜宮島のパイロットの命を救う英雄となったのである。

 

 

※1 一期23話、キールブロックでの乙姫と一騎の会話。

乙姫「前に岩戸に呼んだ時のこと、覚えてる」
一騎「ああ、君に総士と一緒に戦ってくれって、言われた気がした」
乙姫「その通りにしてくれてありがとう、一騎」

※2 『RIGHT OF LEFT』スペシャル版付属のリーフレットから引用。

※3 『THE BEYOND』12話、史彦と織姫の会話。

織姫「島が彼らの命を守っているから」
史彦「本来の同化現象を防いだ結果と」
織姫:そう、でも命以外のものまで、守るわけじゃない」
   人としての姿や心までもは」

※4 『EXODUS』24話